182話 貧民対策5 -騒動は落ち着きましたね-
家族を養う為にってテンプレだけど、頑張ってほしいね。
「じゃあ、細かい話を聞こうか?遠慮無く、そこの椅子に座ってくれていいから」
「ええ、じゃあ遠慮無く」
少年は緊張しながら椅子に座ると周りを眺めた。天幕の中は殺風景で、不釣り合いな扉が天幕の奥に設置されている以外は何も置かれていなかった。少年の視線に気付いた亮二が納得の表情で扉を開けると、奥でお茶の用意をしていたメルタが「どうされました?お茶でしたらもうすぐ用意が出来ますよ?」と不思議そうな顔で答えた。
「っと、こんな感じで扉の奥に部屋が有る魔道具なんだよ。だからここは殺風景になってるわけだ。で、さっきの話の続きだけど『家族を養う必要が有る』って言ってたよね?」
「あ、あぁ、俺の家族は5人いるんだ…ですよ。だから俺が家族を養わないといけないんです」
亮二から「父親は?」との質問に、メルタからお茶を貰った少年は緊張を落ち着けるように飲みながら今までの事を話しだした。父親は5年前に病気で死んでおり、それ以降は母親と2人で働いて家族を養っていたが、今年に入って体調不良で母が倒れてしまった。母親の治療費と生活費を稼ぐために様々な仕事をしていたが、兄妹の面倒を見ながらでは仕事も多く出来ずに困っていた。少しずつ貯金も減っており、ここ最近は救済所でお世話になっていた。今回の募集内容に託児所が有ると書かれていたので応募したとの事だった。そんな少年の話をお茶やお菓子を食べながら聞いていると、天幕の外から大きな声が聞こえてきた。
「リョージ様!先ほどの騒動を起こした全員を連れて来ました。5名とも反省しているので許して欲しいとの事です」
亮二は一同を天幕の中に入れた。改めて5名から謝罪を受け取ると、一人ずつの目を見て反省している事を確認した亮二は全員に聞こえるように話し始めた。
「俺に対しての態度は気にしてないよ。俺も自分が何者かを言わなかったからね。でも、規律を守れないのはダメだと思うんだよ。そこは分かってくれるよね?規律を破った者には罰が必要なんだ」
連れてこられた5名は亮二の柔らかな声に最初はホッとした表情を浮かべていたが、“ドリュグルの英雄”である亮二から罰が必要であると聞くと青い顔で震えだした。そんな様子を見ていた亮二は軽やかに笑うと罰の内容を話し始めた。
「じゃあ、俺から君らに与える罰は、ここにいる少年の配下となって動くこと。この少年の言葉は俺からの言葉と思ってくれていいから」
「え?それってどう言う事ですか?」
首を傾げている男5人と同じように少年も理解が追いついていない顔をしながら呟いたが、亮二から再度「君が彼らの面倒を見るんだ」と説明を受けると慌てたように断りを入れてきた。
「無理だよ!俺は人なんて使った事ない!それにさっき喧嘩してた人だぞ…ですよ!」
「そのためのサポートも付けるよ。そこの君。所属は?」
亮二から所属を聞かれた騎士は、ハーロルト公爵付きの騎士である事を告げたが、亮二の顔を見て嫌な予感に身構えた。そんな様子を眺めていた亮二は、何かをされるだろうと分かる笑顔を浮かべると騎士に向かって質問をおこなった。
「騎士道はこの国にある?」
「もちろんです!騎士道は王国のためにあります!」
亮二の質問に騎士が胸を張って答えた。それを聞いた亮二は騎士に近付くと目を見て語り掛けた。
「俺が居た国では“教会への忠誠と王国への愛国心。社会的弱者への敬意と慈愛と擁護を惜しみなく与える。敵に対する不屈の戦い。真実と宣誓に忠実である。悪の力に対抗し正義を守る。”ってのが騎士道だった。かなり省略したけど、サンドストレム王国でも同じだよね?」
「もちろんです!我が王国でも騎士道はそういったものです。少し言い回しは違いますが」
「じゃあ、なんでさっきは守れなかったの?まさか、貧民対策に来る人は守る価値は無いって事?」
「いえ、そんな事は有りません…」
騎士道について問われた騎士は最初こそ威勢よく話していたが、亮二から今回の騒動での対応を聞かれると声が段々と小さくなり最後は黙ってしまった。亮二はその様子を見て「挽回するつもりはある?」と問いかけるのだった。
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「挽回ですか?」
「そう、さっきの行動は騎士としてどうかと思うんだよね。その場を抑える為とはいえ適当にするのは良くないよ。これからもっと上を目指すなら、この子を育ててみてくれないかな?ハーロルト公爵には俺から言っとくからさ」
「この少年を育てることが挽回に繋がるのですか?」
「そうだよ。この子は人を率いたことがない。でも、将来性はあると思っている。力の差を考えずに筋を通すのは並大抵では出来ないと思うんだよね。決定的に足りない知識や経験を教えてあげて欲しい。その中で“社会的弱者への敬意と慈愛と擁護を惜しみなく与える。”事を君自身も学んで欲しい。俺に誓える?その少年をしっかりと導くと。“真実と宣誓に忠実である。”と」
「分かりました。我が名誉に誓って彼が立派に人を率いれるように鍛えましょう。さっきは済まなかったね。君の名前を教えてもらっていいだろうか?」
「お、俺の名前はリカルドって言うんだ。まだ、よく分かってないけど、家族を養うためだったら頑張るよ!リョージ様!俺、頑張るからね!」
「よろしく、リカルド。私の名前はコルネール=ツェルニクだ。お前達も隊長となるリカルド殿に挨拶を!」
亮二の言葉に騎士は恭しく誓いを立てるとリカルドに謝罪を行い、自分が連れてきた5人の男達を整列させるとリカルドに挨拶をさせていくのだった。
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「なんか、いつものリョージ様じゃない感じでしたね」
「でしょ?たまには格好良いところを見せとかないとね。でも、やっぱりマルコが居ないとオチが付かなくて締りが悪いね」
「なんとしても、オチを付ける必要はないんですよ?」
真面目な話は、どこまで真面目な顔をしたらいいか悩みます。