第22話 夜戦馬鹿
「摂理。」
「はい、なんですか?遥さん。」
「凡そ王国の軍勢がここに来るまで、ダンジョン内の時間でどれくらいかかるかな?」
「そうですね、2日程かと思われます。」
2日、ね。
「十分だ。取り敢えず魚喰蝙蝠を優先的に仕入れよう。
……それと、集落の住民は全員捕えて5階層に移しておいてくれ。
何、30人もいないだろう。後、檻に入れておいてくれるかな。
――――そうしないと白骨になるまで1日も持たないだろう?」
「…解かりました。」
さて、どうするかな。
最終的に尤いい手段を考えよう。
相手の行動を大きく分けると2つ。
大量の人員の投入による短期決戦か、長期思考の壊滅戦。
どっちで来るのだろうね。
2日後。
ダンジョンの前に10万人の兵士がいる。
これが国の軍勢か、流石だね。
なにやら先頭にいる指揮官の男が喋っている。
時間の流れがダンジョンの外と中では大きく違っているはずなのにどうして聞こえるんだろうね。
……ああいけない。ちゃんと話の内容も聞いてあげないと。
「ダンジョンの魔王よ。
我々はお前のダンジョンを潰しに来たというわけではない。」
ダンジョンを潰しに来たわけでは無い?
よく言うね、10万人も兵士を引き連れて来て。
ダンジョンを潰しに来たのではないとは言いつつも、
到底受け入れられない要求をするのだろう。
「聞こえているのか?
まあいい、続けるぞ。我々ロムレス王国は、――――――――和平に来たのだ。」
和平?
それは平和的な強奪に平伏せよの略かな。
「条件はこのダンジョンは常に我々専属の訓練場所兼ねて採集所とする。
そのかわりにお前の今の身分と命を保証してやろう。」
……そういうことだろうとは思っていたよ。
…僕に資源を貢ぐ牧場に為れということか。
勿論――――――――――――――全力で断らせていただくよ。
僕は1階層の入り口に転移して、
入り口の門を開け彼らの前に姿を現す。
「おお、扉が開いたぞ。」
「あれが、魔王か?」
「なんと美しい。」
「ええい騙されるな、あの姿はまやかしだ。」
…まやかしだとは、本当に好き勝手言ってくれるね。
「初めましてこの迷宮の魔王を務めているものです。
先程のご提案の返答に参りました。」
「おお、そうか。こうやってわざわざ来たということはそういうことだな。
それにしても美しい。そうだ、俺の愛人にしてやっても、
…いや、妻にしてやってもいい。」
「御冗談を。」
「いや、冗談ではない。」
「いえ、冗談でしょう。
有象無象共が迷宮の魔王を前に既に勝った様な顔をしているなど、
冗談で無いなど到底信じられません。」
「……この俺を、この10万人の総隊長である俺を馬鹿にするというのか。」
そうか、今僕の目の前にいるのが総隊長か。
わざわざ目の前に来てくれたのだから、仕掛けてもいいのだけれど、
伊達に隊長を務めているわけではないのだろうし、
先頭に立つのもただの無謀だけでは無い筈だ。
「……ではこうしましょうか。貴方がこのダンジョンの最奥までたどり着くことが出来れば、
貴方のものになってあげてもいいでしょう。
それができなければ、―――――――――――――――――貴方は只の馬鹿であったというだけです。」
そういって僕はダンジョンの中に戻り、最奥に転移する。
モニターを見ていると激昂して騒ぎ立てる総隊長と、それを抑える数人の男、
そして大量の兵士が中に入ってくる。
兵士たちはそれなりに足並みをそろえて入ってきている以上、
かなりの練度は保持しているのだろうね。
実にいいポイントになりそうで実にいい事だ。
彼らにも家庭があったり交友関係があったりするのだろう。
妻がいたり、あるいは子供がいたり、
だが、そんなことはどうでもいい。
ポイントに変われば皆平等だ。
彼らが軍隊にいる理由、
勿論そこには様々な運命や考えがあったのだろう。
先程の総隊長の様に感情を表に出さなくても、
様々な思いはあるはずだ。
だけど僕には何の感慨も感動も感激も無い。
あるのはただ、
確定した勝利だけ。それでいい。
それだけで、いい。
「今淹れている紅茶を飲みながらでいい。摂理、モニターを見てくれ。」
「見ています。」
「ならばいいさ。この状況、解かるよね。」
「長期戦を選んだということですね。」
その通りだ。
今、摂理が答えたとおり、あの軍は長期戦に備えるようだった。
