372話 教会でのイベントは続く -進んでるようで進んでないですね-
暑苦しいのは苦手です。
「おぉ! 涼しくなってきたぞ」「飲み物は冷たい上に甘くて爽やかで美味しいぞ」「どうやらドリュグルの英雄のリョージ様が配られているらしいぞ」「教皇様やエリーザベト様と友達って聞いたぞ!」
徐々に温度が下がっている事に気付いた信徒達は、最初は囁くように話をしていたが、飲み物が全員に行き渡ったたタイミングで、お代わり自由と伝えられると大歓声に変わった。
「な、なにごとですか?」
「俺の婚約者が配っている果実水が美味しいからかな? それとも室温が冷えてきたからかな?」
壇上ではヴェンダーが突然の大歓声に戸惑っていた。その様子を笑みを浮かべながら眺めていた亮二がヴェンダーに質問すると、顔をしかめながら答える。
「そうかもしれませんな。先ほども言いましたが気遣いが出来ずに……」
「ひょっとしてわざと?」
遮るように亮二から質問されると、ヴェンダーは目を見開いて焦りの表情を浮かべながらも反論する。
「な、なにを仰るのですか! そ、そんな事を枢機卿である私がする訳が……」
「お父様! 大勢の信徒が集まるのは分かってるんですから、飲み水の用意くらいは……。あれ? 会場が涼しいですね。それに皆さん飲み物を飲んでますね。用意をされたのなら言って下さい!」
荒い呼吸で壇上に来た女性は呼吸を整えると一気に言い放った。女性の剣幕に圧されたヴェンダーは、少し後ずさりながら答える。
「もう大丈夫だ。アーリー。サンドストレム王国の大公リョージ様が、信徒達に飲み物を用意してくれた」
「そうなのですか? えっ! サ、サンドストレム王国のリョージ様と言えばエレナ姫の懐すいーつの二つ名をお持ちの方ではないですか! ひょ、ひょ、ひょっとしてサンドストレム王国すいーつ普及研究所のソフィア所長もご一緒ですか! 神よ! この幸運に感謝します! はっ! し、失礼しました。ヴェンダー枢機卿の娘のアーリーと申します」
怒りの表情でヴェンダーの説明を聞いていたアーリーだったが、亮二だと気付くと怒濤の如くしゃべり始めた。その勢いに呆気に取られていた亮二だったが、苦笑しながら挨拶を始める。
「初めまして。サンドストレム王国大公のリョージ・ウチノだよ。水の用意をしてくれたの? それにしても遅かったね」
「そうですよね。私も父から『信徒達が熱そうだから水を用意してくれ』と頼まれて、慌てて準備をしたのですが間に合わなかったようです。『ここで水を配れば人気が上がる』と浅はかな考えで私に水の用意を命じた枢機卿が全て悪いんです。信徒の辛さくらい早く気付けよ! だから役立たずだと家で……。し、失礼しました。お父様。後でゆっくりと家でお話ししましょうね」
父親を睨みつけながら悪態をつき始めたアーリーだったが亮二の視線に気付くと、愛想笑いを浮かべながら見えないようにヴェンダーの足を全力で踏みつけるのだった。
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亮二達が壇上で話をしているのを信徒達は興味深そうに眺めていた。配られた飲み物は無尽蔵と言っていいほど用意されており、さらにはクッキー等も配られ始めた。
「飲み物も上手いし、くっきーとやらも美味しいし、今日は枢機卿のミサに参加して本当に良かったよな」「ああ。それに天井に浮かんでいる水玉のおかげで、ノボセそうだったのがましになったよ」「壇上に居るのがリョージ様なんだよな? たしかエリーザベト様と仲が良いと聞いたけどな?」「だから、さっきからそう言ってるだろ!」
信徒達が完全に寛ぎモードになっているのを見ていた亮二だったが、空気が澱んでいる事に気付くと風属性魔法を使って室内と外の空気を入れ換えた。清浄な空気になった事を確認した亮二は大きく深呼吸をすると、改めてヴェンダーに問い掛ける。
「よし! これで空気もスッキリしたな。それで、枢機卿として今回の事はどうなんよ?」
「い、いや、それはですな……」
亮二が軽く目を細めながらヴェンダーを睨みつけると、震えながら後ずさろうとしたのを足を踏みつけて動けないようにしたアーリーが言い放つ。
「駄目だと思います! 父親としてもダメダメです! お父様、この件はオルランド君に伝えとくからね」
「えっ? オルランド君?」
親しげにオルランド君と呼ぶアーリーに亮二が疑問の視線を向けると、微笑みながら説明を始める。
「ええ。オルランド君が神都に来てから弟のように可愛がっていました。その弟が可愛いエリーザベトさんを連れてきてくれたでしょ? 単純に祝福したかったのに、馬鹿親父……んん! お父様が勝手に嫁候補になんかしてくれたんですよね。私は美味しい物が食べれれば……」
途中まで愚痴るように説明をしていたアーリーだったが、なにかに気付いたかのように亮二に急接近した。
「ソフィア様! ソフィア様はご一緒ですか?」
「ん? ソフィアだったら……。ああ、いた。ソフィア! こっちに来てくれ!」
亮二が声を掛けると、信徒達にクッキーを配っていたソフィアが不思議そうな顔をして近付いてきた。
「どうされたのですか? まだ配り終わってませんが?」
「いや。こっちのアーリーさんがソフィアと話をしたいって……。痛い! な、なに?」
アーリーがソフィアと喋りたいと伝えようとした瞬間に、わき腹に痛みが走った。慌てた亮二が痛みの確認をすると、アーリーが恥ずかしそうにしながら亮二をつついているのだった。
アーリーさんのキャラがつかめない……。