第十四話 俺の評判がうなぎのぼりな件
最近ふと思うことがある。
俺は悪目立ちし過ぎているんじゃないか、と。
「遍く~んっまた来ちゃったよ~!」
休み時間はたった十分しかない。
というのに文乃は毎回と言っていいほど俺の教室に来る。
「よう。相変わらずうるさいやつだな」
「ひど~いっ! けど本当はわたしのこと大好きだもんね~?」
「う、うぜぇ」
否定はしない。
好きなのは純然たる事実だからだ。
「おい、来たぞ、姫が」
「リア充オーラぷんぷんだね~甘ったるくて酔っちまう」
「夫婦漫才を見させられるこっちの身にもなれって話だよな」
クラスメイトがからかうように言った。
なんだか最近は名物化していて、彼らも文乃が来るのを待ち望んでいるような気がする。
白石は話題の中心になるのが苦手らしく、教室の端で小説にふけるのだが──
「あ~むちゃんっ、遍くんと一緒にコンビニ行こうよ~!」
太陽は校庭の隅で咲く花にも容赦ない。
白石は「目立ちたくないんですからそういう時はメールしてくださいよ~」と嘆いていた。
悪目立ちまではいかないが、文乃効果で白石にもスポットライトがあてられる始末。
白石、俺たちの陰キャライフは終わっちまったんだよ……。
がっかりしてめそめそする俺たちをしり目に、文乃は、どうしたんだい?と太陽みたいに笑っていた。
いい意味、いや悪い意味で俺たちは振り回されているようだ。
廊下を三人で歩いていると、千代田が隣を通りがかる。
文乃は臆することなく呼びかけた。
「えりちゃん~!」
「あ、神崎さん……」
気まずそうに立ち止まる千代田。
それもそのはず。会わせる顔がないからだ。
千代田は近藤の噂で喧嘩をふっかけた挙句、悪質なファールを文乃に連発している。
というのに忌憚なく話しかけるあたり、文乃のメンタルどうなってんのマジで……?
「近藤くんの疑い晴らせたかな? 今わたしは遍くんと付き合ってるし、そもそもわたしはスポーツで暴力をするような人が嫌いだから」
「……ごめん。あれは勘違だったみたい……。それにもう別れてるからいい」
「あちゃ~電撃破局! 次はいい恋ができるといいね!」
「ありがと」
歯切れが悪い千代田はそそくさと去っていった。
てか文乃もコロコロ恋人変えてたし他人のこと言えんだろ……。
いやまぁ男性の経験値を貯める為ってのはわかるけど。
「千代田、近藤と別れてたんだな」
「らしいね~。わたしは知ってたけど」
「文乃ほどの人脈があれば色恋沙汰なんてすぐ伝わってくるよな。近藤なんてタイムリーな話題だし」
「いえす。それに、えりちゃんみたいなタイプは人気がある近藤君が好きなだけ。球技大会で評判が地に落ちた彼と別れるなんて当然かも」
「私は許せません……! 神崎さんにケガさせておいて、そのことを謝りもしないなんて」
「ううん、そんなこと期待してないんだ~。それにね、遍くんがスピーチで告発してたでしょ? わたしが悪質なファールにあったって。それを聞いた誰かがえりちゃんって突き止めたらしくて、彼女自身クラスで居心地悪いみたい」
「なるほど……。因果応報って本当にあるんですね」
「そのとーりっ。悪い行いをすれば近藤君やえりちゃんみたいになっちゃうし、善い行いをすれば遍くんみたいに可愛い彼女と付き合えるってこと!」
自分で可愛い彼女宣言とか流石っす。
否定はできないのが悔しい。
コンビニに着くと、小さな店内は混雑していた。
白石は「人に酔うので~」と言ってそそくさと出ていく。
俺は紅茶でも買うか~と思っていると、一年生の女子たちがひそひそと話しているのが聞こえた。
「あれって二年の宮野先輩だよね」
「公開告白の人でしょ?」
「そうそう。しかも告白成功してたよね」
「確かに少しかっこいいし分かるかも」
地獄耳の俺がふんふんと聞いていると、文乃が友達のように割って入るのだった。
「うんうん、確かに遍くんはかっこいい。けど色目使っちゃだめだからね! め!」
「うわっ」
「でた!」
まるで妖怪でも見つけたかのような驚き具合だ。
びくんと体を震わせた女子生徒ふたりはぺこりと頭を下げて逃げて行った。
文乃は腕を組み、ご乱心のようで──
「まったくもう。遍くんの良さに気付いたハイエナがそこかしらにいる!」
「気にし過ぎだと思うんだが」
というか今のお前、ハイエナどころかライオンのような殺気だったぞ。
されど、子羊のようにか弱い俺にそんな発言権はない。
「遍くんはそこらへん鈍感すぎる。女心を全くわかってない! さっきのだって聞こえるようにわざと言ってるんだよ~!」
「まじ?」
「マジ中のマジ」
そんなやり取りをしていると授業開始のチャイムが鳴った。
スマホを見ると白石から『私、先生に怒られたくないので先に戻りますね』と連絡が来ていた。
白石に見捨てられた!?
俺がクラウチングスタートで教室に戻ろうとすると、文乃が俺の着るブレザーの襟を引っ張った。
「一分遅れても五分遅れてもどうせ怒られるんだし、ここはさぼっちゃおう!」
そんな文乃の言葉を真に受けた俺は、数学担当の教師からこっぴどく怒られるのだった。ですよね。