10万人の全てが入ってきたわけではなかった。その事がこの規模の軍であれば可能だから。
本国からの追加部隊だって十分に考えられる。10万人が全軍だというのは早計過ぎる。
恐らく損耗を考えて一定時間ごとに兵士を増員させる。
次は早ければ夜にでも来るだろう。
挑発からしばらくして冷静さを取り戻した総隊長は、
大きく陣地を取り、其処に運んできた資材を使って、
簡易的な陣地を構築していく。
…僕とお母様の思い出の海辺に勝手な醜い建造物を撒いた付けは払ってもらう。
客観的にみると陣地は簡易的でこそあるが、
かなり考えられているようで、
兵士たちが休息を取りやすい仕組みも幾つか見受けられる。
激昂しやすいが冷静なときは考えられるタイプなのか、
それともあの激昂もポーズなのか、
まあ別にどちらでもいい。
「安心していいよ摂理。
総合的に彼が僕を上回ることは決してないさ。」
「慢心ですか、…危険ですよ。」
慢心ではない。ただの事実だよ。
只の確定した事実でしかない。
兵士達が御剛沙蚕をまた1匹屠った。
別の兵士達がその死体を回収し、
また別の兵士達が持ち帰りやすい様に解体している。
御剛沙蚕は禁書製だから、
他のダンジョンマスターが使う最底辺モンスターよりはマシだとは思っていたけれど、
まだ未熟な侵入者たちはともかくそれなりの練度を持った軍人からすれば、
ザコモンスターの名は外しきれなかったと見れる。
砂浜に潜り込んでいた御剛沙蚕が兵士の一人を襲う。
不意を突いた、たったそれだけのことで1人の命が失われ、
1000ポイントが入った。
それぐらいにはモンスターと人間の戦闘性能差は大きい。
…結局、その御剛沙蚕は他の兵士達によって打ち取られてしまったけれど。
それでも御剛沙蚕は単体の初期費用は10ポイント。
100回殺されてようやくイーブンだ。
その1件から兵士たちは砂浜の下を槍でつつきながら行動するようになった。
そのように総隊長が指示を出したのだ。
是非はともあれ、直ぐに対応策を出し、全兵士にそれを周知させ、徹底させる。
どうやら並の軍隊ではないようだね。
時間と共に禁書製の他では見ないモンスター達に対する攻略法を確定していく。
そうやって研究の深度を上げ、兵士たちをモンスターを倒すことによる『経験値』で成長させ、
より攻略を容易にする。
膿鴎は空を飛ぶ以上、攻略に手こずってはいるが時間の問題だね。
そして恐らくその成長した人員と増員を組ませて増員をも成長させるつもりだろう。
ザコモンスターでは経験値は上がりにくい。
ならば平均的に底上げするだろう。
この世界がゲームのシステムのようだというのなら尚更だね。
ゲームでもレベルが低いもの程、必要な経験値は少ない。
そして同時に積極的に宝箱に入ったアイテムを探させ、
見付けた後はチームでそれを奪取しに行く。更に出来る限り周囲を荒らしながら。
自動復活のアイテム生成のコストを消費させる嫌がらせと実益を兼ねた戦法だ。
砂浜上の資源を消費し続けて長期戦?面白い。
向こうも気が付いているだろうけど、
「後方要員が到着するまでの、夜が勝負だ。」
つまり、
「夜戦、夜戦~~!ということですね?」
…その通りだ。
だけれど、そんなに夜戦を喜ぶのは旧日本軍位しか僕は知らない。
なぜそんなにテンションが高いのだろう。
「や・せ・ん(はぁと)と言った方が宜しかったですか?」
「恥ずかしそうにするならば無理に言わなくてもいいよ。」
…ダンジョンの大きな特性として、
ダンジョンの外と中では時間の流れが大きく違うということがあげられる。
つまり、待機要員が待たされる時間が非常に長くなるということ。
実際、この事から盗賊団は全員を実働要員として活用する羽目になったわけだ。
このことを逆に考えるとダンジョンに入るときにはそう大きな問題は無いが、
ダンジョンから出る時には余りに多い人数だと最後の方が出るのには時間がかかっているとも言えるし、
ダンジョンの入り口をほんの少しの間だけ閉鎖したとしても、
外の世界からは、かなり長い時間入れなくなっているということにもなる。
つまり、補給や回復を妨害するのは簡単なわけだね。
そして、兵士達が成長していく前に攻勢をかける最初にて最大の機会。
「暗くなってきたね。戸締りをしよう。
ダンジョンの扉よ、――――――『閉じよ』。」
さあ、摂理も旧日本軍も大好きな夜戦のお時間だ。




