364話 神都で待ちぼうけ -話が進みませんね-
歓迎会が数日続いています。
「歓迎会飽きた。そしてラッチスはテンプレ通りに怪しすぎる」
神都に到着し、枢機卿であるラッチスから出迎えを受けた亮二達一行は、用意された屋敷で歓迎会が連日開催されていた。肝心のオルランドとの謁見は出来ておらず、神都観光をしようにもラッチスが用意した場所にしか案内されずに視察と変わらない状況になっていた。
「思った以上にラッチス卿の警備が厳しいですね。警戒する理由があるんでしょうか?」
「リョージ様以外の各国の代表は誰も到着していない」
メルタが首を傾げながら微妙に軟禁状態になっている事を口にすると、クロからも報告があった。諜報の結果、神都へ到着している貴族達は居ないらしく、ほとんどの者は王都で準備を整えている最中との事だった。
「結構、時間を掛けるんだな」
「そうだと思いますよ。教皇が結婚されるんですからね。お祝いの品を用意するのにも時間が掛かるでしょうし、他にも街道整備をした事を知らない他国の者も居るでしょうからね」
他の者達が王都に滞在している事を聞いた亮二が驚きながら呟いているとと、エレナが当然とばかりに頷きながら会話に参加してきた。
「リョージ様だからですよ。お祝いの品もすでに用意されてるんでしょ? 参加者達も『ドリュグルの英雄はどのような逸品を用意するのか?』と興味津々だと思いますし、少しでもその品に見劣りをしない物を準備しているのではないでしょうか?」
「えっ? 俺、お祝いの品を用意してなかったんだけど……。で、でも! 大丈夫! これから作るから! 教皇だったら錫杖とかかな? エリーザベトさんにはティアラでも作ろうか」
エレナの言葉に結婚祝いの準備をすっかりと忘れていた亮二は、ストレージの中身を確認しながら何を作るのかを考え始めるのだった。
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「じゃあ、クロは神都の様子を調査。エレナとマデリーネは王都と帝都に戻ってオルランドの結婚について再度確認。特にエレナはマルセル王にオルランドの手紙が私人なのか、教皇としてなのかを聞いてきて。カレナリエンとメルタは冒険者ギルドで情報収集。ソフィアとライラはスイーツを大量に作っておいて。シーヴは俺と一緒にお祝いの品を作るって事で」
亮二の指示に頷いていた一同だったが、最後のシーヴに対する指示を聞いて固まった。
「あれ? どうしたの?」
「ずるいです! 順番なら次は私です!」「私も手伝いたい」「ふぇぇ、シーヴさん羨ましい……」「この怒りはお父様と話し合いで解消しないと」
カレナリエン、メルタ、ライラ以外の婚約者達から抗議の声が上がったが、亮二から鍛冶職人の娘として手伝ってもらいたい事があるので必要だと言われると、悔しそうにしながらも納得した。そんな様子を眺めていたシーヴだったが、亮二と二人きりになれると分かると嬉しそうに飛び跳ねながら胸を張ってドヤ顔を始めた。
「ふふん。久しぶりに私の活躍の場がきたよ! 鍛冶屋の娘の力を見せてあげるよ!」
「期待しているよ。さっそく俺の部屋で作業をしようか」
一同がそれぞれ行動するのを確認し、亮二とシーヴは部屋を移動した。誰も使っていない空き部屋はそこそこの広さが有り、亮二は小さく頷きながらシーヴに話しかける。
「じゃあ、シーヴはここに素材や道具を出すから、俺が必要な物を頼んだら持ってきてくれ。それと適度に休憩の時間を告げてくれると嬉しい」
「えっ? 小間使い? それだけなの?」
亮二の依頼内容を理解したシーヴは、ちょっと頬を膨らませながら抗議するように言ってきた。そんな可愛らしい表情を浮かべている婚約者に亮二は笑いながら話しかける。
「シーヴしか俺のアシスタントを出来る婚約者は居ないんだよ。エレナやマデリーネは知識がないし、カレナリエンやメルタでは俺が欲しい道具をいいタイミングで渡せないだろ? クロやソフィアやライラはスイーツ担当だからな」
「そっか! 私じゃないと最良の瞬間を見付けられないもんね! 分かった。リョージ君の呼吸を読んで道具を渡していくから!」
シーヴが握り拳をしつつ気合いを入れているのを見ながら、亮二はストレージから素材や道具を取り出すと大量に置いていくのだった。
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「ちょっと休憩しない? そろそろ二時間くらい経ってるよ」
「おぉ。もう、そんな時間か。じゃあ、紅茶とスイーツを頼もうかな。ラッチスが持ってくる紅茶もスイーツも、今一つなんだよね」
ここ最近、毎日のようにラッチスから提供される紅茶とスイーツの味を思い出して微妙な顔をしている亮二に、シーヴは笑いながら部屋から出ていった。
「いる?」
「はっ! ここに」
シーヴが部屋から出たのを確認した亮二が部屋の片隅に視線を投げつつ問い掛けると、今まで誰も居なかった空間に黒装束の男性が跪いていた。
「クロへのお願いした内容以外で気になる点があるんだよね。エリーザベトさんがどこに居るか調べてくれる?」
「畏まりました」
黒装束の男性は短く返事をすると、再び暗闇の中に消えていった。亮二は部屋にあった気配が消えた事を確認しつつ、シーヴが紅茶とスイーツを用意している間に魔道具を一つ作成して満足気な表情を浮かべるのだった。
結婚祝いは良い物が出来ました。