318話 戦場でのひと休憩 -ちょっと疑問がありますね-
作戦開始です。
亮二のファイアーボールが連発されたのを確認したアンデルス率いる諸侯軍は、騎士を先頭に突撃を開始した。先頭はアマンドゥスが務めており、直属の騎士団と共に目の前にいる魔物を切り裂いた。
「よいか! ファイアーボールが炸裂している場所はリョージ伯爵とアライグマ騎士団が奮戦中だ! 巻き添えを食らいたくなければ近づくでないぞ!」
「「「はっ!」」」
統率の執れていない魔物の群れに対して、諸侯軍は優位に立った状態で戦闘をしていた。紡錘陣形での突撃は思った以上に効果が出ており、魔物の群れは左右に分断されながら各個撃破されていた。
「よし! 三班と四班は左翼に向かって突撃! 魔物の群れをさらに分断しろ!」
「「「おぉ!」」」
マルコの指示の元、さらに魔物を分断するべく騎士たちが突撃を開始した。戦闘が開始してから1時間が経過しており、怪我人は続出しているものの死者は出ていない事にマルコは安堵のため息を吐いていた。
「ところで、マルコ。私の出番はいつになる?」
「アンデルス殿下が前線に出たら駄目でしょう。本陣でどっしりと構えててくださいよ。ここが一番安全なんですから」
そわそわとしている様子を見ながらマルコが苦笑をすると、自分に出番がない事に気付いたアンデルスは、ガッカリとした表情で戦況の推移を見守るのだった。
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アンデルスがガッカリとしている頃。亮二達は正面に対している魔物達の殲滅戦に移っていた。乱戦になっているために亮二も広範囲な魔法攻撃が出来ず、ミスリルの剣に属性付与をして魔物を個別に討伐していた。
「うしっ! 一通りの魔物は討伐したよな。じゃあ、周りに気を付けながら軽く飲食をしろ。血の匂いで食べられないなんて言うなよ? ここで食事をしないと最後まで戦えないぞ! アラちゃん被害状況は?」
「被害状況についてですが、何頭か馬がやられています。馬に乗っていた奴は後方を固めるように言ってあります。ちなみにアライグマ騎士団で血の匂いがダメな奴なんて一人も居ないので安心して下さい」
亮二の休憩の指示と問い掛けにアラちゃんが答えてきた。その返事に力強く頷いてストレージから水筒を取り出して飲み干すと、亮二はアラちゃんの馬に飛び乗って立ち上がると叫んだ。
「いいか! 俺はこれから戦場を駆け巡って首謀者を探しだす! 大体、帝国の内乱って話なのに魔物しか現れていないのはおかしいんだよ! ちょっと探してくるから、後はアラちゃんに任せる。どっちにしろ、ここまで乱戦になると大規模魔法も撃てないからな。俺が抜けても大丈夫だろ?」
「ええ。任されました。お好きなように暴れてきて下さい。この魔剣に誓って部下を守りますよ」
アラちゃんの言葉に亮二はニヤリと笑うと、心配そうにしているカレナリエンに馬を降りて笑顔で近付くと耳元で囁いた。
「心配?」
「当たり前です! 戦場を駆け巡るのは一人じゃなくてもいいじゃないですか。それに、今までは誰かが一緒だったじゃないですか! リョージ様は冒険者じゃなくて、伯爵としてここに来られてるんですよ。無事に王国に戻るのが一番大事な仕事ですよ?」
目の前で満面の笑みを浮かべている亮二に、悟りきった表情から、心配そうな顔になって問い掛けてきたカレナリエンに、髪をガシガシと掻くと亮二はカレナリエンを抱きしめながら耳元で囁いた。
「俺の国では『無事に帰ってくる』って死亡フラグなんだけど。あえてその台詞を言うよ。無事に帰ってくる。だから安心してアラちゃんのサポートを頼む。ドリュグルの英雄である俺を信じろ」
「ずるいですよ。『俺を信じろ』なんて台詞。なにも言えなくなるじゃないですか。……分かりました。アラちゃんのサポートはお任せ下さい」
カレナリエンは亮二の台詞にクスッと笑いながら返事をし、抱きしめ返して頬に口づけをするのだった。
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「おい。なに見てんだよ」
「はっはっは。若いって良いですね。俺も早くこの戦いを終わらせて、家族のもとに帰りたくなりましたよ」
アライグマ騎士団の面前で抱きしめ合った上に、頬への口づけを公開したカレナリエンは真っ赤な表情で馬に乗ってソッポを向く。そんな様子をニヤニヤとしながら亮二とアラちゃんが見ていると、さらに顔を赤くして叫んだ
「アラちゃんも仕事をしてください! リョージ様も早く行ってきて下さい! 怪我なんかしても知らないんですからね! 気を付けてくださいね」
「なっ? 素晴らしいだろ? 俺の婚約者は」
「そうですね。でも、これ以上はからかうのは止めときます。後が怖いので。そう言えばクロちゃんは偵察から帰ってきてないんですか?」
カレナリエンの叫びを楽しそうに聞いていた亮二とアラちゃんだったが、この場にいるもう1人の婚約者が居ない事に気付いて質問した。
「ああ。まだ帰って来てないみたいだな。でも、クロなら大丈夫だろ。それに護衛も二人付いてるしな」
亮二の言葉にアラちゃんは納得すると、周りに居た騎士達に出発の準備をするように伝えた。準備が整った事を確認すると身体に風属性魔法を纏わせ、ストレージからミスリルの剣を取り出すとそのまま剣を掲げた。
「後は任せた! カレナリエンもアラちゃんのサポートを頼むよ!」
「はい! 気を付けて!」
「安心してください! カレナリエンさんはアライグマ騎士団の名に賭けて安全を保証します!」
カレナリエンとアラちゃんだけでなく、周りに居た騎士達も大声で亮二へ鬨の声を上げるのだった。
それほど広い戦場じゃないから、首謀者はすぐに見つかるだろう。