30話 魔法の才能 -やれば出来ますね-
出来ると誰かに見せたくなります。
「ねえねえ!カレナリエンさん。聞いて、聞いて!魔法が使えるようになったんだよ!せっかくだから見てくれない?」
朝から物凄い笑顔と高いテンションで話しかけてくる亮二に戸惑いながら、カレナリエンはマルコの方を振り返って目だけで訴えた。
- 今日も朝からリョージさんがおかしな事を言ってる。今、魔法が使えるようになったって言った?ひょっとして昨日の戦闘で頭打ったりしたのかな? -
マルコもカレナリエンの視線で訴えかけられるまでもなく、亮二を心配そうに見ており、カレナリエンに対して軽く頷くと「そっか、そっか。それは良かった。そうだリョージ。魔法を見せてくれる前に、ちょっとだけじっとしてくれるか?」と亮二の肩をガッシリと掴んでカレナリエンと後頭部の確認を始めた。
「おい!別に頭をぶつけたわけでも、オカシクなった訳でもないぞ!本当に魔法が使えるようになったんだってば!」
亮二はマルコとカレナリエンが本気で頭をぶつけたと思い込んで調べようとしていることを理解すると、若干怒り気味に手を振り払った。
「ほら!論より証拠だよね?見てて!」
亮二は右手を掲げると水球を作って二人に見せた。マルコとカレナリエンは満面の笑みを浮かべている亮二と水球を交互に眺めながら同時に唖然と驚愕が入り混じった顔で息を呑みながら亮二に確認を行った。
「お、おい、リョージ。これって“ウォーターボール”だよな?」
「“ウォーターボール”が何かしらないけど、多分そう!」
「多分そうって、お前…。なんで“ウォーターボール”を手元にある状態で維持が出来るんだ?それに呪文の詠唱はどうした?いきなり現れた様にしか見えなかったが?」
「え、リョージさん?詠唱もそうですけど、発動具はどこですか?“ミスリルの腕輪”は私がまだ持ってますよ?それ以外にも何か装飾具を持ってるんですか?」
亮二の余りにも人を喰った返事と浮かんでいる見事な水球を見比べて、今起こっている現実に対して理解が追いついていない2人に対して「大丈夫?」と亮二は心配そうに声を掛けるのだった。
□◇□◇□◇
「つまりなんだ。お前が寝る前に何気に『魔法を使ってみたいな!』と思って、試しにやってみたら出来たって事か?」
「そっ!」
亮二から事情を聞いたマルコは頭を抱えながら「『そっ!』じゃねえよ!」と呟いていた。カレナリエンも驚愕から復帰して球体と亮二を交互に見つめると、ため息をつきながら亮二に魔法についての説明を始めた。
・本来、属性を持っているだけでは魔法を使うことは出来ない
・初級の魔法を使うためには最低半年の師事が必要である
・詠唱無しで魔法を使える人間はほとんどいない
・詠唱後の魔法をその場で維持する事は出来ない
・発動具が無いと魔法は使えない
「え?じゃあ、発動具や詠唱無しで魔法を使ってる俺って何者?」
「それが分かれば驚愕なんてしませんよ?本当にリョージさんって何者なんですか?むしろこっちが聞きたいですよ。何で発動具を使わずに無詠唱で発動した魔法をそのまま維持できるんですか?」
亮二の質問にカレナリエンがセーフィリアに居る人間なら疑問に思うことを確認すると、亮二は真面目な顔で「ノリと勢い?」と返事を返した。亮二にしてもなぜ出来るのかと聞かれても「やってみようとしたら、出来たんだら仕方が無い」としか答え様がない。無詠唱はスキルを取っているから出来るのは理解できるが、発動具なしで魔法をその場で維持が出来ている事は亮二にも詳細は分からなかった。
- 多分「イメージが大切」って感じでテンプレ的な展開でやったのが上手くいったんだろうな。こういったのは異世界モノで散々読んだから試しでやってみたら出来たんだよね -
「「ノリと勢い」って言葉、リョージさん好きですよね」
「でしょ!ノリと勢いは大切よ?」
「何で疑問形なのかは分からんが、リョージ的には“ウォーターボール”をその場で維持するやり方は分ってるのか?」
呆れ顔で話しかけるカレナリエンに対して、人を喰った様な答えをしている亮二に対して、何か知っていると感じたマルコが問いただすと、亮二は「あくまでも俺がやって上手く出来た方法だけど」と前置きをして説明を始めた。
20分後に亮二から説明を受けたカレナリエンの右手には何とか水球の形を維持しているウォーターボールがあった。
「結構、不安定ですが出来るもんなんですね。むしろ、今まで何で思いつかなかったんだろう?でも、これって戦闘の時に何か役に立つんですかね?」
「使い方によったら役立つんじゃない?例えば、水じゃなくて風を身体に纏わせて戦ったら弓矢の攻撃を逸らせるとか?」
「でもそれって魔力を使い続けてる事になるんで魔力が持たないですし、そもそもこっち側から魔法が撃てませんよね?」
カレナリエンの冷静なツッコミに「ほら、そこはノリと勢いで」と気弱げに亮二が言いいながら、右手に水の球体と左手に炎の球状をその場で維持をし始めた。
「あ、出来た」
「『あ、出来た』じゃねーよ!そんな簡単に両手に魔法を発動させるんじゃねぇよ!どれだけ非常識なんだよ!こっちの常識が壊れるから俺の前で突然魔法を使うな!」
魔法に詳しくないマルコから見ても非常識に輪がかかっているのが分かったマルコは、亮二に対して本気でツッコむと魔法の使用を止めさせるのだった。
そんな、怒らなくてもいいのに……。




