ざしきわらし
11,ざしきわらし
「消えちゃった・・・」
「・・・また会えるって言ってたし、ソレで良いんじゃないかな」
「そっか。・・・そうだよね」
しずくがうなずくと、和弥はしずくの手を取る。
「教室にもどろう。・・・みんなが心配するよ。あのことはなかったことになるんだから」
「たしかに!・・・なんか、二人でサボったって言われるのは、ムカつく!」
「急ごう!」
二人は手をつないだまま走り出す。
屋上からの階段を駆け下り、自分たちの教室まで、全速力で走る。
「廊下を走っちゃいけません!って言われそー!!」
「大丈夫だよ!・・・まだ、みんな、怪談の中に囚われてたことを忘れてる最中だろうし!」
教室の目の前で来て、ドアの前に誰かが立っているのを確認する。
「え?・・・あんな子、いたっけ?」
思わず立ち止まったしずくがつぶやく。
「・・・まだ、入らない方が良い。・・・その間、ボクと話をしない?」
にこり、と笑った少年は、真っ白な肌で、やわらかそうな黒い髪の毛がさらさらと風にゆれていた。しかし、その目は真っ赤。どこか、アンバランスなその存在に、しずくたちは立ちすくむ。
「・・・今回は、たくさんの迷惑をかけて、ごめんね」
「・・・っ・・・もしかして・・・」
「・・・そう。・・・ボクは、君たちの言うところの、ざしきわらし。・・・この学校の守り神とでも言おうかな?・・・七不思議から生還した君たちなら、ボクの言うことが理解できるだろう?」
こくり、と二人がうなずくと、彼は満足そうに微笑む。
「和弥。しずく。・・・君たちは、この学校の裏と表の狭間の世界を見聞きした。それは、なかなか体験できることじゃない。・・・どうか、ボクらのことを忘れないで。・・・ボクたちが存在できるのは、その、存在を信じられているからだ。・・・大人になれば、そんなことを信じる人間も少なくなる。・・・でも、七不思議があったな、とか、何らかの形で、ボクらを思い出してくれる。・・・信じること。信じられること。・・・それが、最大の力になる。・・・和弥の言うとおりだ」
「・・・霊が存在するのは、あたしたちが信じてるからなの?」
「そうだよ。・・・この国は特に、そういう迷信が伝えられることが多いからこそ、ボクらのような存在がここちよくいられる。・・・伝承や民話として残っているために、力のある霊が多い」
彼は、嬉しそうに微笑み、和弥としずくの空いている方の手を取る。
「・・・大人になっても、子どもの頃の気持ちを忘れないで。・・・ボクらは、君たちのすぐとなりにいつもいる。・・・いつでも、君たちを見守っている。・・・さあ、時間だ。・・・教室の中に入って。そうしたら、いつもの一日が待ってるよ」
彼に背中を押され、しずくたちは教室の中にたたらをふみながら、入る。しずくはあわててふりかえり、彼の赤い目と視線をあわせる。
「またね!」
その言葉に、彼はびっくりしたように目を見開き、そして、満面の笑みをうかべた。
「また、ね」
そして、すう、と彼は消えてしまった。
その直後、教室にざわめきがもどる。
「しずく!かずくん!!何ぼーっとしてんのよ!!・・・授業がはじまっちゃうわよ!!」
クラスメイトの声に、ハッとわれにかえった2人は、あわてて、自分の席にすわって、準備をはじめる。
いつもの一日。
いつものクラスメイト。
その裏では、非日常があたりまえのように存在している。
― またね。
終演




