#011「仲違い」
@香澳島中央駅
中狼「三号線に停車してる寿老人号に乗って、あの黄色い南橋を渡った先にあるのが、目的地の徳国。マーメイドが描かれた国章や、蛇、犬、猫が描かれた国旗が目印。そこのラモって場所で、ヘンリーって人を訪ねて、この革袋いっぱいにビールを貰ってくるのが、今回の使命。忍耐を重んじる国柄でって。オイ、聴いてるのか、小小」
小華、耳栓を外す。
小華「音読は終わった?」
中狼「小小。いつの間に、耳栓なんかしてたんだ? とにかく、これは没収だ」
中狼、耳栓を取り上げる。
小華「あぁ。付けないから、返してよ」
駅員「まもなく、三号線の列車が発車いたします。ご乗車のお客様は、お急ぎください」
中狼「返して欲しくば、追いついて来い」
小華「もぅ。待ってよ、中中」
*
@徳国中央駅
小華「見損なったわ、中中。あんなアカラサマなリップサービスに、ニヤニヤと締りのない表情を浮かべるなんて」
中狼「それは、こっちの台詞だ。小小こそ、社交辞令にデレデレだったじゃないか」
小華「誰がデレデレよ」
中狼「誰がニヤニヤだ」
小華・中狼「「フン」」
小華「ちょっと、真似しないでよ」
中狼「俺は真似してない。小小が真似してるんだろう?」
小華「もう、結構。しばらく、中中とは口を聞きたく無いわ」
中狼「あぁ。俺だって口を聞きたくないね」
二人、距離を空け、黙って歩く。
小華「キャッ」
小華、その場から姿を消す。
中狼「小小、あんまり離れるなよ。アレ、どこに居るんだ? オーイ、小小。聴いてるのか? もう、ダンマリはおしまいにして、返事をしろよ。小小? 小小っ」
*
中狼「ハァ、駄目だ。駅のどこにも居ない」
薬売り「すり傷切り傷、ピタリと治す白色軟膏。胸焼け腹痛、スゥッと消え失す黒色粉薬。ズキズキにキリキリ、たちまち鎮める青色湿布。ダミ声ドラ声シャガレ声、サヨナキドリに迦陵頻伽も仰天の、天女の美声に変える赤色のど飴。――おやおや? 途方に暮れてるようだね。広い駅舎だ。しかも、無駄に堅牢豪華に出来ている。こんなところじゃ、はぐれもしようぞ。迷子の迷子の仔犬くん。住所は、五番地? それとも七番地かな?」
中狼「ご親切に、どうも。同行者とはぐれたのは合ってますけど、俺は迷子ではなくて、用あって香澳島から来たところなんです」
薬売り「フゥン。そいつは失礼。同じ匂いがするから、てっきりこの辺の住民かと。それで、坊っちゃん。同行者を探す当てはあるのかな?」
中狼「それが、手詰まりで」
薬売り「それは、お困りだろう。これから街中あちこち回るから、良ければ一緒に来るかい? 坊っちゃんが探してる同行者の手掛かりが、そのうち見つかるかもしれない」
中狼「案内してくれるんですか?」
薬売り「あぁ。同族のよしみで、サービスしとくよ。ところで、何か薬の入り用は無いかい? どれも一包み一圓はするんだけど、今なら特別に八十錢で売るよ」
中狼「あいにくですけど、それほど路銀に余裕が無いので」
薬売り「そうか。それは残念。まぁ、無い袖は振れないからね。先を急ごうか」
中狼「はい。ありがとうございます。あの、薬売りさん」
薬売り「よしとくれ。職業で呼ばないでもらおうか。ギフト。アタクシにはギフトって通り名があるんだ。それで、坊っちゃんは?」
中狼「ミドル。真名ではないけど、ミドルって呼んでください」
薬売り「ウム。よろしくな、ミドル。早速、駅を出ようか。ボヤボヤしてると、日が暮れてしまう」




