外伝の外伝つまり――――本編? 神々の日常2
The astray alice 姫宮雪花
雪花です。
世界を移動してやっと両親と再開することができましたが、
両親が年中新婚で気まずいのです。
雪花です。
向こうの世界ではお母様がなくなった後私を支えてくれた親友の吸血姫が、
こちらの世界では定期的にお父様に愛人として自己推薦しては、全回丁寧にお断りされている残念な娘だとは、
知りたくはありませんでした。
お母様の娘の私でさえ恐怖を感じる程の圧力のある笑みの前で、
お父様の血を啜っては蕩けたように、
「か・ん・ろ」と言っている時の表情は完全に未成年お断りで小さな子供には見せられません。
雪花です。
この世界にもいた幼少時の自分が天使過ぎてなんだか自分が申し訳なくなるのです。
雪花です。雪花です。雪花です…。
朝から良い香りに誘われて、風呂場に行くと脱衣所にはそつない両親の性格が出たように折りたたまれた衣服が…。
………、朝からですか。どうやって顔を合わせればいいのかわかりませんわ。はあ。
まあ、本来まだ小さな第一子がいるだけですし、年を重ねない存在なのだから仕方ないのでしょうけれども、複雑です。
幼少の自分が眠るベッドの中に再び一緒に入るのはいいものの、その、眠れません。
はしたなく二度寝してこの子よりも遅く起きることもそうですが、なんというか、
解りますわよね。この気まずさというのは。
しばらくすると、
「おひゃよーございます。ゆきかおねえさま。」
「おはようございます。雪花。」
我が家の可愛らしい天使がお目覚めです。
そう。私はこの世界ではこの子には自分の正体は明かしてはいない。
親戚筋の雪華として振る舞っている。
この子には、この子には悲しみに汚れて捻じれて欲しくはないから。
純真で綺麗な瞳のままでいて欲しいですから。
こんな風にはなりたくないはずですから。
2人で歯を磨いて一緒に朝食を食べに行きます。
神の血を継いで生まれた私達だから、歯磨きどころか本来は湯浴みさえも必要ないのだけれど、
それはそれ、これはこれというものです。
お父様が歯磨き粉まで自作されています。一体お父様は何処に向かおうとされているのでしょうか?
横でイチゴ味の歯磨き粉か、バナナ味か、メロン味か迷っている天使が可愛らしいので、お父様の行動原理は理解できるのですが。
「あっ、いけません雪花。取り敢えず迷ったら全部混ぜてしまえばいいなどとは思考の放棄をする習慣が身についてしまいます。」
そんなのは、せっかくしっかりと寝かせたアワモリを、新酒と混ぜておいてブレンド古酒として出すような暴挙です。
ホールに向かうとテーブルが置いてあり、料理を並べて両親が待っています。
年中新婚の若夫婦ですが、その実は世界を創造し維持し、掻き回し破壊する神々であり魔王であるこの世界の最高権力者です。
お父様曰く、世界という迷宮の管理者であり、運営者であり、責任者であり、独裁者である支配者夫妻ということです。
食事の話に入りますが、我が家のテーブルの配置は毎日どころか、食事のたびに変わります。
いつも通り、その日の気分で召使たちにテーブルの配置を動かさせたことも想像できますわね。ご苦労様です。
それにしても、お父様もお母様も私に気が付かれたことなど、微塵も気が付かれていないのですわね。
そのような気まずさ一つない笑顔です。
「おはよう、雪華、雪花。」
「…おはよう、ございます。お父様、お母様。」
「おはようございますっ!! おとーさま!! おかーさま!!」
何も知らずに元気に挨拶をするこの子が眩しすぎます。
私には両親の目を見ることもできません。
お父様お手製の椅子に座り合掌。
「頂きます。」
この作法のルーツは解りませんが我が家の伝統です。
普通に驚異の主婦力の高さを発揮するお母様と、謎の驚異の主婦力(誤字ではありません。)の高さを発揮するお父様。
この家の食は安泰です。
それと、我が家の天使が、スノーシトラスのサラダを前にして、
「今日のおとーさまと、おかーさまのにおいがするー。」
と言ったのは破壊力がありすぎて口の中のものを噴き出しそうになり、心臓が爆発しそうでした。
食後になるとお父様は何かを考えていたようでしたが、昼食の前には『どうでもいい』という結論に達したのか、
成果を氷結粉砕させていました。地味に凄いです。
昼食までの間は私は私の行うべきことを行う必要があったので、少し席を外させていただきました。
私は…、証明しなければいけないので。
昼食でも我が家のシェフであり主婦(主夫ではない。)である二人が料理を振る舞ってくれました。
向こうの世界では考えられなかった食生活です。
特にデザートを我が家の召使たちが物欲しそうに見ていましたが、
こればっかりは譲るわけには行けませんからね。
その後については、いつものおやつの時間は、お父様が作業に没頭されていた為に、
お母様がクッキーと紅茶を用意してくれました。美味しかったです。
お父様のところにはお母様が差し入れに行ったようでした。
因みに私たちは織物をするお父様の部屋には入れてもらえません。
お母様に聞くと、「お父さんの仕事を覗いたら鳥になって飛んで行ってしまうかも知れませんよ?」
ピィさんやキィちゃんの様にでしょうか? お父様のシンボルは蜂ではなかったでしょうか? よく、解りません。
実際のところ、プレゼントで私たちを驚かせたいだけだとは思うのですが。
ティータイムの後は、こちらの世界のアリスのところへ行くことにしました。
向こうの世界のアリスとは因果接続契約が成り立っているのですが、向こうのアリスは元気にしているのでしょうか?
