↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
160/160

黒田


「この先は、まだ政府の調査が入っていません」


 香菜の端末では、道を示す線が現在地で途切れていた。その先にも岩の間を縫うように道は続いている。地図がなくなっただけで、歩けなくなるわけではないらしい。


「頼むぞ、香菜」


「はい」


 少し進むと、土に埋もれた四角い石が、奥へ向かって並んでいる。欠けた角も継ぎ目も砂で埋まりかけていたが、道幅いっぱいに敷かれた箇所では、何列も揃っているのが分かった。


「爺さん。これ、誰かが敷いたんだよな?」


「ああ。道を造ったんだろうな」


 その道の先には、橋まであった。


 深い峡谷をまたぎ、対岸の岩場まで続く石橋だ。欄干はあちこち欠けていたが、橋を支える大きなアーチは残っている。床にも同じ敷石が並び、向こう岸へ渡ってからも、岩の間へ続いていた。


「こんな所に、橋があるのかよ」


 誰かがここへ石を運び、組み上げたのだ。下を覗けば足がすくみそうな谷に、わざわざ橋を架けてまで通う場所があった。


 友丸は対岸を映した。道は大きな岩の陰へ入り、その先が見えなくなっている。


 あの岩さえなければ、もう少し先まで見えるのに。


「これは、向こうも見に行きたいね」


 ジョージも、同じ場所を見ていた。


「橋があるってことは、道もまだ続いてるんだろうな」


「行ってみれば分かるさ」


友丸は橋を画面に収め、端末に流れてきたコメントを読んだ。


 《待って、橋!?》


 《政府もまだ調べてない場所だよな?》


 《誰が造ったんだ、これ!》


 《欄干まであるぞ。普通に人工物じゃん!》


 《向こうに街とか遺跡があるんじゃないの!?》


 《渡ってくれ! その先が見たい!》


「渡れそうか、香菜?」


「確認いたします。その前に、橋の左手をご覧ください」


 谷底の岩場が、鎧サイで埋まっていた。


 灰色の背がいくつも重なり、その間から大きな角が突き出している。伏せていた個体が立ち上がると、隣の一体に外殻をぶつけた。押された方が角を振り、さらに別の個体が邪魔そうに場所を移す。

 

岩場は広いが、魔物の巨体のせいで狭く見えた。


「何体いるんだ、あれ」


「五十体です。すべて鎧サイです」


「五十……」


さっきは、突進してくる二体だけで道が埋まって見えた。谷底には、同じ魔物が何体も集まっている。友丸は映像を拡大して数え始めたが、巨体が重なり合っていて、どこまで数えたか分からなくなった。途中で諦め、映像を元に戻した。


「鎧サイが、あんなに固まっているのは初めて見るな」


 十蔵の声にも、普段とは違う硬さがあった。


「最近のモンスターパレードも気になっている。あの数が一緒に動き出したら、厄介だぞ」


「まだ集まってくるかもしれないね」


 アルフの言う通り、谷は群れの向こうにも続いている。見えない所に、ほかの個体がいないとも限らなかった。


「ここで片づけておこう。撮影者、そいつをくれ」


 燿が欲しがったのは、朝から友丸の肩をふさいでいる長い包みだった。


「これを使うのか?」


「せっかく持ってきたんだ」


「持ってきたのは俺だけどな」


 燿は笑って受け取り、平らな岩の上で封を解いた。札と三本の黒い帯が外れ、厚い布の下から白い刀身が現れる。


 斬馬刀を思わせる、幅広い刃だった。長い柄まで白一色で、全長は三メートルほどある。燿が持つと、その先端は隣にいるアントニオよりも高いところにきた。


「そいつを使うところも、久しぶりだな」


「今日は、持ってきて正解だった」


 友丸は刀の先まで画面に入れた。朝から視聴者に見えていた長い包みの中身が、ようやく映る。


 《でかすぎるだろ!?》


 《刀身まで真っ白だ》


 《相手、鎧サイ五十体なんだけど!?》


 《黒田って爺さん一人でやるのか?》


 《ジョージたち、普通に任せてるぞ》


「少しは加減しろよ」


「分かっとる」


 アントニオに答えた燿は、橋から離れた崖のはしで刀を構えた。はなやマルリアは道の脇におり、こはくもはなの腕に抱かれている。友丸には、燿の斜め後ろが撮りやすそうだった。


