247話 迷宮探索7 -ラスボスの部屋に突入しますね-
ラスボスの部屋の前までやってきました!
「じゃあ、気を取り直してラスボスを倒しに行こうぜ!」
亮二が気楽に扉を開けようとしたが、誰からも返事が返ってこず、訝しげに振り向くと納得した顔と、納得出来ない顔が軽く円陣になって亮二を眺めていた。どうやら討伐ポイントの話が続いているようで、カレナリエンがベッティ達に説明をしているようだった。
「リョージ様の討伐ポイントの多さについては『やっぱり』と思う気持ちがありますね。討伐した数の多さだけでなく、“2つ首ドラゴン”や“牛人”“暴れる巨大な角牛”などの質としても申し分のない魔物を倒されていますからね。ポイントの数はギルドに報告しておきますが、リョージ様のランクはどうなるんでしょうね?【S】ランクの冒険者を、今まで見た事が無いので分かりませんが…」
「俺達には、雲の上の話し過ぎて付いていけないです」
カレナリエンの説明に呆然とした表情のままベッティ達が呟いていたが、亮二の視線を感じるとカレナリエンが説明を始めた。
【C】ランクから討伐ポイント数でランクが決まるが、サンドストレム王国の最高ポイントは【A】ランク冒険者の50万ポイントとの事で、ドリュグルの街にいた【A】ランク冒険者で、ギルドマスターでもある“飛竜を砕く者”の二つ名を持つクセニアの討伐ポイントでも30万との事だった。
「今の話だと、リョージには【S】以上のランクが必要になるの?」
「そうかもしれませんね。取り敢えずは【S】ランクになってもらってから検討でしょうね。今までリョージ様が【B】ランクだったのがおかしな話だったのですから」
ライラの疑問にメルタが頷きながら答えた。扉に手をかけたまま話を聞いていた亮二だったが、メルタ達の会話を聞いて慌てて扉から手を離すと、焦った表情で周りにいた一同に確認をした。
「俺が【B】から飛び級で【S】になるって事?【A】ランクはどうなるの?」
「飛び級になりますね。最終的には【S】以上のランクになるとは思いますが、【A】ランクは飛ばされるのは間違いないのではないでしょうか?それがどうかされたのですか?」
メルタの返事を聞いた亮二の姿は誰の目にもがっかりとした表情で、肩を落として落ち込んでいるように見えた。心配したカレナリエンが声を掛けようとしたタイミングで、勢い良く顔を上げた亮二と視線がぶつかった。
「【A】ランクを飛ばされたら、俺のランクアップ祭りの回数が1回減るじゃん!」
「えぇ!そっち!そんな事を気にして落ち込んでいたのですか?」
亮二のがっかりした理由に、カレナリエンが目を丸くしながらツッコミを入れると、亮二は少しだけ真面目な顔をして理由の説明を始めた。
「当たり前じゃん!冒険者ランクに執着もなにもないけど、お祭りは楽しいじゃん!せっかく、領地持ちになったんだから俺が祝い事をすれば、領民全員でワイワイ出来るし、楽しければ笑顔も増えるし、活気も出るじゃん!レーム前伯爵が領民から笑顔を搾り取ったんなら、俺がその分を皆に返してやるんだよ!」
一気に説明した亮二を、一同は何も言わずに眺めていた。一同から無言で視線を浴びた亮二が首を傾げながら「どうしたの?」と質問すると、カレナリエンが代表で答えた。
「リョージ様があまりにも立派な事を言われたので思わず硬直したのと、その後でなにか私達が引っくり返るような発言をされるかなと思ったので待ってました」
「なんでだよ!俺でも物凄く稀だけど、いい事を言うよ!マルコが居たのなら、必ず引っくり返るようなことを言ったけど!」
亮二の言葉に苦笑しながら「じゃあ、マルコが居たらなんと仰るのですか?」とカレナリエンが確認すると、亮二は嬉しそうにしながら答えた。
「ん?マルコが居たらきっと『珍しくまともな事を言ってるな』と言ってくるだろうから、「マルコが居ない時だったら、俺は真面目なんだよ!もう、マルコが居ないとボケられない!」って感じかな?」
「で、その直後に“ミスリルのハリセン”で全力で叩かれる訳ですね。マルコの代わりは私達では役者不足ですので、早く代わりの人を見つけて下さいね」
切実な表情でカレナリエンからお願いされた亮二は苦笑しながらも頷いて話を終わらせると、再びウッドゴーレムが居る部屋の扉に手を掛けて後ろを振り向いた。
亮二の視線の先には“火炎の剣”“氷炎の剣”“雷炎の剣”を構えた真剣な顔のベッティ達と弓に矢を番えて、いつでも撃てる状態のメルタと後衛2人がいた。ライラやクロも武器を構えており、カレナリエンも魔法を放つために精神を集中させていた。
「じゃあ、今度こそ!気を取り直してラスボスを倒しに行こうぜ!」
「「「「「おう!」」」」」
「「「「はい!」」」」
カレナリエン達やベッティ達から気合の入った返事が返ってきたのを確認すると、亮二は扉を全力で開いてウッドゴーレムが待ち受けているであろう部屋に突入するのだった。
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「遅いねん!自分らどれだけ部屋の前で漫才してるねん!ちょっと本気で勘弁して欲しいわ!」
扉を開けて中に入ったと同時に掛かってきた声に警戒した亮二達が、部屋の中央に居たウッドゴーレムに鋭い視線を投げると、別の場所から再び声が掛かった。
「ちゃう!こっちや!そんなウドの大木ほっといて、うちの事を見てや!」
亮二達が声の方に視線を向けると、木の形をした30cmの小さなウッドゴーレムが居た。
「えっ?なにこれ?ウッドゴーレム?燃やす?」
「そうそう。火を付けたら勢いよく燃えるやろなぁ。枯れ木みたいな状態やからな。って!なんでやねん!燃やす前に聞く事あるやろ!ってか、燃やすなや!」
「おぉ。ノリツッコミ。やるじゃん」
亮二の言葉に頷いた後に「なんでやねん!なんでやねん!」と暴れている小さなウッドゴーレムに亮二以外の者は呆然とするのだった。
関西人みたいなウッドゴーレムが現れました。