370話 新たな動き -色々とありますね-
新しい登場人物です
「それで投票の結果はどうなのだ? 少し変化はあったのか?」
ある屋敷で苛ただしげに報告を求める枢機卿がいた。自分の娘を教皇の妻とする事で、さらに自分の権力を求めている男だった。当初の予定ではエリーザベトと自分の娘の一騎打ちだったはずが、三つ巴になっていた。
下馬評ではエリーザベトの圧勝だったのを、政治力を使ってなんとか互角の戦いに持って行こうとしていたが上手くいっておらず、苛立ちだけが日々募っていた。そんな苛立だしげな主人の様子を見ながら、配下の男性は恐る恐るな感じで報告を始める。
「はっ! 今のところは一位がエリーザベト、二位がモニカで三位がアーリー様となっております」
「順位の報告なんぞいらん! 私が聞きたいのは割合だ! 投票の割合はどうなのだ!」
主人からの理不尽な怒鳴り声に首を竦めながら配下の男性は報告を続ける。
「し、失礼いたしました。割合ではエリーザベトが五割、モニカは三割、アーリー様は二割となっており、神都に住んでいる住民の多くはエリーザベトに……」
「もうよい! 聞きたくもない! 大公リョージの情報はなにか入ったか?」
内心、自分が推薦する娘への投票率の悪さに愕然としながらも、表情は出さずに亮二についての情報を求めた。
「リョージ様が神都に来られてから十日になるそうです。ラッチス枢機卿が当日に出迎え、情報が漏れないように屋敷に滞在を要請していたとの事です」
「ラッチスにしてやられたか。それにしてもドリュグルの英雄はやっかいだな。まさかあのような予想外のやり方でアピールされるとは。後手後手になったのをなんとか挽回したいが……。最後の手段を使うとするか」
この時点で最後の手を切らざるを得ない状況に、苦々しい顔をしながらも実行に移すために配下の男性に指示を出すのだった。
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「あれ? なんか子供の数が少なくない?」
「そうですね。いつもの半分以下ですよね?」
亮二が首を傾げていると、メイド姿のカレナリエンも同じく首を傾げながら近くにいた幼女に話しかける。
「ねえ。今日はお友達が少ないみたいだけど、なにかあったの?」
「ヴェンダーさまが、これからまいにちミサをするからきなさいって。いつもいっしょのサラちゃんもミサにいったの。わたしはおとうとといっしょにいないといけないからおるすばんなの!」
寂しそうに話す幼女に金平糖を手渡しながら、亮二は気になる事を確認する。
「ねえ。お留守番しないといけないのに、ここに来たらダメなんじゃ……痛ぃ! なにすんだよ! エリーザベトさん!」
亮二と幼女の話を聞いていたエリーザベトだったが、亮二の話が脱線しそうだったので背後からハリセンの一撃を打ち下ろしながら遮る。
「幼女相手に細かい事を言わないで下さいまし! それで毎日ミサをするってヴェンダー様が言いましたのね?」
「そうだよ! エリーザベトさまはいつ教皇さまとけっこんするの?」
エリーザベトの問い掛けに幼女は嬉しそうに頷きながら逆に質問をしてきた。幼女の目がキラキラしているのを見たエリーザベトは幼女と同じように嬉しそうにしながら、「早く結婚できるように頑張りますわ」と幼女の頭を撫でながら答えるのだった。
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「困りましたわね。結局のところミサにかこつけてのアピールですわ。ミサの前後で世間話的にアピールをすれば問題ないですし、普段ミサをしない枢機卿がやってくるので信徒達は喜んで参加すると思いますわ」
「そうなの? こっちもラッチスさんを呼ぶ?」
ため息混じりに呟いたエリーザベトの言葉に亮二がラッチスを呼ぶように提案したが、二番煎じで効果が薄いどころか相手の攻撃材料になると伝えられると考え込み始めた。
「とりあえずは紙芝居は始めないと駄目ですよね?」
「あ、ああ。そうだな。じゃあ、紙芝居はメルタとライラとシーヴで頼む。俺はミサの方に顔を出すよ」
「えっ? リョージさん? ミサに顔を出しますの?」
わくわくしながら待っている子供達のために紙芝居をするように指示を出しつつ、他の婚約者達にはミサに行く準備をする様に伝える。
「おう! ミサに行くよ。どんな感じなのかも知りたいからね。でも、エリーザベトさんと一緒に行くとややこしいから、ここで子供達の質問に答えておいてよ。よい子のみんな! 紙芝居が終わった後はエリーザベト様がみんなの質問に答えてくれるって!」
「「「ほんとう? やった!」」」
亮二の言葉に広場に集まっていた子供達は大歓声を上げた。この後、子供達から質問責めにされ疲れ切ったエリーザベトは、ハリセン片手に亮二を追い回すのだった。
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「へぇ。立派な教会だな」
「枢機卿が自らミサを行ってますから、大聖堂になるんでしょうね。信徒も多く集まりますから」
大聖堂を見上げながら呟いた亮二にカレナリエンが答えた。亮二がドリュグルに建てた教会に比べると、デザインはともかく比較にならない高さを誇っていた。
「俺がドリュグルに建てた教会は、緊急避難先も兼ねたからな。広さはともかく高さまでは考慮に入れてなかったよ」
自ら建てた教会を思い出しながら、亮二は大聖堂の扉に手を掛けるのだった。
さあ突入です!