 白い刀が光り始める。


 最初は刃が照り返しているように見えたが、すぐにそうではないと分かった。燿の手元から切先までが明るくなり、刀の影が消えていく。


「魔力を吸っているのか?」


「ああ。使い手から吸い上げて、溜めた分をまとめて撃ち出す遺物だよ」


 アルフの説明を聞いて、友丸は香菜がまとめている札を見た。


「だから、あんなに封をしてあったんですね」


「運んでいるだけで吸われては困るからね」


 刀はまだ魔力を吸っていた。眩しくて、もう刃の形がよく見えない。


 燿に、止める様子はなかった。


「どこまで入れるつもりだ、お前」


 十蔵に聞かれ、燿は光る刀を少し傾けた。


「こんなもんでいいだろう。まだ余っとるがな」


「相変わらず、馬鹿みたいな魔力量だな」


 燿の笑い声に続いて、白い切先が谷底へ向いた。


 群れの端にいた鎧サイが顔を上げる。角をこちらへ向けた、その頭を白い光が呑み込んだ。


 刀から噴き出した光は、谷底まで一直線に届いていた。


 厚い外殻が、光に触れたところから溶けていく。背を覆う鱗が垂れ、大きな角が曲がった。巨体が沈み込むと、その下の岩まで赤くなり、流れ始める。


 燿が刀を横へ動かした。


 白い光が、群れを薙いだ。


 逃げ出した一体は、前脚が溶けて倒れた。頭を下げた別の個体も、その脇を駆け抜けようとした個体も、続けて光に包まれる。


 谷底から響く轟音に、熱風が重なった。


 友丸は思わず目を細めた。頬が熱い。カメラの画面も白く飛び、群れのいた場所は見えなくなっていた。それでも撮影だけは続け、光が途切れるまで待った。


 ほんの数秒だった。


 映像が戻ったとき、谷底には赤く溶けた岩が広がっていた。


 灰色の背中は、一つもない。


 端の方に外殻らしい塊が残っているが、角なのか胴なのかも分からなかった。大きな岩の縁から、赤く焼けたものがゆっくり滴っている。


「すべて倒れています」


「少し入れすぎたか」


「だから、加減しろと言っただろ」


 アントニオの声に、ジョージが笑った。


 燿は白い刀を抱えて戻ってきた。あれだけ魔力をこめた後なのに、平気な顔をしている。


 友丸が端末を見ると、コメントが読めない速さで流れていた。


 《ビーム出たああああ!?》


 《刀から撃ったの!?》


 《鎧サイ五十体、今ので全部!?》


 《岩まで溶けてるんだけど!》


 《何者なんだよ、あの爺さん!》


 《さっき元Sランクの爺さんに聞いた者だけど、黒田燿さんは元世界三位だったらしい》


 《はああああ!?》


 《三位って、世界三位!?》


 《日本人だけど黒田なんて初めて聞いたぞ!?》


 《なんでこんな人が知られてないんだ!》


 《昔、アメリカでSランクをやっていた。なぜ日本人まで黒田を知らないんだ? 俺たちの世代なら有名な人だぞ》


 《日本人だって今初めて知ったんだよ!》


 《撮影者さん、先に言ってくれよ!》


「何を騒いどる?」


「爺さんの昔の順位だよ。聞いて驚いてる」


 友丸は配信へ答えた。


「ああ。爺さんは元世界三位だぞ」


「そんな昔のことまで、まだ覚えとる奴がおるのか」


 燿には、そちらの方が不思議らしかった。


「わしはもうとうに引退しとるぞ」


「今さらそう言っても、あれを見せた後じゃね」


 はなに言われ、燿も笑った。


「あいつら、どこから集まったんだろうな」


 友丸は谷の奥を映した。今見える範囲には、ほかの魔物はいない。


「近くにいた連中が集まったのか、遠くから来たのか。そこまでは分からん」


 十蔵の気掛かりは、群れを倒しても残っていた。


「櫻子に映像を渡そう」


「頼む。ほかで起きている群れの移動と比べてみたい」


 刀の光が消える頃には、香菜が布と帯を用意していた。包み直して札を戻せば、外に見えるのは白い柄だけになる。


「撮影者。また頼むぞ」


「分かった。けど、次はもう少し短い武器にしてくれ」


「長い方が使いやすいんだがな」


 自分で持つ気はないらしい。友丸はひとまず包みを岩に立てかけ、水筒を取り出した。


「少し休んでから行こうか。橋も、まだ確かめてないんだろう?」


「はい。確認してまいります」


 香菜の声で、皆も荷物を下ろした。


 こはくははなの膝に収まり、背中を撫でてもらっている。谷底があんなことになっていても、気にしてないらしい友丸と目が合うと、前脚を上げた。


「みゃ」


「お前も、橋の向こうが気になるか」


 もう一度、前脚が上がった。


 友丸は水を飲みながら、対岸の岩を眺めた。あの裏へ回れば、道の続きが見える。橋を渡った先にも、誰かが使っていた場所が残っているかもしれない。


 カメラにも、その道の入口を映した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
友丸の事は本気で秘匿、香菜さんはまぁバレてもそこまで致命傷じゃないって事なのかね
香菜さんの名前普通に呼んでるけど大丈夫なの? 狐面とか気を遣ってた人もいたのに
元祖斬
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。