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彼岸まで  作者: 若松ユウ
三両目「嫉妬と羨望の国~A country of envy~」
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13/33

#012「濡羽色」

@ヘンリー城

メアリー「誰がかどわかせと言った、スチュアートっ」

スチュアート「申し訳ございません、ヘンリー様。私めの早合点でございます」

小華「許してあげてくださいよ。わたしなら、平気ですから」

メアリー「まったく。連れてこいと命じたが、無理やり連行するとは思わなかった。もう一度、同行者を迎えに飛んで行け」

スチュアート「ハッ。仰せの通りに」

スチュアート、助走をつけて窓から飛び立つ。

小華「従者さんは、黒い羽を持ってますけど」

メアリー「スチュアートは烏天狗だ。真面目で従順だが、勘違いしてドジを踏むことも少なくない、困った奴だ。ともかく。手違いとはいえ、拉致同然に呼び寄せてしまったことは、深く詫びる。申し訳ない」

小華「頭を上げてくださいよ、ヘンリーさん。突然のことで驚きましたけど」

メアリー「メアリー。私のことは、そう呼ぶが良い」

小華「責任を感じないでください、メアリーさん」

メアリー「ありがとう。リトルは優しい子だな」

小華「そんなことないですよ。ココに来る途中だって、中中と口喧嘩してたんですから」

メアリー「ハハッ。あぁ、失礼。素直で、大変よろしい」

  *

@民家

得意先「そういえば、あの烏天狗が、それくらいの少女を小脇に抱えて飛んでるのを見掛けたよ。――軟膏も買うから、まけなさい」

薬売り「オッ。そいつは耳寄りな情報だね。――粉薬と軟膏か。まけても、一圓九十錢ってところだね」

中狼「その、烏天狗というのは?」

得意先「何だ、知らないのかい? 若いね。エンリケ朝、最後の女帝メアリーに仕える、ヘンリー城の従者だよ。――八十錢にしてくれ」

薬売り「そうは言っても、戦後、帝政から連邦政に移行したから、発言力は持たないけどね。――末広がりに、八十八錢にしよう。元値でも、どっちも掛けを抑えてるんだ。これ以上は、元を割る」

中狼「(そうか。でも、そうだとしたら、俺の判断ミスってことになるぞ。)ありがとうございます」

得意先「手掛かりになったようで良かった。くれぐれも、歴史の勉強をサボらないことだね。――もう一声」

薬売り「負けたよ。一圓八十五錢だ。これ以上は、鐚一文まけないよ」

得意先「よし。それで手を打とう」

薬売り、代金を受け取り、商品を手渡す。

薬売り「毎度あり。これからも、どうぞ御贔屓に」

  *

@徳国中央駅

薬売り「なるほど。誘拐は誤解だったという訳か。――連雀は重くなかったかい、ミドル?」

中狼「俺の勘が当たってれば、の話ですけどね。――荷役係をしてるので、これくらいヘッチャラですよ、ギフトさん」

薬売り「読みは正しかったようだよ、ミドル。アタクシの視線の先を見たまえ」

中狼「ウワァ。本当、吸い込まれるように漆黒の翼だ」

スチュアート「お待たせいたして、大変申し訳ございませんでした。これより、昏い森の先、蔦生える煉瓦の壁の紅い城へ、迅速かつ丁寧にお連れいたします」

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