こちらの世界のアリスがハイスペックなので、ポテンシャルは同じようにある以上大丈夫だとは思うのですが。
宇宙怪物を喰らうのを止めてこちらに対峙しています。
いずれこの世界の私と契約を結ぶことになるであろう、ある意味でのもう一人の私自身に礼をして帰ることにしました。
こちらの雪花と契約を繋げるときにはなるべく優しく痛くないようにすることを釘を刺しておきました。
最初からあまりに巨大で無理なパスを繋げて傷つけないようにすること。
隔絶した才能があるとはいえ、相手はまだまだ小さな子供なのですから。
彼女も私なので理解はしていることは解るのですが。
それと、食事の邪魔をして申し訳ありませんでした。
夕食にはお母様が全て準備されて、更にお酒まで用意していました。
お母様が酷く機嫌良くお父様に葡萄酒を勧めています。
お父様は甘党です。それもライト好みの甘党。複雑で重厚で深みのある多面性を持つお酒よりも、
首尾一貫した飲み口のお酒が好みです。こういう類のお酒は安物には多くありますが高級品では逆に探すのが難しくなります。
工程に手間暇を多くかけると、どうしてもブレというか多面性が現れやすいので一貫した飲み口の高級品は珍しいのです。
私的にはアワモリというお酒の甕からのミネラルとか、ワインで言う樽の匂いみたいで多様性があった方が全然美味しいと思うのですが。
くーす?というものが銘柄か種類なのか忘れましたが、あれは美味しかったですわね。
私はお酒に強いのですが、周りでお酒を呑んでいるとお父様が触発されてしまいそうなので呑まないようにしています。
ちなみに、私もこっそりアワモリというのを再現して海エリアの洞窟内で作っているのですが、
まだ、満足のいくレベルではありません。お父様の葡萄畑に発生したトカゲのモンスターの様に、
私のところにも古酒猫鼬というモンスターが自然発生したのですが、
私のアワモリに手を着けて勝手に呑んでは不味そうに悪態を付いているのを発見した時は、皆殺しにさせて頂こうと思いました。
少々品が足りないのではなくて?お父様の葡萄畑で日向ぼっこばかりしては時折葡萄を食む程度のトカゲを見習ってほしいものです。
ええ、美味しく無かったのは私が一番よくわかっています。ですが低級モンスター如きに指図される覚えはありません。
ですが少しだけ匂いが変わっていたので追い払って飲んでみると、少しだけ目的の方向性に近づいている気がしました。
洞窟奥に、幾つも巨大な池の様に甕を作って、そこでアワモリを流し込んでいると再び例のモンスターがやってきて泳ぎ始めました。
…ええ、驚きました。一介のモンスター如きが触れるだけで酒の味を調える力があるのだとは。ぐうたらなトカゲより使えます。
逃げ足が速い事以外は戦闘力は皆無なのが低級モンスターらしいところですが。
私にとっては便利なモンスターですが、彼らの生態には決定的な弱点があります。
酒を旨くしてそれを呑むという生態ですが、お分かりの通り酒を造る工程が存在しません。
彼らの舌は確かで判り易い反応をするので参考にはなるのですが、
態度が少々どころではなく横柄なので一度上下関係を教えて差し上げてからは従順になりました。
ええ、彼らの生態上、その生命線を握っているのは誰なのか、それを理解させてあげただけです。
最近では新酒の状態でも大分進歩したと思うのですが、狙った味へは遠いようです。
残念なことに侵入者たちに場所が知れ渡ってしまったので、時折そこまで到達してくる侵入者がいる事には腹正しいのですが。
お父様曰く、褒美をくれてやるのも戦略には必要らしいのですけれども、
洞窟の入り口付近にかなりひっそりと生えている植物モンスター座頭黍に気づかずやられているのを見て良い様だと思いました。
洞窟と言えば、華晶洞窟のエリアでお父様が造られているウイスキーというお酒は中々質が良いのですが、
お父様は少々いじわるなので、致死的な成分のトラップ用の酒の池を造っているそうです。
魔力の低い者が飲めばあっという間に酒水死人という死体モンスターに早変わりするという悪質さです。
