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第52話 ただ1つ

どう倒せばいいだろうか?

そう思っていた時だった。


摂理がゆっくりと緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)に近寄っていく。

目の焦点があっていない。

これはまずい。


「摂理っ!!」

「せつり。」


僕の叫びと同時に、

何かが摂理の名を呼んだ気がした。


「アイリーン…。」


「止まれっっ、摂理っ!!」

僕の制止も聞かず引き寄せられた摂理は、

口を開け、緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)を飲み込んだ。


「摂理。」


そう呼ぶ僕に、摂理はゆっくりと振り向き、

先程仕舞い込んだ天使の翼を再び開く。

そしてその手に持つものを僕に向ける。


「そうか、剣を向けるべき相手は僕か。

いいさ、相手をしよう。」





Alas, my love, you do me wrong,(愛するあなたはなんて酷い人でしょう。)


To cast me off discourteously.(あなたを愛する私を斬り捨てていく。)


For I have loved you for so long,(長く貴方をお慕いしていました。)


Delighting in your company.(御傍にいられればそれでよかったのです。)




摂理が、いやアイリーンとやらの遺物が謳う。

僕に歩みを進めながら。

グリーンスリーブス、ね。

そのままじゃないか。



そうだ、僕は残酷で健気な愛を投げ捨てる事にも苦痛は無い。

それを謳っているのがたとえだれであっても僕は勝利を掴む。


何の感慨も感動も感激も無い。

あるのはただ。

確定した勝利だけ、それでいい。




「邪魔だ。『お前』は要らない。」

薙刀で細剣を弾く。

そのまま倒れ込むように距離を詰め、

剣を持つ腕を抑えながら、先程したときと同じ気持ちで、

同じように摂理の唇を奪った。

ただ、見せつける形だけは必要が無かった。


「…。」


力が入っていない。

摂理を薄眼で見ているとどうやら意識を失っている。

その摂理の口から緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)が再び姿を現した。


ただ一つ、先程と違うのは僕に対し敵意が無いように見える。

僕は意識を失った摂理を腕に抱きあげたまま緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)を見返す。


緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)はゆっくり何処かへ移動している。

着いていけばいいのだろう。


それから少し移動していると次の階層に向かうところがあった。

緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)に着いてそこに入ると、

其処は管理室だった。

迷宮(ダンジョン)の心臓たる炎属性を灯したコアも其処におかれてある。

緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)はその横で僕に傅いているような格好をしている。

ような、というのは単色の靄で出来ているため解かりにくいからだ。



そういうことか。

「探していたのは獲物だけでは無くて、

新たな管理者も、か。」


けれど悪いね。既に僕には自分の迷宮(いえ)がある。

「僕は、浮気をする主義じゃない。

コアだけを、貰っていくよ。」


迷宮核(ダンジョンコア)を強奪して去っていく僕達を、

何故か緑袖乃霞娼婦(グリーンスリーブス)は追ってこなかった。


迷宮核(ダンジョンコア)を持ったまま第1階層を抜けた時、

眩しい光が一瞬光ったかと思うと、

元の枯れた草原の中にいた。


ただ少し、来る前と違うのは、

扉が無くなっていること、

砂糖もお酒もなくなった事、

そして摂理が大事そうに卵を容れているポーチを抱きしめていることだった。



「摂理、起きてくれ。」


「んん、なんですか?はる、迷宮主様(マスター)。」



「終わったよ。」


「…終わったんですか、全て。」



「全て終わったわけじゃない。

一幕を終わらせただけさ。」


「アイリーンは…。」



「コアを持ったまま悠々と逃がしてくれたよ。」


「何があったかは理解できませんが、

…納得、出来たんですね、きっと。」



「Greensleeves was all my joy

Greensleeves was my delight,

Greensleeves was my heart of gold,

And who but my lady greensleeves.」


「それは何ですか?」


「さあ、何だろうね。

機嫌を直したら教えてあげてもいい。」




「……全く、私は迷宮主様(はるかさん)には勝てそうにありません。」


「当然さ。」

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