外伝 とある勇者の軌跡 色々重たいお嬢様
SIDE Fair? Lady ~ヤバッカ家のお嬢様~
「わたくしの父、ヤバッカ伯爵の悪評は聞いたことぐらいは割りますわよね。」
「ええ、まあ。」
わたくしの従者は「はい。」「いいえ。」とも言いずらそうな顔でお茶を濁す。
「その悪評は事実でそれがわたくしとガレクスの婚約破棄に理由になりましたの。」
『理由』という言い方だけで、
それがあくまで表向きの『理由』であることまでわたくしの従者は理解しているはず。
農村の生まれでなぜここまでと思えるくらいに彼は頭がいい。
もしかすれば政治的な背後関係まで理解している可能性だって無くはない。
「ゼットには信じられない話でしょうけれど、
わたくしもガレクスも昔は身体が弱かったのですわ。」
元々ガレクスは病弱で当主を継ぐ可能性がかなり低かった。
ある時一変して健康な身体になって、メキメキと様々な才覚を伸ばし始め、
次期頭首に相応しい人になった。
そこで『価値』が生まれたからクリアリプルスとの繋ぎ要因としての役割如きに使うわけにはいかなくなった、
ということかしらね。
「ガレクスはどうやったのか解からないですけれど、
わたくしの場合は、特殊な呪いのせいで病弱だったので、
それを解呪するために父が色々と手を汚したの。
親馬鹿極まれり、ですわね。」
「聖薬教団との接触…ですか。」
考え込んだり、同時に別の事も考えていたりする時もあるけれど、
それでもゼットは頭がいい。
敢えてわたくしが口にしなくても、
その先も理解していますよ、と肯定してくれる。
できた従者ですわ。
「聖薬教団に資金、政治的援助をする代わりに父が求めたものは雷獄聖夜草。
植物ならモンスターにでも詳しいゼットなら知っていますわよね。」
「雷獄聖夜草、
雷属性持ち植物系モンスター。
希少且つ強力なモンスターであるが、
その反面、倒せば強力な解呪薬にもなり、
出回ることはほぼないので実証例はないが、
大量に摂取、又は定期的に摂取し続ければ、
状態異常魔術、薬品、呪いに対する強力な耐性と、
僅かながら雷属性魔法に対するものを主とした属性攻撃に対する耐性まで出来上がる可能性がある―――――――
でしたね。
まさかその実証例を既にこの目で拝んでいたとは、僕も驚きました。
いえ、以前Eランクの2次試験の場で不思議には思っていたんですけどね。」
最後にさらっと言ったけれど、きっと催淫萵苣の件ですわね。
それにしても最高学部でモンスター学を専門にした人でもここまで詳しくは言えませんわ。
何故このような人材が埋もれていたのか理解に苦しみますわね。
そのお蔭でわたくしが手に入れることが出来たのですけど。
「ところでゼット、ヤバッカ家へ永久就職を決めてみるつもりは無くて?」
「……。」
無言、ということは本気の否定のようですわね。
「…元々わたくしの呪いへの抵抗力自体は低くて、
いつまた呪いを掛けられるか解からないのよ。
そんなとき、解呪効果のある薬草にも詳しくて冒険者としても有能な従者がいれば、
わたくしとしてはとても助かるのですけどね。」
「僕は薬草学には自信がありますが、
それでいて『有能な冒険者』ともなると見当もつきません。
早速探してきましょうか?
そして見つけてきたら、僕、お嬢様の従者辞めます。」
こっそり見た戦闘訓練の出来といい、
この頭の回転と言い、わたくしにはとても彼が『有能な冒険者』で無いようには見えない。
見た目だって悪くはない。
色々な補正を外せば方向性こそ違えど、
着飾ればガレクスの様に女性の話題に乗りそうな顔をしている。
決して悪くはありませんわ。
それにしても彼の口癖になっている、
『僕、お嬢様の従者辞めます。』
は冗談のように言いながらもその実は完全に本気。
どうにかならないかしらね。
その気になれば政界でも学会でも冒険者としてもやっていけそうですのに。
そんなことを考えていると、
良くある恋愛小説のような思考が浮かんできた。
冗談で考えては見たものの、不思議と悪く思っていない自分がそこにはいた。
引出に隠してある葡萄酒を取り出して、ゼットがコップを用意する前に、
そのままビンに口を付ける。
良家の子女にはあるまじき飲み方と言う自覚はある。
「お嬢様、喉が渇いたのならそう言って貰えれば。」
と、いう彼に見当違いの様でそうではない答えをする。
「所で今日は何の日か知っているかしら?」
「明日はお嬢様の誕生日と女神様の降臨祭、でしたよね。
今日は………………思い当りません。」
嘘。やけに長い沈黙と作り過ぎた真顔が逆にそれを証明している。
まあ、侍女に想いを告げられても濁して逃げるヘタレなのですから、
ここはフォローしてあげますわ。
「ゼット風に言えば、
女神様降臨祭準備日――――――――に託けた、
若い男女が寝所を共にするか、
独り身を嘆く日、と言う所かしらね。」
そう言いながら、わたくしは彼の腕を掴み、
その肩の方へ顔を近づけた。
「全く、若い男女はこの日を謳歌しているというのに、
わたくし達は一体どうしてこのような寂しい時間を送っているのかしらね…。
ねぇ、ゼトリアス?」
彼はそれに一言も答えない。
彼の顔に更に顔を近づける。
「お嬢様が酔わないことは知っていますから、
御冗談は止して下さい。先程耐性の謎を仰られたばかりじゃないですか。
馬鹿な僕だって解かりますよ。
そう言えばお嬢様、花瓶の花が枯れかかっていますね。
少し花屋にでも行ってきます。では。」
あからさまに話を変えられ、
その上逃げられてしまった。
「花屋にいかなくても庭に場所さえいただければどんな花でも咲かせますよ。」というのが、
かれの常だったというのに。
実際、今花瓶に挿してある花も彼が咲かせたものですしね。
けれどそんな彼がわざわざ花屋に買い物をしに行く。
それが、――――彼の返答だった。
「酔っていないわけでもないのですけどね。」
お酒に、ではないですけれど。
ドアを開けて寒い中着込みもせずに花屋に行く彼を窓から眺めて、
わたくしは、少しだけつけてみることにした。




