173話 教授会でのやりとり -揉めているようですね-
かなり揉めてるようです。
「あまりに激高されると“図星を指されたのでは?”と思ってしまいますな。とにかく!今は教授会の最中です。シャルロッタ先生は軽挙な発言を慎むように注意します。セオドア教授、失礼致しました」
シャルロッタに注意を行った後のカミーユからの謝罪に対して、鷹揚に頷いたセオドアは続きを話し始めた。
「構わんよ。シャルロッタ先生もまだまだ若いですからな。その件は置いといて、ライナルト主任教授は私の意見に対してどう思われますかな?それと可愛がっている“ドリュグルの英雄”の功績に対してなにか一言ありますかな?学院の発展のためにとは言え、大きな金額を納めるような内容です。上手く庇えば“ドリュグルの英雄”から謝礼金が出るかもしれませんぞ?」
セオドアから話を振られたライナルトは最後のセリフに不快感を示したかのように眉を寄せて発言しようとしたが、学院長のクリストフェルが先に発言をしてきた。
「まずは、リョージ君に対して“初級探索者ダンジョン”の攻略おめでとうと伝えてくれたまえ。流石は私が見込んだだけの事はある、セオドア教授の意見についてだが、私も学院の発展のために“初級探索者ダンジョン”から出た特別報酬は、学院のために使うべきだと思う。“ミスリル鉱石”や“ドラゴンの魔石”は研究材料としては特級品だ。素材に関しての規定は無いのだから、研究材料として全てを収めてもらう事も考えてはどうだろうか?リョージ君が必要であれば、買い取ってもらうのもいいかもしれんな。この件についても、ライナルト主任教授の意見を聞きたいね」
クリストフェルの発言にライナルトは「金に執着する俗物共が」と小さく呟くと、悔しそうにしているシャルロッタの目を見ながら微笑むと、セオドアに向かって話し始めた。
「今回の“初級探索者ダンジョン”の攻略は“ドリュグルの英雄”の名に相応しい活躍ですね。心からのお祝いを述べさせてもらいます。セオドア教授の意見についてですが、シャルロッタ先生はリョージ君に正当な報酬を渡す必要が有ると言っていますよね?私もその話に賛成です。学院の規則で『“初級探索者ダンジョン”の中で手に入れた物は1割を学院が徴収する』とあるのですから、それに従うべきです。先ほど、学院長は素材に関しては規定が無いとおっしゃいましたが、『初級探索者ダンジョン”の中で手に入れた物』と有りますので素材も該当するでしょう。それに特別報酬の金額が大きいからと6割も徴収するとは荒唐無稽でお話にもなりませんね。教授会はいつから金の亡者になったのですか?」
「口の聞き方に気を付け給え!いくら主任教授とはいえ、失礼にも程があるぞ!ライナルト君!」
「取り敢えずは、リョージ君をここに呼んで話を聞きましょう。そもそも彼が拒否したらどうされるのですか?」
ライナルトの提案にセオドアは鼻で笑いながら「まあ、よかろう」と提案を受け入れるのだった。
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職員室で待機するように言われていた亮二が教授会の行われている会議室に入ると、一斉に視線が集中した。視線を気にする事なく亮二は周りに視線を投げると、悔しそうに唇を噛んで俯いているシャルロッタと、そんなシャルロッタを嬉しそうに見ているカミーユを確認していると、ライナルトが亮二に対して話し掛けてきた。
「リョージ君に対する特別勲章の授与は、ほぼ決定となりましたが、“初級探索者ダンジョン”での特別報酬に対しての徴収額について揉めていてね。細かな経緯は置いといて、彼処にいるセオドア教授と学院長は『素材は全部没収、金銭は6割徴収』と主張している。そうそう、素材に関しては買い取るのなら譲ってあげてもいいと有難い言葉もあったね。この件についてリョージ君の意見が聞きたいな」
「ちなみに、シャルロッタ先生とライナルト主任教授のお考えは?」
「僕たちは規定通りに『1割徴収』だね。全く何もしていないのに金貨500枚の大金が入ってくるのだから、1割でも学院に取ったら物凄い臨時報酬だよね」
ライナルトの説明に亮二は「なんじゃそりゃ。学院長はボッタクリかよ」と呟きながら、改めて教授会メンバーを見渡した。学院長であるクリストフェルは亮二と視線が合うと「君の答えは分かっているよ」と言わんばかりの表情で鷹揚に頷いていた。クリストフェルに対して微笑みかけると「減点するにも、元々点数が無いな」と再び呟きながら、今回の主犯であろうセオドアに視線を向けた。
「金貨2000枚でも大金だと思うが、君にそれ程の大金が必要かね?“ドリュグルの英雄”とはいえ、まだ11才の子供である君では使い道は無いと思うがね?」
「お気遣い頂きありがとうございます。しかしながら、私はマルセル王から名誉伯爵に任命された身です。これから貴族の務めとしてエリーザベト嬢と貧民対策を考えておりましたが、今回の報酬はその資金にと考えておりました。もちろん学院にも研究所を建てたいと考えております」
「り、立派な考えだとは思うがまずは学院で預かって、利用用途はこちらで考えさせてもらおう!皆さんもそれで問題有りませんな!これから多数決による投票に移らせていただきますぞ!」
亮二の“礼節 7”のスキルで対応されたセオドアは、自分がいかにレベルの低い事をしているかと亮二から説明されている気分になり、声が上ずった状態で強引に話を終わらせると投票による決定に移ろうとした。
「なにやら揉めておるようじゃな?良ければ儂が手伝ってやろうかの?」
「なっ?ハ、ハーロルト公爵?なぜこのような場所に?」
会議室の入り口から届いた人を引き付けるような声に、一同の視線が集まるとハーロルトは嬉しそうな顔をしながら会議室の中に入って来るのだった。
ハーロルト公が嬉しそうにやって来ましたね。