第13話 黒猫と蟻とペリカン
先日ダンジョンマスターの安全地帯について考えていた件だったけれど、
どうやら、現在のダンジョン階層数×100ptの条件で、
最下層の下に、モンスターの自然発生無しの管理人室が置けるらしい。
もう少し早く知りたかったかな。
これを使って自分のモンスターから身を護るダンジョンマスターも多くいたことだろう。
…というか普通はモンスターを従順にするかこれを使うのだろうね。
管理人室を使って礁湖雀蜂を育て、
1~3階層を繋げるというのもいいけれど、
野生のモンスターには自然が必要だろうし、
そもそもそのような飼われるような状況は彼女自身が拒むのだろう。
僕と摂理だけで引っ越ししよう。
…これでサバイバル生活じみた環境とはお別れかな。
居住空間にしている3階層に自然発生したモンスターが蔓延る前に、
早めに移動しないとね。
…ああ、引っ越しは色々面倒だ。
「摂理、引っ越しには何ポイントかかる?」
「この規模なら5ptです。」
まだそんなにものも増やしていないし、
此処は敢えてポイントを節約してみるのもいいかもしれないけど、
「実行しよう。後、海風の匂いも落とせるならしておいてくれるかな。」
「わかりました。追加で2ptかかりますが実行します。」
「それでいいよ。」
お金持ちは、お金を持っているだけでは無くて、
お金を使えるからお金持ちと呼ばれるわけだしね。
「じゃあ礁湖雀蜂、僕達は引っ越すことにするよ。
偶には顔を出しに来るから。」
そう言って僕と摂理は、管理人室に行った。
管理人室は、他のダンジョンの階層と比べるとかなり狭かった。
それでも、広さとしては、2LDK程度は存在している。
「そうだね、せっかく管理人室が出来たんだから、
家具も多少増加したり新調しようか。」
取り敢えずは、テーブルと、ベッド、そしてタンスかな。
屋外用で利用するものと、屋内用で利用するものでは趣も変わってくるだろうしね。
古い家具をポイントの還元すると、合計14ptにはなった。
そのポイントも含め、50ptを使って最高級の家具や食器等を用意した。
そしてあと一つ、買いたいものがあるけれど、それは又明日ポイントが回復してからにしよう。
次の日、
僕が買ったものはピアノだった。
先程、「少し弾いてみてもいいですか?」と聞いてきた、
摂理に許可を出した。
てっきり上手いものかと思っていた。
聞くに堪えないとまでは言わないけれど、
敢えて聞きたいとは思えないような出来だった。
弾いたことは無かったのだろう。
ピアノ自体は高級品だけあって、良い音を奏でているのが余計に悲しい。
「仕方ない。僕が教えてあげるよ。
まずは、アノンから始めようか。」
アノンの教範には1ptかかった。
「アノンって何ですか?」
「フランスの作曲家で初心者の為に練習曲を作った人さ。」
…尤も、曲としての内容は単調すぎるので、
あくまで指使いの練習用として、だけどね。
摂理は姿勢だけは綺麗だ。
今からすることがしやすくて助かるよ。
「摂理、少し失礼するよ。」
僕は後ろから摂理を抱きすくめるようにして、
摂理の前の鍵盤に手を置いた。
「~~~~~っっ!!」
摂理は更に背筋が良くなった。
というか、若干反り過ぎている気がする。
先程までは自然だったのに。
「少し力を抜こうか。」
摂理の肩を軽く揉んでみると、やはり力が入っている。
「無駄な力は音を粗雑にするから、
肩や肘に力は入れないこと。」
摂理の肘を合理的な位置に整えた後、
摂理の手を取り、手の甲と、手首、鍵盤が、ほぼ平行となる様に揃える。
……力が入り過ぎているね。
「緊張することは無いさ。ここには
最初はドレミファソラシドから。やり方は色々あるかもしれないけど一般的な一例を見ていてね。」
ドレミまでは自然に滑らす様に弾き、ファの時点で再び親指をそこに位置させる。
中指の次で親指を移動させるのが綺麗に見え、楽にできる筈だから。
「さあ、やってみて。」
…意外と筋は良い。
このまま教えていけば、いいBGMが提供されることになるだろう。
明日には300ptでスピーカーも設置しよう。
「悪くは無いね。
僕の為にも頑張ってくれ。期待しているよ、摂理。」