第21話 ロムレスは1日にてならず
嫌われることもダンジョンの戦略としてはありなのだろう。
無駄に義勇心の溢れた人達がやってきてはポイントになってくれる。
逆に好かれるという手もある。
残った集落の人間には、
あの男たちが度が過ぎた無礼をしたから怒っただけで、
本当は心優しい迷宮主だと思わせて、
前回述べた様に庇ってもらう方法だね。
「摂理、この二つの案、どちらがいいと思う?
紅茶を飲みながら考えてみてくれ。」
僕は2ポイントで購入したホワイトボードセットで示した政策を摂理に聞いてみる。
「でも、もう決めてるんですよね。」
勿論。
「遥さんの事だから後者の方じゃないでしょうか――――――――いえ、やはり前者の方です。」
正解だ。
「なぜ?」
「他人の意識を利用するのが好きな遥さんですが、
遥さんが住民に信頼を置くとは考えられません。」
そうきたか。…それも正解だけど。
護ってきたはずの住民の一人が欲の為に迷宮主に不届きなことを考える可能性は大いになる。
皆が皆善人ではない。
それに―――
「ダンジョンの戦力も計算に入れてくれるかな。
まだ全5階層だけれど、十分に準備は整った。
深海の底まで来れる冒険者はまずいない。そして必要なモンスターは5階層で増殖させればいい。
彼女の羽化を、待つまでもない。」
集落は僕があげた猶予の間に文化的、資源的には最低限には整った。
ならば後は消滅しなければ冒険者を呼べる立派な『攻略拠点』となってくれるはずだ。
そう考えていた時だった。
「遥さん。1階層にいる男が迷宮の主に用がある、と叫んでいます。」
いちいち騒ぎ立てる有象無象の相手をわざわざしてあげる程僕は暇じゃない。
「捨て置けばいいさ。僕の貴重な紅茶タイムを奪う価値は彼には無い。判るだろう。」
「あの、…王国の使いだと言っていますが。」
…面白い。
会ってあげてもいいか。紅茶を飲んだ後でね。
彼に価値は無いが、彼の背後には興味をそそられる。
紅茶を飲み終わった後、ラスクを齧り、
もう一杯紅茶を嗜んでから僕は彼の前に姿を顕わした。
「初めましてお客様。当迷宮に何か御用で?」
「きっ君は?…実に美しい。」
…下卑た目で見ないでくれるかな。
「迷宮の者です。」
「こんな美しい天使まで従えているのか…ここの主は。
この迷宮の支配者に用がある。案内してくれるか。」
天使はどちらかといわなくても摂理の方だ。
僕は彼と共に第5階層に転移する。
「うわっ、何だっ!?どうなった?」
「ダンジョンの主と話すための場所にお連れしただけですが?」
「そうか。……それにしても君は美しい。
迷宮の主への要件に君を貰うことも追加しておいてやろう。」
「それなら、その要件とやらを早く言ってくれませんか?」
「主がまだ来ていないのに言う必要が無いだろう。」
「だからその必要はありません。」
「何故だ。」
解からないかな。
「何故かって?
この僕が魔王だからさ。」
「そんな馬鹿な。」
…信じていないようだ。
僕は手元に両端に刃の付いた薙刀を顕現させる。
それを彼の首元に軽く添わせる。
「これで…、信じてくれたかな。」
「なっ何をする。吾輩は使者だぞ。」
脅えながらも虚勢を張る使者に僕はグッと体を近づけて、
蹴飛ばした。
「だったら使者らしく要件も、話してはいけないことも全部話してもらうさ。
この―――――――子蜘蛛曼陀羅華の秘薬VER.1でね。」
「うわっやめっうぷっっ。」
薄い瓶を無理矢理使者の口に押し込んで、顎を蹴り飛ばして口の中に無理矢理広げさせる。
即効性だからすぐに効果が出る筈だ。
「お前の王国は何処か答えるんだ。」
「はへぇ~ほへぇ~。」
しまった。強すぎたか。
駄目だ。話にならない。
これでも大分薄めたつもりだったんだけどな。
仕方がないから、彼を檻に入れて放置。
彼を拘束する為ではない。
彼をモンスターから護っておいてやるためだ。
その後1日ほどした後、
だいぶ意識が戻ってきたのか、
受け答えはできるようになっていた。
……酩酊状態で、だけれど。
「要件は?」
「わっ吾輩が早く帰らなければ、
死者である吾輩を殺したとして吾輩の王国が責めて来るぞ。」
遅い。
もう既に2日経っているよ。
ダンジョンの外での時間はどれくらいになるのかな。
やはり、君には使者よりも死者の方が似合っているよ。
王国が攻めてくるだって?随分と面白い話だね。
「摂理、その王国とやらが攻めてくる様子を調査しておいてくれ。」
「解かりました。」
さあ、檻を外そう。
皆、エサの時間だ。
「遥さん。外の情報が入ってきました。例の国名はロムレス王国。
突然大量にアイテムを出すようになったここを手に入れようと、
国が本気で攻めてきたようです。」
なっなんだってー!!そんな原因があったとは。
アイテムを大判振る舞いし過ぎたかな…
と驚くことも無い。
その可能性も考えていなかったわけではないから。
「むしろ面白いね。ちょうど王冠の味を齧ってみたかったところだ。」