176話 ハーロルトとのやりとり -色々話が進みますね-
話に夢中になり過ぎて時間を立つのを忘れます。
亮二とシャルロッタはハーロルトと食事をしながら、この一ヶ月の出来事を報告していた。シャルロッタから、講師の大量退職によって人員が不足した結果、残った人間に業務が集中し、倒れる者が出てきそうだとの報告を受け、ハーロルトは早急に対応する事を約束した。
「本当にお願いしますよ。ハーロルト公。俺なんか本気で過労で倒れそうなんですから」
「その割には楽しそうじゃがな。“ドリュグルの英雄”ともあろう者が、一ヶ月程度で音を上げるのか?」
亮二の愚痴にハーロルトは笑いながら答えると、亮二も「楽しいのは事実ですね」と苦笑するのだった。シャルロッタは、大貴族であるハーロルトと対等に話をしているリョージの事を尊敬の眼差しで見ていると、ハーロルトの視線を感じ、慌てて頭を振って話し始めた。
「そ、そう言えば、1割は学院に収めてもらいましたが、それ以外のリョージ君達が獲得した賞金の使い道は決まったのですか?」
「ああ、それならエリーザベトとオルランド殿から計画書が届いておるから後で渡そう。シャルロッタ学院長にも関係ある話じゃからな」
ハーロルトから自分にも関係がある話と言われて気にはなったが、それ以上に気になる言葉があったので、首を傾げながら質問をした。
「あの、先ほど、オルランド“殿”と言われましたが、やっぱりエリーザベトさんとお付き合いされてるからですか?」
「ああ、それはな。オルランド殿が教皇だからじゃよ。儂としてはオルランド猊下と言いたいのじゃが、彼から拒否されてしまっての」
「はぁぁ?し、失礼いたしました!あまりの事に混乱してしまいました。オルランド君が教皇?え?教皇様は教皇領の神殿に篭られているのでは?えっ?ど、どういう事?」
「シャルロッタ学院長。混乱しているか、冷静なのか、どっちなんですか?」
「混乱しているに決まってるでしょう!オルランド君が教皇様?え?でも、教授会の時にハーロルト公が『身分が違う』とか言ってましたよね?」
亮二からのツッコミに対して、若干口調を荒くして答えながら質問をすると、亮二に変わってハーロルトから答えが返ってきた。
「ああ、それは教皇に嫁ぐにはエリーザベトの身分が低いとの意味じゃな」
「公爵令嬢なのにですか?」
「爵位は関係ないな。教皇に嫁ぐには最低でも単なる信徒ではなく修道女にはならんとな」
シャルロッタからの疑問にハーロルトは答えると、まじめな顔になって2人に対して話し始めた。
「リョージと共同の貧民対策が始まった段階で、エリーザベトとオルランド殿を教皇領に送るつもりでいる。リョージには迷惑を掛ける事になるが勘弁してくれんかの?」
「本当に急ですね。理由を聞いてもいいですか?」
「先ほども言ったようにエリーザベトを修道女にする為じゃ。修道女として認められるには2年は修行する必要がある。その間にオルランド殿にはエリーザベトとの結婚が問題ないように地盤をしっかりと固めてもらおうと思ってな。教皇との結婚は、そんな簡単に出来る事ではないのじゃよ。オルランド殿が教皇でなければ、ここまで苦労せずに済んだものを。2人して嬉しそうな顔で報告に来おって」
その時の事を思い出したのか、ハーロルトは「子供が巣立つのは早いものじゃな」と溜息を吐くのだった。
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「エリーザベトさんとオルランド君との事は、おめでたい話に向かって進むので祝福しますが、人材の不足解消の件についてもう少しお話を聞かせて頂けませんでしょうか?先ほど『早急に対応する』との言葉は頂きましたが、具体案が有れば教えて頂けますか?このままではリョージ君が逃げちゃいそうなんで」
「いや、逃げないからね!まだ大丈夫!逃げるほどじゃないよ!」
「『まだ』って言葉に物凄い不安を覚えるのですが…」
シャルロッタの質問に「まだ大丈夫!」と亮二が胸を張っていると、ハーロルトが苦笑をしながら人員補充について説明を始めた。
ライナルト主任教授を現場に一時的に復帰させること。 “試練の洞窟”で深部調査をした学者チームを学院に召集すること。お金がない子供に対して私塾を開いている人物に事情を説明して、生徒ごと学院に来てもらうこと。その際の費用は王家が負担すること。教員側の人数が揃えば、現在の特別クラスと普通クラスを細分化して3年制とすること。3年制に移行する際に、2年生は卒業するも進学するも自由に選べること。現行の週授業6日から5日に変更し、休日を2日に増やして講師の疲労軽減及び、研究時間を持てるようにすること。学院に所属している講師、教授は年に1度優先的に研究の成果発表が出来ること。
ハーロルトからの説明を聞いたシャルロッタは大きく目を見開くと感想を述べた。
「凄い内容ですね。私塾を開いてる方なら即戦力ですしね」
「ああ、ほとんどリョージの発案じゃがな。将来的には学科も魔術だけでなく剣術や、算術なども教えるようにする。名称も王立魔術学院から変更する必要があるじゃろうな。さらに勉強したい者は、これから設置する“大学院”に進学することも出来る。大学院では2年の学院生活で研究論文を3本発表して教授会で認められれば学院の講師や教授として推薦される」
ハーロルトの説明にシャルロッタが亮二を見ると、こちらに向けて人差し指と中指を前に出していた。その仕草は分からなかったが、亮二の顔を見ると自慢しているポーズだと理解した。シャルロッタは「身分に関係なく優秀であれば教授に推薦されるのですか?」と質問するとハーロルトから笑顔とともに答えが返ってきた。
「そうじゃ、セオドアのような縁故によってなる教授や、ライナルト主任教授のように10年に一人の天才ではなくても教授になることが出来るのじゃ。教授になれなかった者も講師として採用し、職に困らないようにするつもりじゃ。これなら将来的に人材が不足することもなくなるじゃろ」
「そう言えば、シャルロッタ学院長に突っかかっていた人はどうなったのか知ってます?大量退職者の中に名前がありましたよね?」
亮二の質問にハーロルトは首を傾げながら思い出そうとしていたが、心当たりがないのでリストに書かれた者の末路を説明した。
「ん?その者かどうか分からんが、大量退職者には新しい職場を紹介してやったぞ。やりがいのある職場じゃ。あの2人とは違って自分で稼ぐことが出来るからの。食い扶持は自分で稼いでもらわんと」
一瞬だけ覗かせたハーロルトの眼光に「どこに連れて行かれたのですか?」とは聞けないシャルロッタだった。
もうちょっとで過労から解き放たれる!