ニートと愛と望遠鏡 (4)
コンコンと、木のドアがノックされる。
宿のベッドで横になっていた山崎は、めんどくさかったので、そのノックを無視した。
コンコンと、また木のドアがノックされる。
山崎は無視する。
しつこく、コンコンと、木のドアがノックされた。
不機嫌丸出しの声で、山崎が叫ぶ。
「うるせーな! 誰だよ?」
「わたしです」
ドアの向こうから聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。
山崎はベッドから跳ね上がる勢いで立ちあがって、ドアを開ける。
「夜分遅く、ごめんなさい」
ドアの向こうにいたのは、昼間助けた猫耳の女性だ。
昼間より露出は少ないが、布地が薄く、体が透けて見える服だけを身に纏っている。下着の類は、身に着けていない。
褐色の肌、豊満な胸、くびれた腰、形のいいお尻が、すべて透けて見える。
いや、それだけではない。胸の先の桃色の突起も、下半身の僅かな茂みも、すべて透けて見えていた。
その姿をみた山崎は思わず、グビリと喉をならし、唾を飲み込む。
猫耳の女性が、上目遣いに言う。
「昼間、チンピラどもを追い払って頂いた、お礼をどうしても言いたくて……、少しお話いいですか?」
「も、も、も、も、も、もちのろんです。話しします。いや、は、話ししてやるぜ。
さあ、は、は、は、はいって、汚い所ですけど、はいって、はいって、ど、どう、どうぞ、どうぞ」
山崎は、部屋の中へと、猫耳の女性を招きいれたのだった。
――――――
コンコンと、木のドアがノックされる。
ベッドに寝っころがっていた平松絵里奈は、気軽に返事をする。
「はーーい、どなたですか?」
「僕です」
ドアの向こうから聞き覚えのある青年の声が聞こえてくる。
きゃーーー。きた!
私の部屋に、イケメン来ちゃった。
これって、あれ? 誘ってる?
まじやばい。まじアバンチュール
夜に部屋にくるなんて、まじちょっとあぶない?
うーん。
ま、いっか。
絵里奈は、ベッドから立ち上がり、一度、自分の髪を軽く整える。
それから、ドアに近づいていった。
その時、首筋の後ろに、まるで冷水が浴びせられたかのようにヒヤリと寒気が走る。
あ、やばい!
ちょっと頭の足りない絵里奈でも、流石にその危険はすぐに察知できた。
このドアの向こうに、彼以外に、もう1人いる!?
転移者って人が、いる?!
ドアの向こうで、誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
『幻想福手!!』
次の瞬間。
半透明な手が、ドアをすりぬけてきて、絵里奈の首を絞めてきた。
なに、これ?!
慌てて、振りほどこうとするがビクともしない。
首を絞める透明な手によって、彼女の体が持ち上げられ、全体重が首に掛かる。
地面から浮いた足をジタバタと降って暴れるが、透明な手はまったくびくともしない。
やばい、やばい。
くるしい。息が出来ない。
普通の人間なら、とっくに死んでいるだろう。『転移者』である彼女は、体の造りも強化されており、すぐに絶命することはない。
それでも、絵里奈の顔色はみるみる赤黒くなっていく。
「ら……ら、ら、ら、ら……」
瀕死の彼女は、唇の端から泡を吹きながら、まるで歌うように、そう呟く。
必死に、何かを叫ぼうとしているが、首を絞められているので、まともに言葉を発することもできない。
「ら…… ら……、……ら……………… ら ……」
首をしめる半透明な手は、どんどんめり込んでいき、絵里奈の呟きも、段々小さくなっていく。
死ぬ? 私、死んじゃう?
やだ。やだやだ。
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
生への執着が、最後の力を振り絞らせる。
絵里奈が、叫んだ。
「……ら、雷神召還!!」
部屋中にまばゆい光が溢れる。
その光の中から、火花を散らしながら金色に輝く鎧を身に着けた騎士が現れた。
その騎士が、右手の人差し指を扉に向ける。
暗い宿屋の部屋に、閃光が奔った。
指先から発した光が、扉を粉々に砕く。
壊れたドアの向こうには、昼間の青年と、島原千賀子が立っていた。
ドアが吹き飛びことによって、絵里奈と、そしてその横に立つ黄金の騎士を目にした、島原の顔が、ひきつる。
あれが、雷神!
その姿は、余りに力強く、余りに美しく、そして余りに神々しい。
この街で、一度は魔法を取得しようとした島原には、召還魔法についても少しだけ知識がある。
獣や魔物や物体など、色々な物を召還する、召還魔法がある。
数多有る召還魔法、その中でも最高級なのが、"神々"を召還する召還魔法だ。
私の使いづらい『幻想福手』とは、比べ物にならない程、強力なスキルよね。
そんな事を、島原は思う。
彼女の特殊スキル、幻想福手は、半分幻想、半分実在する、手が、肩のあたりから生えてくるスキルだ。
その手は、選択して、他の物を通りぬけたり、掴むことができたりする。例えば、先程、島原が行ったように、扉をすりぬけ、その向こうの相手を掴んだりできるのだった。
手は、動きは速く、力も強い。普通の人間の動きでは交わすこともできず、そのうえ掴めば、首ぐらい瞬時にポキリと折ることができた。
だが、色々と欠点もある。もっとも解りやすい欠点は、射程距離だ。半透明の手は、精々5~6mくらいしか届かない。距離の離れた敵に対しては、有効な攻撃方法がまるで無いのだった。
雷神が不意に、右手を挙げた。
その右手の先の空間に、バチバチと火花を散らしながら、光が集まっていく。集まった光は、球へと変化していく。
見ている間にもその球はどんどん大きくなり、部屋中に、バチバチと火花を散らしまわる。
あれってぜったい、やばいヤツだ!