お父様の本命はワインなので、それ以外のお酒には少々冒涜染みた使い方をされますけれど、
それは迷宮主としての集客と捕客の一環として酒造を行っているからなのでしょうね。
私は、直接経営責任があるわけではありませんのでそういう趣旨では造っておりません。
一度お父様にも完成品を差し上げました。お父様は穀物酒よりも果実酒はなのですが、それでもお褒めのお言葉を頂きたいと思いまして。
勿論、娘に甘いお父様なので褒めてはくださいましたが、お父様的には甘さは良いものの味の『単』性が足りないそうです。
それは、完全にお父様の嗜好の問題だと思うのですが、それを言ってしまえばお酒自体がそのような物でしょう。
確かに高級酒でも、単調な味なのに、その『単』のレベルが著しく高いお酒ってありますよね。探すのには苦労しますけれど。
ですが俗に初心者向けと言われる類いのお酒でも好みであれば喜ばれます。
入手難易度に糸目は付けられませんが、特にそれには拘られないようです。とにかく好みに合えばいい、と。
具体的には、甘くて、喉を流れやすくて、単性であることです。
口に含んだ時に甘みが香り、喉を流れたときに辛みを感じるお酒より、
口に含んだ時に甘みが香り、喉を流れたときにも同じ甘味のままさらりと消えて残らない香りが強い酒、
粗雑にそのような酒を造るならともかく、手間暇の上で高水準でそれを作るのは難しい上に、私の好みではありません。
また、どれくらい甘党かというと、ドイツという異世界?のワインにある畑基準の新格付けより、
甘さで決定される旧格付けの方が有り難いと思っているくらいの甘党で、
以前異世界から取り寄せたOKAYAMAという国?の激辛だという日本酒というお酒を注いだ際のお父様の顔は、
笑顔を残したまま頬がひくついていたくらいの甘党でした。OKAYAMAという国?はどうやら辛いお酒が多いらしいです。
まあ、そうでもないと、食前酒に撰ばれる類いのデザートワインをメインで呑まれる事もないでしょうけれど。
そうして食事が終わり、
ああ、お父様がお酒に手を出してしまいました。
「…、せつかちゃん、今日も私と寝ましょうか。」
「うん、寝るー。わんちゃんもがーちゃんも行くよー。」
私のスカートをその可愛らしい手で摘まんだ幼少時の私が、飼い狼と飼い獅子に呼び掛けながら私達の寝室へ向かうことに同意します。
なんて可愛らしい娘なんでしょう。一体どのような奇跡の存在でしょうか?
…私でした。すみません。
お父様はお酒を呑むと、お酒に呑まれます。
そして、当然お母様もそのような事はご承知です。
つまりお母様がお父様にお酒を勧めるのは所謂『今夜はyes』サインなのです。
お酒に呑まれたお父様がお母様を寝室に連れていくのは時間の問題でしょうね。
ああ、今日はいつもよりも5秒もタイミングが早いです。
「ネコさん、先に行ってドアを開けてきてくれるかしら。」
私の言葉を理解しているのかどうかは解りませんが、このネコさんはいつもドアを開けてくれて、
イヌさんは我が家の天使を運んでくれます。…細い足腰が震えていますが。いつもご苦労様です。
代わりにお父様からの殺気だけは防がせてもらいましょう。
…それにしても、最近多くないでしょうか?お酒の頻度が。
向こうの世界では逢うことの無かった弟か妹との遭遇も遠くない話かもしれませんね。
「せつかちゃん、弟と妹どちらが良いかしら?」
「うーん、弟でも妹でも、わたしおねーさまみたいなすてきなおねーさまになるー。なれるかなー?」
寝むたそうな眼で答えてくれました。可愛らしくて天使の様です。
「ええ、貴女次第ですよ。」
本当に天使、いえ天使など足元にも及ばないかもしれません。
どうやったら貴女の様な純真な娘が私みたいになるのでしょうね。ええ、本当に。
この世界での私は紛い物だから、
だから本物であるこの私だけは守って見せる。
最初は私を否定する存在にも見えていたけれど、
今は違う。私が必要にならないように、在庫が消えてもこの子だけは…、きっと。
この世界では最も私が否定すべき存在の為に、私は道を進む。




