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その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


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よい子のみんな真似しちゃだめ


二度目の抜刀を終え、友丸は紫刀を鞘へ収めた。


甲冑から立ち昇っていた煙も、ゆっくりと薄れていく。


一方、コメント欄が静まる気配はまったくなかった。


《ZAAAAAAAAAN!!》


《ZAN! ZAN! ZAN!》


《SAMURAI!!》


《MY SON IS DOING ZAN!!》


《斬!!!!》


どうやら『斬』は、海を越えたらしい。


国内勢はもちろん、海外からのコメントまで『ZAN』で埋め尽くされている。


友丸はしばらくその惨状を眺めていたが、やがて何かに気づいたように甲冑へ目を落とした。


「……一応、言っとくぞ」


コンがカメラを向ける。


「この煙、甲冑の機能だからな」


先ほどまで全身から噴き出していた煙は、演出のために友丸が用意したものではない。刀と一対になっている甲冑そのものの機能だ。


問題は、それを知らずに見た目だけ真似する人間が出かねないことだった。


「格好いいからって、間違っても防具の中で火を焚くなよ」


コンが黙った。


コメント欄も一瞬だけ勢いを失う。


「下手すれば死ぬからな」


《誰がやるんだよ》


《いや待て、絶対やる奴いる》


《世界は広いぞ》


《PLEASE DON'T》


《子供には絶対やらせるな》


冗談で済ませていい話ではない。


友丸もそこは分かっている。


「世界中のマスコミも政府も、そこはちゃんと注意喚起しといてくれ」


世界中の政府と報道機関へ向けて、本人から直々のお願いだった。


今回の配信を始めた理由を考えれば、必要な注意でもある。


すると隣から、ぱん、と手を叩く音がした。


「ということで、世界中の企業の皆さーん!」


コンだった。


先ほどまでの真面目な空気はどこへ行ったのか。


「チャンスですよー!」


「何が?」


「安全で無害な煙が出る甲冑を開発しましょう!」


「……そこ?」


「絶対売れます!」


即座にコメントが返ってくる。


《欲しい》


《買う》


《PLEASE MAKE IT》


《子供用お願いします》


《もう開発会議始めてる会社ありそう》


コンが得意げに友丸を見る。


「ほら!」


「ほら、じゃない」


事故を防ぐための注意喚起をしたはずなのに、なぜか新商品の需要が生まれていた。


世界は広い。


たぶん本当に作る企業が出てくる。


友丸は考えるのをやめ、今度は腰の紫刀へ手を置いた。


「あと、刀も異界でメイン武器にするのはあんまり勧めない」


《え?》


《刀も駄目なの?》


《撮影者さん使ってるじゃん》


《SAMURAI SWORD!》


「刀はちゃんと扱えないと、すぐ刃こぼれする。変な当て方すれば折れるぞ」


大型の魔物には、人間とは比較にならないほど硬い皮膚や甲殻を持つものもいる。


力任せに叩きつければいいというものではない。


「使うならちゃんと練習しろ。慣れてないなら、他の武器も持っていった方がいい。魔物にあった武器を使え」


今度こそ真っ当な注意喚起だった。


コンも神妙に頷いている。


「なるほど……」


「分かったか?」


「分かりました!」


大きく頷く。


そして、カメラへ振り返った。


「ということで、世界中の企業の皆さーん!」


「おい」


「折れにくい刀を開発するチャンスですよー!」


「お前、さっきからそればっかりだな」


「だって絶対売れますよ!」


《買う》


《欲しい》


《異界用SAMURAI SWORD》


《ZAN SWORD》


《TAKE MY MONEY》


《日本企業頼んだ》


「ほら!」


「だから、ほらじゃないって」


もう好きにしてくれ。


友丸は諦めた。


注意することはした。


ここから先は、各国政府と企業の仕事である。


「では皆さん!」


コンがカメラの前へ出る。


どうやら、ようやく締めに入るらしい。


「今日のコンちゃんねるはここまでです!」


いつもの明るい声で手を振る。


そこで何かを思い出したように、人差し指を立てた。


「最後に、よい子のみんな!」


「ん?」


「傘やホウキで『斬!』する時は、必ず周りを確認しましょう!」


《ZAN!!》


《息子に聞かせてる》


《大事》


《YES!》


「家の中ではやらない!」


両腕で大きくバツを作る。


「それから、周りの大人の人にやっていいか聞いてからやりましょう!」


《はーい!》


《YES KON!》


《MY SON SAID YES》


《よい子の約束》


数分前まで次元が切断される光景を配信していたチャンネルとは思えない。


だが、友丸もこれには異論がなかった。


「あと、人には絶対向けるなよ」


「そうです! 人に向けるのは絶対禁止です!」


コンが満足そうに頷き、改めてカメラへ手を振った。


「それでは皆さん、また次回の配信でお会いしましょー!」


それから友丸を見る。


「撮影者さんも最後に!」


「俺も?」


「ゲストですから!」


仕方なく、友丸もカメラへ手を上げた。


「じゃあな。真似するなら安全にな」


《ZAN!!》


《ZAAAAAAAAAN!!》


《BYE SAMURAI!!》


《撮影者さんまた来て!!》


《コンちゃんありがとう!》


《ZAN! ZAN! ZAN!》


最後までコメント欄は『斬』で埋め尽くされていた。


コンが配信終了の操作へ手を伸ばす。


そこで――止まった。


「…………え?」


「どうした?」


返事がない。


コンは画面を見たまま固まっている。


「コン?」


「……撮影者さん」


「なんだ?」


「これ……」


声が小さくなる。


普段の近藤へ戻りかけていた。


「同時視聴者数……」


友丸も画面を覗き込んだ。


そこに表示されている数字を見て、さすがに一度目を疑った。


一億。


しかも、すでに僅かに超えている。


「…………」


「…………」


二人でしばらく数字を眺める。


やがてコンが、ぽつりと呟いた。


「……一億人、超えてます」


氷竜討伐の映像で世界中から注目された『撮影者さん』。


その本人が初めてまともに姿を現し、世界各国で問題になっている模倣へ注意を呼びかけた。


そこへ異界産の甲冑。


二メートル近い紫刀。


甲冑から噴き出す煙。


地平線まで届く次元切断。


そして――『斬』。


気づけば、とんでもない数の人間が同じ映像を見ていた。


友丸はしばらく一億という数字を眺めていたが、


「まあ」


甲冑姿のまま、肩を竦めた。


「世界中に注意喚起できたなら、いいんじゃない?」


「……そういう感想になります?」


コンが呆然と呟く。


その直後。


一億人以上が見守っていた配信は、何ともあっさり終了した。

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― 新着の感想 ―
ZAーーーーNN
ZAN!ZAN!!ZAN!!!! ZAAAAAAAAN!!!!!www
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