32話 街でのパレード -緊張しますね-
普段慣れないことをするのは疲れます
ドリュグルの城門前はしっかりと閉ざされており、来る者をすべて拒否するかのような様相を呈していた。まるで敵国に攻めこまれた際の籠城戦の様であり、場内からは物音1つ聞こえておらず、普段なら2名の門番が気だるそうに立っている場所にはフルプレートアーマーを着込んだ騎士が直立不動で警備にあたっていた。
「何か”試練の洞窟”に行く時と雰囲気がまるっきり違うんだけど」
亮二のポツリとこぼした感想にマルコは「そうか?こんなもんじゃないか?」と軽く答えて、騎士に近寄ると二言三言交わして軽く頷き「一旦休憩を挟むぞ」と後方に伝えた。
「なあ、マルコ。何で街に入らないんだよ?俺がこの街に来た時と洞窟に向かう時の門番さん達も居ないし、それよか門が閉まってたら入れないじゃん」
「まあまあ、そんなに気にするなよ。ちょっとだけ休憩を挟んだらパレードを行って会場に向かうから今の内に身支度をしといた方がいいぞ」
マルコの軽い返答に疑問に感じながらストレージから水筒を取り出して喉を潤すと、馬の世話をしたり意味もなく“ミスリルの剣”の点検をしたりして暇をつぶしていると「お待たせしました」と声が掛かってきた。
「リョージ、準備が整ったみたいだから騎乗してくれるか?これからパレードをしながら会場に向かって進んで行くから俺の前で馬を進めてくれ。行き方は門を入ってメイン通りを進めばいい。リョージの右側はカレナリエン。左側は部隊長。その後ろから兵士は2列になって付いて来い」
「分かったわ」「了解です」「ハッ!」とそれぞれからの返答が返ってきたが、肝心の亮二からは返事が返って来なかったので訝しげに見ると、馬にブラッシングしてる状況で固まったまま状況についていけていない顔で挙動不審になっていた。
- リョージでもあんな顔するんだな。もっと、泰然自若な対応をされるのかと思ったが、こうやって見ると歳相応の顔をしているな。今みたいな歳相応で今後も行ってくれるなら、こちらとしてはやりやすくて助かるんだけどな -
亮二の顔を眺めて緊張をしていることに気づいたマルコは、カレナリエンと部隊長に目配せをして亮二の指示が無くても馬が進むように左右をしっかりと挟んでもらい、マルコは後ろから馬を押し出す様に進み始めるのだった。
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門から続く沿道にはドリュグルの住人が詰めかけ、英雄が帰還するのを痺れを切らしながら待ち受けていた。今日の朝に辺境伯ユーハン=ストークマンから「”試練の洞窟”から大量の魔物が溢れだし、その中に牛人がいるとの情報があったが、駐屯軍を中心とした部隊が牛人と共に討伐に成功。その中で牛人と一騎打ちを行って見事に討伐した人物がおり、その功績を称えるためのパレードと広場にて恩賞授与を行う」との公布があったのだ。牛人は辺境のドリュグルでは10年前に”試練の洞窟”が発見されてから1度しか出現しておらず、その時も今回と同じように牛人の出現と同時に大量の魔物が発生しており、住人からは「魔物を群れで連れてくるもの」として恐怖の対象として見られていた。前回の牛人発生時には辺境伯が自ら騎兵200名を引き連れて”試練の洞窟”を強襲し、多大の被害を出しながらも撃退に成功。駐屯地の設置につながっている。
今回の牛人発生の公布があった時は住民達に10年前の記憶が蘇りパニックになりかけたが、討伐が成功と書かれている事と、前回と同じなら撃退後はしばらく出現する可能性も低い事が分かっており、そんなドリュグルの街を救ってくれた英雄がどんな人物なのか?今後も何か有れば駆けつけて対応してくれるか?それを自分の目で確かめる為に沿道にはほぼ全ての住人が詰めかけていた。指定の時間から随分と過ぎたが、パレード開始の合図が有り、今か今かと待ち受けていた住民の目に入ったのは、ドリュグルの街では有名人であるカレナリエンと部隊長に挟まれて無理矢理、先頭を進んでいる戸惑いと緊張が混じった顔の子供が入場してくる姿だった。
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「くくく。沿道の住人たちの微妙に戸惑った歓声は面白かったよなリョージ」
住民達はパレードの先頭を進んでいる少年を信じられない思いで眺めていた。パレードの先頭を進んでいるので彼が牛人との一騎打ちをして討伐した事になる。牛人と魔物の群れを撃退したのはユーハン伯爵からの公布があるので、自分の目の前を進む一同を通り終わるまで歓声をあげて皆を称えるのであった。そんな戸惑いが混じった歓声を受けながら広場までを行進した亮二達は急遽作られた壇上脇の待機所で辺境伯ユーハン=ストークマンの演説を聞きながら待っている状態で話をしていた。
「ああ、俺も一緒に戸惑っていたがな。門が開いたら住人があんなに沢山居るって聞いてなかったからな」
「まあ、そう言うなよ。先頭を歩くに値する活躍をしたのはお前なんだぞ。牛人を一騎打ちで討伐したんだから堂々としていりゃいいんだよ」
亮二のジト目での返答に笑いながら返すと、カレナリエンが「相変わらずマルコは人が悪いんだから」と呟いていた。
「もうこれ以上のサプライズは無いよな?マルコさんよ」
ジト目と共に紡ぎだされた言葉が耳に入った瞬間にマルコが目線を反らせたのを見て「まだ何かあるのかよ」と溜息をつく亮二であった。
大勢の前で視線を浴びるのは緊張するんですよ




