146話 放課後の一コマ -それぞれの話ですね-
最短記録を俺に頼らず頑張ってもらいたいです。
来週の中頃にダンジョンにアタックする事が決まった生徒達は、浮足立ったかのように家路についていた。亮二達は恒例となった屋台街で買い食いをしながらダンジョンにアタックする為の作戦を話し合っていた。
「ついに来週だね。うちには【黒】の勲章を持つ、リョージ君が居るから楽勝だよね!」
「そうそう、記録を塗り替えるんじゃない?」
マイシカとルシアが嬉しそうに果実をかじりながら話していると、亮二は軽くため息を吐きながら話し始めた。
「俺は“初級探索者ダンジョン”にアタックする時に先陣を切って進む気は無いよ。大体、最短記録に挑戦するんだったらソロでやるよ。ねぇ、ロサもそう思わない?」
「確かにね。リョージ君が本気でするんだったら、私達は邪魔者でしかないわよ。それにリョージ君が全部やったら貴方達の成長に繋がらないわよ。私と違って、これから冒険者になる可能性が高いんでしょ?だったら自分で出来る事は自分でやって、リョージ君にはサポートを中心に対応してもらって危険とリョージ君が判断した時に助けてもらったらいいのよ。よく考えてみて?全力でやっても、後ろに“ドリュグルの英雄”が控えているのよ。誰が見ても羨ましすぎるわよ」
ロサが説明する毎に納得の表情を浮かべたルシアやマイシカを見て亮二はホッとすると、さっきから会話に参加していないマテオに視線を投げると真剣な目で亮二を見返してきた。
「リョージ君。俺の働きを見といてね。雇って問題無い事を証明するから!」
「お、おう。無理はしないでくれよ。雇う前に死んじゃったら寝覚めが悪いからね」
マテオの決意表明に亮二は苦笑いを浮かべながら慎重に行動するようにと釘を刺すのだった。
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「来週は“初級探索者ダンジョン”へのアタックです。皆さん準備は大丈夫ですわよね?目指すは最短での攻略ですわよ!」
「エリーザベトさんが僕達のリーダーなんだから従うけど、無茶はさせないでよ。1回目なんだから様子を見ながら行こうね?」
エリーザベトの掛け声にオルランドが慎重論を唱えると、エリーザベトはオルランドを軽く睨みつけるようにして黙らせると勢い良く話し始めた。
「いいですか!相手は【黒】の勲章を持つリョージさんです。きっと彼を全面に出して最短記録を狙ってくるでしょう。”ドリュグルの英雄”である彼が全力で攻略を始めたら、ゆっくりしている暇なんて無いんです。最初から全力で行くつもりでアタックしますわよ!」
「分かったよ。でも、引き際だけは気を付けてね。君がこのチームのリーダーなんだ。まだ僕は死にたくないから」
エリーザベトの勢いにオルランドは諦め気味に返事を返しながらも、再度慎重に進むように伝えた。エリーザベトは亮二の『全滅するよ』との言葉を思い出して眉をしかめたが、それを振り払うように首を振ると無理矢理笑顔を作って「頑張りましょう!」と決意を新たに、掛け声を上げるのだった。
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「今年の新人たちはどうなりますかね?」
「エリーザベトさんが少し心配ですね。能力自体は【紫】の勲章に相応しいんですが、どうもリョージ君をライバル視しすぎていますね。“初級探索者ダンジョン”は丁度いい試練になるんじゃないですか?」
職員室で一般クラスの教師に話しかけられたシャルロッタは、軽く眉を寄せて一番心配なエリーザベトの事を話していると、近くに居た他の講師や教授たちも集まってきて、今年の1年の出来の良さや今後の課題を話し始めた。
「そう言えば“ドリュグルの英雄”のリョージ君はどうなんですか?入学試験の時とは違って、これと言った話が出て来ませんが?」
「そうですね。物凄く優等生ですよ。エリーザベトさんの少し上くらいですかね?ただ、彼はまだ様子を見ているような感じがしますね」
「様子見ですか?」
「そうなんですよ。入学試験の様子を私も見ていましたが、魔力は文字通り測れないほど有って、属性魔法についても自由に使いこなす事も出来る。はっきり言って『ここに何をしに来たの?必要ないじゃない!』って思いましたからね」
苦笑しながら話すシャルロッタに対して講師や教授も同意するように頷いていた。
「彼は何故学院にやって来たんでしょうね?」
「別にリョージ君が何を目的でやって来たかなんて、どうでもいいんじゃないですか?」
「ら、ライナルト主任教授!」
亮二の話で盛り上がっていると、背後からライナルトが話し掛けてきた。普段は会話に参加してこないライナルトから声が掛かった一同は驚愕の表情を浮かべながら彼の姿を眺めた。ライナルトの格好はいつもより増してヨレヨレな状態で髪の毛もボサボサであり、この1週間は寝ずに研究に打ち込んでいた様子が見て取れた。
「ライナルト主任教授。物凄い格好ですが、研究が佳境に入ってきたんですか?」
「ええ、リョージ君のお陰でほぼ完成です。ところで彼はどこですか?」
「もう、今日は授業も終わってますので帰りましたよ」
「それは残念ですね。シャルロッタ先生。お手数ですが、リョージ君に伝言をお願いします。『いつでも良いので私の研究室に来てください』と」
「わ、分かりました」
ライナルトの服装から研究が佳境に入ってきたとのシャルロッタの問い掛けに、ライナルトが答えた事に一同は驚愕しながら2人を眺めていた。普段のライナルトなら、研究に関して聞かれると不機嫌そうに「まだです」としか答えなかったからである。さらにライナルトがシャルロッタに伝言を頼んで自身の研究室に戻るために立ち去ると、どよめきが起こった。
「凄いじゃないですか!ライナルト主任教授からお願いされるなんて!」
「リョージ君が来てからライナルト主任教授も丸くなられたみたいですね」
興奮気味に話かけた講師に頷きながら、亮二が自分のクラスにいて本当に良かったと思うシャルロッタだった。
相変わらずライナルトの人気って凄いね。