第11話 群馬で手と手を取り合って
「HELLOそしてGOOD BYE」
「あんたって子はっ、人でなしっ。人でなしぃっ!!」
本当に、今更だね。
今日来たダンジョンの中年の女性を捕えて、
情報収集という名の拷問をかけたところ色々な情報が手に入った。
ここ半年、あの少年少女が持ち出したアイテムと、
彼らが告げたこのダンジョンの外見が評判になってきているらしい。
不思議な話だ。まだ彼らがこのダンジョンを出てからほんの少ししかたっていないというのにね。
この女性も彼らの近所に住んでいる大家族の母で、
子供たちの為に生活の糧になるものを取りに来たらしい。
まあ、そういうわけで彼女には僕の家族の為に餌になってもらうことにした。
「どうだ、人間の肉はおいしいかい?『デュカリス』。」
1階層の様子を見に来たときにたまたまそこに居合わせた侵入者が彼女一人だったので、
僕が直接3階層に案内した後手を下した。
…僕の容姿はどうやら油断を誘うらしい。
家族のものらしき名前を泣き叫びながら呼ぶ女性を見ても僕には大した感慨は浮かばない。
そんなことよりも僕が彼女に相応しい名を名付けたことの方がきっと大事なことだ。
「……そんな仕草を取らないでくれ。
お前達は施しを家族以外からとるつもりは無いのかもしれないけど。
僕だけはお前の家族だよ。」
そう言って僕は食事を終えた礁湖雀蜂に食後の飲み物として与えるために、
僕は自らの手首に刃物を滑らせた。
白い砂浜に染みこむように僕の手首から紅い滴が垂れていく。
礁湖雀蜂は暫く紅が砂を汚している様を見ていたけど、
染みこんだ血液を少し嗅ぐとその出先の方に口を近づけ、
僕の傷口を舐めるように、貪るように、慈しむように、確かめるように、
そして誓うように僕の血を飲み下していた。
「僕をよく見ろ。僕をよく嗅げ。僕をよく味わえ。ほら。」
解かるだろう?―――――――――――僕はお前だ。
儀式の様に互いのアイデンティティーと繋がりを確認する僕達を摂理が何かを言いたそうな、
何も言いたくなさそうな目で見つめていた。
……邪魔をする気が無いのならそれでいい。
これは僕のパートナーである摂理であっても立ち入ることはできない不可侵の領域だから。
僕の血がひいてきたのか、それとも十分に飲み干したのか、
礁湖雀蜂は僕の傷口から口を放した。
それと同時に摂理がこちらに走ってきた。
「遥さん、早く傷の手当てをっ。」
この程度の傷で心配のし過ぎではないだろうか?
失われた血液も300mlも越えていないはずだ。
高校生の献血には少し多めだが、成人男性からすれば献血で400mlのコースもあるので問題は無いだろうと思う。
それに先程侵入者を殺した時にはそれ以上の返り血も浴びた。
…命のやり取りをする場に身を置いているんだ。
この程度の傷で…本当に……。
「摂理は大げさだね。」
「でも…。」
「どうせ魔法やポイントで修復できるのだろう?……問題はあるのかい?」
「それとこれとはっ。」
摂理。君には僕を支えては貰うけど、君に立たせてもらうわけでも、君に歩かせてもらうわけでも、
君に生かしてもらうわけでもない。僕の進む道は、僕が決める。
だからさ…
「問題は無いのだろう?」
「それにしても、……それに前回の侵入者といい、今回の侵入者といい、
遥さんが直接荒事に関わる必要は無いのではないですか?」
なるほどね。ダンジョンマスターたるもの、知略を張り巡らせ、
ダンジョンを掌握し、その力を引き出して戦うべきだ、と。
女王蜂が働き蜂に働かせるように…。
…摂理にしては、いや本当にいい助言だ。
「解かったよ。摂理の言うとおりだ。
参考にさせてもらうよ。」
「本当ですか?ありがとうございます。
ですが危ないことは控えて下さい。」
…取り敢えず傷口を再生させて、失った血液は取り戻そうか。
「摂理。」
「はい、何ですか。」
「傷口に回復呪文が使えたら使ってほしい。
それと、紅茶を熱めの温度で入れてくれるかな。
何、香りが少しとんでも構わないよ、今日はそういう気分だ。」