ランキング外の撮影者
エキシビションから三日後。
世界ランキング戦はすべての日程を終え、新たな順位が発表される日を迎えた。
その日の営業を終えた絢香の店では、カウンターの上に一台のタブレットが置かれている。開かれているのは大会の公式配信で、映像の横では視聴者のコメントが流れていた。
「本当に会場へ行かなくてよかったの?」
絢香が、友丸の前へ夕食を置く。
「俺は参加者じゃない」
「大会で一番話題になった人が言っても、説得力ないけどね」
「撮影に行っただけだ」
「途中から撮られる側になってたでしょ」
友丸は答えず、箸を手に取った。
配信に映っているのは、都内の大型ホテルに設けられた発表会場だ。大広間には各国政府や大会運営の関係者、報道陣が集まっている。
世界ランカー本人の姿は少ない。
『出席は義務ではありませんからね。審査を終え、すでに自国や次の活動先へ向かった冒険者もいます』
そう説明したのは、会場後方の放送席に座る田中だった。大会が始まる前にも、世界ランキングについて解説していた男である。
「またこの人か」
「大会中、ずっと仕事してたね」
「家に帰れてるのか?」
「余計な心配しなくていいから」
五十位から始まった発表では、入れ替わりの多い下位を中心に、何人かの名前が変わった。
四十九位には、午前中の試合でレオを破った冒険者が入った。レオの名前は五十位にもなく、これでランキング外が確定する。
「約束は守ったし、もういい?」
「二度と絡んでこないならな」
「そこは譲らないんだ」
その後は、友丸の知る名前が次々と発表された。
《ヴァルカ》のケンとアン、三十二位のザックズ、二十一位のカヅチ。二十位以内にいるギルとテルスの双子も、前回と同じ順位を守った。
十位はユリア。二位は塁。
上位に大きな変動はなかった。
『以上の五十名が、今回決定した世界ランキングとなります!』
発表が終わり、大型モニターに五十人の顔と名前が並ぶ。
友丸の知る世界ランカーは、ほとんどが以前と同じ順位に残っていた。
その中に、撮影者の名はない。
『田中さん。元世界四十九位のレオ選手を破った撮影者さんが、ランキングへ入っていないことを疑問に思う視聴者も多いようです』
『撮影者さんは、今回の審査対象ではありませんからね』
田中は表示された順位表へ目を向けた。
『ランキング外から審査を受けるには、所属国政府の推薦が必要です。レオ選手との試合も正式な順位決定戦ではなく、双方の合意で行われたエキシビションです。その勝敗だけで順位が与えられることはありません』
『三年後、日本政府から推薦される可能性はあるのでしょうか?』
『これだけの実力を見せた以上、候補になっても不思議ではないと思います』
「余計なことを言うな」
「田中さんには聞こえてないよ」
撮影者の話題に変わった途端、コメント欄の流れが速くなった。
絢香がタブレットを友丸の方へ向ける。
《実力だけなら何位なんだ?》
《田中さんでも予想できないか》
《三年後は日本政府が推薦しそう》
《本人が断りそうだけどな》
「最後の人は分かってるな」
「本当に断るの?」
「ああ」
「世界ランキングに入れば、今より大きな仕事も選べるよ」
「仕事が増えるだけだろ」
「それもそうか」
公式配信が終了すると、画面に関連動画の一覧が表示された。
ドラゴンを正拳で倒した瞬間。レオの拳を正面から受け止めた場面。塁と言い合う姿を切り抜いた動画まである。
新たに選ばれた五十人よりも、撮影者を扱った動画の方が目立っていた。
友丸はタブレットの画面をそっと消した。
「五十人も発表されたんだぞ。そっちを取り上げればいいだろ」
「上位はほとんど変わらなかったでしょ。それより、正体不明の撮影者さんが元世界ランカーに勝った方が話題になるのは当然よ」
「迷惑な話だ」
「自分で試合を受けたんでしょう」
「受けないと、つきまとわれるところだった」
「その結果、今度は世界中から追いかけられてるけど」
友丸は返事をせず、残っていた料理を口へ運んだ。
「大会が終わって、これからどうするの?」
「しばらく休む」
「あんた、大会中もほとんど家でテレビ見てただけでしょ」
「一日は働いた」
絢香が笑い、空になった皿を指す。
「おかわりは?」
「もらう」
「撮影者さんの話は、しばらく終わりそうにないわね」
三年に一度の世界ランキング戦は、こうして幕を閉じた。
次のランキングに自分の名を加えるつもりも、友丸にはなかった。




