第51話 妖酒の美味しい飲み方
溶岩竜と、緑袖乃霞娼婦。
この2体をどう倒すかがこの迷宮の最後の構えだろうね。
溶岩と酒霞。
この2つが酒が可燃性でありながら燃えないという不思議な何かによって共存できている。
緑袖乃霞娼婦が宙を揺らめいてそちらに注意を惹きつけてきた途端に、
溶岩竜が自身の身体である溶岩を飛ばしてきた。
これは、迷宮から放浪する扉に落ちようと、まだ消え去っていないわけだ。
これは倒せない。きっと―――
「僕以外なら、ね。」
流石に溶岩なら水の壁をも突き破ってきて危ない。
海賊の漫画で火を使うものが溶岩にボロ負けするのも理解できるだろう。
「GGGGUAAAAAAOOOOONNNN!!!!!」
緑袖乃霞娼婦をすり抜ける様に溶岩竜の破片が飛んでくる。
どちらに触れても明らかに危険そうだ。
緑袖乃霞娼婦の急接近に対し、
僕は水を、摂理は風をもって防ぎながら距離を取る。
緑袖乃霞娼婦は水や風をうまく弾くのかいなすのか、
其処まで効果は無い。
そうしていると、
「GGGRURURUGRURUUUU―――GGYAAAAA!!」
赤熱している溶岩竜の口の中がさらに輝きを増す。
「摂理ッッ!!」
僕の意図を理解したのか、
摂理は翼を出して僕を掴み上空に急上昇する。
その直後、真下を溶岩の吐息が襲う。
その熱気が上まで伝わってくる前に、
すぐ横に逸れて地面に着地する。
「凄まじいな。」
地面には溶岩の破片がジュクジュクと音を立てて残り、
足場が大幅に制限されてしまった。
だけれどもその反動か、
溶岩竜の赤熱の輝きは少し黒ずんでいる。
「摂理、持ってきたお酒と砂糖を渡してくれ。」
「どうぞ。」
「ありがとう。僕が合図をしたら一気に風を緑袖乃霞娼婦に当て、
溶岩竜にぶつけてくれ。」
僕はそう言って酒の瓶の首を割って開け、砂糖を全て溶かす。
摂理の持ってきた砂糖が多すぎて溶け切ってはいない。
それでいい。
「呑んだくれの男に不幸にされたんだったよね?
悪いね、これで2回目だ。」
酒の中には水には混じりにくくても、
他の酒には著しく混じりやすいものもある。
緑色の酒、恐らくは悪魔の妖酒はそういう性質が無くもない。
不燃性というのが謎だけれど。
瓶の中身の酒を僕が操る水に乗せて緑袖乃霞娼婦にぶっかける。
ぶっかけられた緑袖乃霞娼婦は一時的かもしれないけれど、
砂糖の溶け込んだ酒の中にとろけ込んでしまう。
その直後俯いたまま術式を行った摂理による突風が緑袖乃霞娼婦を、
溶岩竜に激突させる。
「何故君が不燃性なのかはわからないけれど、
それでも砂糖は可燃性なんだ。」
溶岩竜の背中が大炎上する。
「…アイリーン。」
………。
「喜ぶべきかな、悲しむべきかな。
摂理のお友達はまだ生きているみたいだ。」
換気扇が煙を吸い上げるように、
溶岩竜の背中の炎が上に巻き上げられていく。
それと同時に溶岩竜はその色を灰色に近づけていく。
そして――――、
「竜の石像の、出来上がり、だね。
君のお友達は怖いね。仲間を喰い殺して生き延びたようだよ?」
「……そうですね。」
空に舞い上がった炎は徐々にその赤い色を失い、
炎が消え去った後には、再び緑色の霞がそこに存在していた。
天女のような格好は変わらず、
その背にどこか天使染みた翅を纏って。




