161話 詠唱短縮授業2 -実技授業ですね-
授業はまだまだ続きます。
「じゃあ、早速やってみようか。ロサは【水】属性魔法を詠唱短縮で唱えてみて」
「分かりました。では行きますね。”我、敵を撃たん!"ウォーターアロー"”」
ロサが詠唱短縮で打ち出した"ウォーターアロー"は、亮二が【土】属性魔法で作った器に注ぎ込まれるように溜まっていった。一同は容器の周りに集まってロサの手元を凝視しながら魔力の流れを感じ取ろうとしていた。
「魔力の流れを感じるのじゃなくて、水についてのイメージを膨らませて欲しい。水は冷たい?勢いはゆっくり?それとも滝くらい?量は瓶満杯?それともコップ一杯?どこまで水を飛ばすの?水について出来る限りイメージしながら詠唱を短縮してみよう。ロサもちょっと水を触りながら詠唱短縮してみて」
「うゎ!威力が上がった」
「それは、ロサが水のイメージを掴みやすくなったからだよ。これから修練場に向かうから、みんなもイメージをしてみて。実際にイメージしながらやってみよう」
亮二は講義を聴きに来ている生徒達と修練場に向かうのだった。
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「じゃあ、ロサが手本を見せたから、みんなも自由にイメージを持ちながらやってみて。出来そうって思ったら声を掛けて!出来た人から順番に俺からプレゼントをあげるよ!1番最初に詠唱短縮が出来た人には“犬人の魔石”10個か、俺が作ったポーションを5本のどちらか好きな方をあげるよ!」
亮二の言葉に一同から歓声が上がり、学生だけでは無く冒険者や宮廷付きの魔術師達も張り切って詠唱短縮を試しだした。
「それって、先生も挑戦していいかな?」
「え?シャルロッタ先生もですか?もちろん構いませんが、さっきはノリと勢いで言いましたけど、大丈夫かどうかの方を心配していたんですが」
「それだったら大丈夫です。贔屓をしている訳では有りませんからね。それにもうすぐ名誉伯爵になるリョージ君の言葉ですし、宮廷魔術師のヘルマン様からも止めが入りませんでした。むしろヘルマン様もやる気満々のようですね」
シャルロッタから申し訳無さそうに参加表明が有ったので、亮二はノリで言ったことに問題なかったことにホッとして了承すると、シャルロッタの視線の先を見て思わず笑ってしまった。
「ヘルマン様は何をしているんですか?」
「え?い、いや。部下が先に詠唱短縮が出来たら上司として示しが付かないでしょう?決してリョージ殿が作ったポーションを手に入れたいとかではないですからね」
参加者の中で一番立派な杖を持った状態で眉間にシワを寄せながら詠唱短縮に取り込んできたヘルマンは、話しかけてきた亮二に対して、慌てて背中に杖を隠すと必死に言い訳を始めるのだった。
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亮二が思っていたよりも学生の方が詠唱短縮のイメージを掴み取れているように見えた。冒険者や講師陣、ヘルマンを始めとする魔術師も今までの経験が邪魔をするようだった。亮二のアドバイスを受けて実行しようにも無意識に全ての詠唱を唱えてしまい、また、意識して詠唱を短縮させようとすると魔力が杖に上手く伝えられなく悪戦苦闘していた。
「リョージ君!出来たよ!見て!“我、清き流れ、敵を撃たん!”ウォーターアロー”“」
「おぉ!やるじゃん!オルランド!ロサに続いて2人目だよ!その調子でどんどん短縮して!」
「あぁぁ、間に合わなかった…。私のポーションが。ドリュグルで噂になっている5倍ポーションを手に入れるチャンスが。終わった。私の人生が終わった…」
「えぇ!ヘルマン様!終わってませんよ!大丈夫です!5倍ポーションが手に入らなかったからといって人生を終わらせないで!上げるから!ポーションで良かったら後で上げるから!なんで、この国の偉いさんはメンタルが他とは違うの?」
オルランドの後ろで膝と両手を地面につけて絶望の表情で呟き続けていたヘルマンを見付けた亮二は、慌てて近寄ると手を取って慰め始めるのだった。
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「そろそろ時間なんだけど、詠唱短縮が出来たのはオルランドとヘルマン様とルシアとマイシカとマテオは当然として、他にはいないんですね。やり方が悪かったのかな?」
「そんな事は有りませんよ。リョージ君が教えてくれた“イメージを持って”魔法を使うと魔法の威力が上ったんですよ。これは大きな発見ですよ!詠唱さえしていればいいわけではない事が分かったんですから!」
「そうですよ。リョージ殿。貴殿のお陰で王宮の魔術師達の魔法の威力が上がりました。私は詠唱短縮も出来ましたしね。後は王宮に戻ってからイメージのコツを教えて、魔法の威力増強と詠唱短縮を目指しますよ。それと、ポーションの件は忘れないで下さいね!必ず貰いに行きますので」
「そこまでポーションを気にして頂けるなんて嬉しい限りです。良かったら作るところも見に来ます?次の休日にポーションを作ってドリュグルに送る予定な…「行きます!必ず行きます!」わ、分かりましたから手を離して!」
亮二の誘いにヘルマンは喜色満面の笑みを浮かべると握りしめた手を上下に振って、亮二の屋敷に行くことを宣言するのだった。
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「ヘルマン様。その日はマルセル王と会談の予定が…「構わぬ!」」
「駄目だよ!構って!マルセル王との会談を取りやめないで!別の日でもいいんだから!」
「分かりました!ではマルセル王との会談を別の日にしてもらいます!」
「駄目だからな!」
テンションが急に変わるのはラルフ枢機卿だけじゃなかったようです。