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彼岸まで  作者: 若松ユウ
七両目「色欲と肉欲の国~A country of lust~」
28/33

#027「バルカロール」

@香澳島中央駅

中狼「七号線に停車してる弁財天号に乗って、あの艶やかな紫色の東橋を渡った先にあるのが、目的地の法国。サキュバスが描かれた国章や、山羊、蠍、兎が描かれた国旗が目印。そこのエゼナビって場所で、トビーって人を訪ねて、このボトルいっぱいにワインを貰ってくるのが、今回の使命。純潔を重んじる国柄でって。オイ、聴いてるのか、小小」

小華「聴かなくても問題ないわよ。今度の国は、紅さんの故郷だもの。温暖な気候と肥沃な大地を有する博愛の国で、エゼナビは、ゴンドラが行き交う水の都だって、何度も聴かされて育ってきたんだから」

中狼「お国自慢は、俺も散々聴かされたさ。でも、百聞は一見に如かずと言うし」

小華「聞いて極楽、見て地獄?」

中狼「コラ。縁起でもないことを言うな」

売り子「烏賊焼き一つ、いかがっすかぁ」

小華「二本ください」

小華、売り子に小銭を渡し、袋を受け取る。

売り子「毎度ありぃ」

中狼「無駄遣いするなよ、小小」

小華「アラ、中中。昨日の局長室の一件で疲れてないの? きっと、途中で小腹が空くわ」

駅員「まもなく、七号線の列車が発車いたします。ご乗車のお客様は、お急ぎください」

中狼「議論は後回しだ。早く乗ろう」

小華「言われなくても、そうするわよ」

  *

@法国中央駅

中狼「何で、こんな構造なんだ」

小華「何言ってるのよ。とっても素敵じゃない。見て。色鮮やかな生き物がいっぱい」

中狼「オイオイ、あんまり欄干から身を乗り出すなよ、小小。落ちても助けてやらないぞ。アァ、さっき食べた烏賊が、泳いでる」

小華「大丈夫よ。わたしは中中と違って、泳ぎが得意だから」

中狼「悪かったな、カナヅチで。まったく、橋の上に駅舎があるとは思わなかったな。何とも落ち着かないぜ」

小華「そうかしら? もっと気楽に、自然体でいれば良いのよ。――考えるな、感じるんだ、中中」

中狼「どこぞの功夫武術家を気取るな、小小」

小華「アタタタタ、アチョウ。――あっ、ゴンドラが来たわ。何か歌ってるみたい」

舟乗り「俺はクレイジー、変わり者さ。俺はバガボンド、ならず者さ。風が吹けば、気も変わるさ。晴れの日も、雨の夜も。俺は唄い、舟を漕ぐ。――オッ。お客さんかい?」

小華「そうです。このトンカチと一緒です」

中狼「トンカチは余計だ。――エゼナビに行きたいんですけど」

舟乗り「オォ、良いよ。乗りな」

小華、ゴンドラに乗る。

小華「ホラ、中中も。怖がってる場合じゃないでしょう?」

中狼「タイミングを計ってるんだ。すぐ乗るから、少し黙ってろ」

舟乗り「安心しな。俺はマーマンだから、万が一落っこちたって、無事に助けてやれる」

小華「マーマン?」

中狼「マーメイドの男性版。要するに、人魚だ。――ヨッと」

舟乗り「乗れたね? それじゃあ、出すよ。――俺はドリフター、流れ者さ。俺はボヘミアン、根なし草さ。雪が降れば、気も滅入るさ。時化の朝も、凪の夕も。俺は唄い、舟を漕ぐ」

小華「その歌、何ていう歌なんですか?」

中狼「こんなことなら、キチンと水泳を習っておくんだった。ウゥ、舟底は揺れるし、視界も揺れる」

舟乗り「しっかりしろよ、坊っちゃん。まだまだ先は長いぜ。――曲名は無いんだ。船乗りたちに口伝えで脈々と受け継がれてきた、古の舟唄さ」


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