島原の顔が更に引きつる。
あれが発射されたら、私が、負ける!?!
だが、その光の球が発射されることはなかった。
それどころか、雷神の姿が、すぅっと薄くなっていく。
部屋の中に溢れていた光は消え、元の薄暗さに戻っていった。
静寂が支配する。
暗い部屋の中。
事切れた絵里奈の体だけが、半透明の手の先に、力なくぶら下がっていた。
ふう。僅差で、私の逃げ切り勝ちね。
小さく島原千賀子が呟く。
まともに戦えば、どう考えても、彼女のスキル『雷神召還』の方が、強かったわ。
本当は、声を出させず、スキルを使わせないで勝つ予定だったんだけど。
まあ、勝てたから良しとしましょう。
とりあえず、これで星、一個獲得だわ。
バン!
いきなり、はげしい音と共に、宿屋の廊下の一番奥の部屋のドアがあいた。
そこから、たるんだ腹を丸出しにした、パンツ一枚だけの男が、出てくる。
腹の出た中年で、汚いパンツ一枚だけの男は、顔を真っ赤にして叫びだした。
「ううううう、うるさい! お おお お前のせいだ!
お前がうるさくするから、立たないんだ! お、お前が悪い!
けっして、は、はじめてだから、びびびびび、びびって、た、立たないわけじゃないんだ。
お前がわるいいいんだぁあああぁあああ? あああああぁあ? あれ? あれ? え? 転移者? お、お前、転移者? 転移者なのか?
そうか!
お、おお、俺を、こ 殺しにきたんだな?!!」
え? なに、この男?
島原千賀子は混乱する。
目の前の、パンツ一枚の男が『転移者』なのは、本能ですぐにわかった。
でも、なんで?
転移者が、もうひとり?!
パンツの男は、もちろん山崎翼だ。
彼はパンツ一枚という愚かな格好でも、自分ではかっこいいと思うポーズをわざわざ取ってから、叫んだ。
『百飛翔剣』
暗い廊下の、何も無い空間に、剣が現れた。
しかも、一本や二本だけではない。十本、二十本、三十本、どんどん増えていく。
最終的に、その数は百。
百本の剣が中に、山崎の周りの暗く狭い廊下の空間を、びっしりと埋め尽くす。
切っ先は、もちろん、島原の方へ向いていた。
「くらえ!!」
山崎翼の叫びと共に、その百本の剣が、島原に襲いかかる。
「幻想福手!!」
混乱しながらも、あわてて島原は叫び、『特殊スキル』を発動する。
半透明な手を使い、飛んでくる剣を払い落とす。
だが、数が多すぎる。
半透明な手がすばやい動きで剣を払い落とそうとも、百本もの剣をすべて払い落とすことは無理だった。
半透明な手の動きを掻い潜った剣が、島原の肩に突き刺さる。
さらに、足に、腹に、右太股に、頭に、次々に剣が突き刺さっていく。
うそ、うそ、うそ ……う、………… う ……そ…………
彼女が床に崩れ落ち、動きが完全に止まっても、剣はつきず、次々に彼女の体に突き刺ささり続けた。
島原千賀子。
知恵を絞り、最強レベルの『特殊スキル』を持つ絵里奈を倒した、彼女。
その彼女は、まるで突然の事故にあったかのように、単に今回は、運が良かっただけの山崎に、何が何だか状況を理解できぬうちに殺されてしまった。
「や、やった?! やったぞ、やったぞ! 『転移者』をぶっ殺してやった!
俺が勝ったんだ! や、やっぱり、お、俺は選ばれた人間なんだぁ!!」
山崎翼が、絶叫する。
その彼の股間が、いつの間にかパンツを押し上げ、そそり立っていた。
「お、立った。立ったぞ。クララが立ったぞぉ!
よし、やるぞぉ。やるぞお!」
彼は、自分の部屋の中に入っていく。
部屋のベッドの上には、裸になった猫耳の女性が寝そべっていた。
彼女は、顔をしかめて露骨に嫌な顔をした
「はっ? 今から、やるの? さっき立たなくて、半べそかいてくせに やるの?」
「あたりまえだろう、ほら、み、見て見て、た、立ってる立ってる、立ってるから」
彼女は、山崎が見せ付けるように突き出す股間に、視線を送る。
小さくて解りづらいが、確かに立っているようだ。
「まあ、料金は、さっき貰っちゃってるからねえ」
猫耳の女性は、仕方ないという感じで肩をすくめた。
しかも、実は彼女は、普通の一晩分の料金の、三倍くらいの料金をぼった食っている。
まあ、簡単な誘いの手口にのってきた、ぼろい客だ。
変な能力を使えて、金もしこたま持っている。
上手く相手すれば、これからも何度か買ってくれるかもしれない。
そう考えて、胸を丸出しにしながら、手を大きく広げる。
「ほら、来な。相手してやるよ」
山崎は、その胸元に飛び込み、乳首にむしゃぶりついた。
最高だ! 最高だ!
異世界最高だあ!
俺が英雄だ! 俺が選ばれし者だ!!
そうだ! 俺が、この俺様が!
無双チートハーレム主人公なんだ!!
あああああ、やっぱり、異世界では、元ニートが最強なんだ!!
不定期連載です。
少し書き溜めていますので、最初は比較的速いテンポで投稿予定です。




