47 ハッピーエンドのテンプレ
「へっ?いやいや、偶然......というより、なんなの?この自分勝手な文面は。遺体じゃなければ殴り飛ばすわ。いえ、遺体だからさっさと灰にしましょう。
初代聖女もあきらめてちょうだい。今更、私の愛する人だと気づいてもあげないからね」
私は、この手紙を読んでいいしれない胸糞の悪さを感じた。
なんだかんだいって、クルデラのことを何も考えてないじゃないの。
「偶然.....?」
クルデラが困惑したように私を見つめる。
だからわたしは初代聖女じゃない!
偶然だ。かけらにもそんな記憶はない。
「偶然です!ほら、はい!火をつける」
クルデラは頷き、火焔の術を施す。
祠の中には二つの遺体と賢者の石のレシピ、手紙が火柱の中で燃やされていく。
わたしは、人目もはばからずにクルデラを抱きしめた。
迷いが生まれているクルデラのために、私が代わりに怒鳴りつけてやる。
棺に向かって怒りと共に叫ぶ。
「あんたたちなんて灰になったらいいわ。クルデラを愛して、愛し尽くして、骨抜きにするのは私よ。形だけの愛なんて語るな。自分が自分で気づきもしないものを愛なんて呼ぶな。ぜんぶあなたたちが作った世界なんて壊し続けてやるわ。クルデラと共に生きて共に死ぬのはわたしだ!」
そう叫ぶと炎は、赤から青に、ごーっと音を立てて燃え尽くされる。
叫ぶ姿に、遠くから火葬を見守る王族や宰相、貴族、それを見守る神官がざわめいているのが見える。
「そうだな。俺が愛しているのはこのチヅルだけだ。もう、聖女も終わりだ。そういう仕組みをこれから作る予定だ。だから、静かに安心して眠ってくれ」
クルデラは抱きしめてくる私を頬に擦り付けるように抱きしめ返す。
クルデラの炎は静かに何時間も燃え、棺の中で高温で焼かれ、全てが終わった後は、骨どころか灰すらそこには残らなかった。
◇
「骨すら残らない高温...凄すぎませんか?」
地に戻す予定じゃなかったの?
そう思ったが、この世のどこにも残さない方がいい判断に切り替えたのかと思い、口をつぐんだ。
「だって、チヅルは墓参りでもしようものなら嫉妬するだろうし、嫉妬させたい気持ちもあるけど、苦しい気持ちにさせたくないし」
全てが終わり石棺も、魔法により粉々に砂になり、風と共に去っていった。
「この後なんだけど、浄化魔法が溜め込めるクリスタルの石柱を魔術師たちと作る予定なんだ。」
クルデラはわたしの手を引っ張りながら、魔術師や神官たちの労いの言葉に、お礼を言いながら歩き続ける。
「浄化魔法が溜め込める?」
どこへ連れて行こうとしているのか?
そう思いながらも、とにかくクルデラを一人にするわけにはいかないと必死にそばから離れないように気をつける。
あんな自分勝手な養父に、勝手に嫉妬されて、やっとわたしと生活を始めようとしていたら、初代聖女の前世と私が同じ名前だったなんて、なんて嫌がらせのようなタイミング。
だが、クルデラは私の心配をよそに微笑んだ。
「神官たちだって、君ほど力は強くないが小さな浄化はできるんだよ。神殿を解体して、神官たちは、そのクリスタルを国の主要な場所に埋め込んで駐在してもらう。そして、代々これからはそこに神官たちが浄化魔法を貯めていく。」
「それだと、その場所だけ浄化された形にならないかしら?」
わたしは首を傾げると、クルデラも頷いた。
「そうだ。だから、クリスタル同士が蜘蛛の巣で全てが繋がるように魔術師たちと繋いでいく。
ただ、まずは、溜め込める前に使われたら意味がないからね。この国の魔物と瘴気を消し去らないといけない。俺とチヅルの二人で一緒に旅に出ながら、倒して浄化する」
そういって、神殿まで行くと、神官に用意させていたのか私の服や荷物を、目の前の作った空間にどんどん入れ始める。
「あの?あなた、何してるの?」
やってることはわかるが、まさかすぐ倒しに行くのか?
今日、初代聖女とラファエルを灰以下にしたばかりよ。
わたしは唖然として、まずは休もうと伝えようとしたが、クルデラは首を振った。
「すぐ旅に出るんだ。リリー様から聞いた。この物語の真のハッピーエンドは、共に魔物を倒し瘴気に苦しむ人々のために祈りを捧げ、その共に戦うことを選んだ男性の一人と恋が成就することだって。木の下は、両思いのイベントにすぎないって」
ああそういえば、リリーがそんなことをいってたっけ?
卒業の木の下イベントが自分に舞い降りたことですっかり忘れていた。
「共に行くのは俺だから。アーサー王子じゃないから」
「はあっ?まだ言ってるの?」
「だって、もし君が初代聖女の生まれ変わりだったら、きっと王の血族は君にこだわるよ。君を自分のものにしようとするよ。俺は、嫌だ!絶対に君とすぐに旅立って魔物退治して、君に瘴気を消してもらうんだ」
あまりのすごいクルデラの剣幕に、自分が執着されるほど愛されていることを知り、思わず吹き出す。
「クルデラ、もちろん出かけてもいいけどね。わたしを誰だと思っているの?」
私はクルデラにむかってにっこり笑った。
「その時には、そのシナリオをすべて叩き潰すわ。だって、わたしはアーサーではなく、あなたを愛すると決めたのだもの」
「で...でも...」
クルデラが不安そうなので、クルデラに腕を絡ませる。
「だけど、新婚旅行なら今から行ってもいいわ。そうね、ついでに魔物退治と浄化もしちゃおうか?
ああ!新婚旅行なんですからね。他の女に少しでも目が奪われることがあったり、わたしから気持ちが離れるそぶりがあったら、首輪に鎖をつけてクルデラは生涯わたしの犬だから。その覚悟でね」
わたしは、クルデラの首を指で撫でた。
クルデラは、戸惑いと不安な表情から、やがて顔から嬉しそうに笑顔が溢れていった。
「新婚旅行っていうのがあるの?なんか楽しそうだね。じゃあ、この国を一緒に旅しながら、ついでに魔物を倒そうか?君とあたらしい世界を見られるのは楽しみだ。
そうだ、俺は迷子になるかもしれない。神殿を出るのは初めてなんだからね。」
「迷子?」
それを聞いて、本当にありそうだと思わず噴き出す。
「そうだよ。だから、離れないように、今からでも君に鎖で繋がれても構わないよ。では、チヅル、俺の奥さん、新婚旅行に行こうか?」
クルデラはわたしを抱き上げ、嬉しそうに転移陣を発動する。淡い光が全身を包み、私たちは神殿を後にした。
《完》




