61話
私たちにとっては24年前。彼らにとっては3年前——ダンジョンマスターは、全ての事象を8倍速で体験するらしく、彼らはこの24年間を3年間だと認識しているらしい。今私たちと話しているのは、時間感覚を等倍に戻しているから会話出来るそうだ。——DMOの開始と共に、天野はこの世界にやってきた。
数あるダンジョンの中でも、天野が担当したのは特別なダンジョン。つまり、特級モンスターだけ召喚できる超高難易度ダンジョン、富士山ダンジョンだった。
世界各国に居る特級ダンジョンのダンジョンマスターは、ゲームの運営により、この世界がゲームではないことなどの真実を教えられたという。
なぜ彼らに特級ダンジョンが宛てがわれ、ゲームではない真実を教えられたのか。それは天野自身分かっていないようだった。
そして、彼らは同時に、これら事件の黒幕が『神』であることを教えられた。
「いやー、あの時は神を自称するもんだから、他の国の奴らなんかヤバいんじゃないかと思った。だが意外な事に、誰も神を愚弄するな!とか、そんな話は出なかった。偶然なのか意図したのか、どいつもこいつも無神論者だったな」
「神様が、なんでそんな事⋯⋯」
「そりゃ、アイツがロクでもない神だったからだろうな」
彼らをこの世界に呼びつけ、私たちの世界にスキルを与え、互いに争うよう仕向けた神。それは、遍く平行世界の全地球を管轄する絶対なる神。名を——
「遊戯神⋯⋯アルス」
「ああ。そのアルスって神が黒幕の正体、ってワケだ」
「⋯⋯ここまで聞いておいてなんだけど、あなたの目的は何?何故、そこまで私たちに教えるの?」
「それが一番、アイツへの嫌がらせになると思ったからだ」
ほくそ笑む天野に、どこか寒気を覚えた私は身震いをしてしまう。
そんな天野の頭上に、光が降り注いだ。
「そうそう。キミの言う通りだよ、マコト。全てはボクの気まぐれさ」
カッと光が強くなると、そこには見た事無いほど美しい少女?少年?が立っていた。『絶世の』なんて枕詞では不遜極まりないと思えるほど、とても美しいその少女?少年?は、ニコッと私に笑みを浮かべる。
「やぁ、リンネ。はじめまして。ボクはアルス。地球を創成した神様だよ」
私の目の前には、黒幕そのものである神——遊戯神アルスその人⋯⋯いや、その神が現れた。
突然の登場に、アリサ、サーシャ、セリナが武器を構え、私を庇うように立ち塞がる。
「これはこれは、異世界のお客人じゃないか。どうだい地球は?ボクの最高傑作なんだ。楽しんでいってよ」
「!?」
『異世界?』
『何言ってるんだ?』
『てか、この子何者?可愛いと格好いいが天元突破してるんだけど⋯⋯』
『ぐああ!癖が、癖が歪むゥ!』
不味い。アルスは地球の神。それなら、アリサ達が異世界人である事は何となく分かってもおかしくない。
配信を停止するか⋯⋯少し迷ったが、私はこの真実を皆に教える義務がある。後で誰になんと言われようが、私がアリサたちの立場を守ろう。そう決めて、私はアルスの話をこのまま聞くことにした。
「アンタ、地球の神か何か知らないけど、リンネに触れたら即座に殺すわ」
「神殺しってやってみたかったんだよねー!」
「リ、リンネさんは私が守ります!」
「みんな⋯⋯」
私を庇う三人の姿に感動していると、アルスは大きな笑い声をあげた。
「あははは!大丈夫大丈夫!ボクは別に何もしないよ!ただ、キミたちが面白そうな話をしてたから、ボクも混ざりに来ただけ!」
「それは⋯⋯どういう⋯⋯」
「ん?そのままの意味だよ?あ、何かボクに期待してるなら止めといた方が良いよ!ホント、別に何もしないからさ!」
アルスはカラカラと笑う。そのあまりに無邪気な笑い声に一瞬毒気を抜かれるが、すぐこのダンジョン被害の黒幕である事を思い出す。
すると、いつの間にかアルスの背後に回り込んでいた天野が、アルスに向かって剣を振り下ろした。
剣はアルスに触れる——いや、触れたように見えた。しかし、剣は見えない何かに阻まれると、一瞬後に天野の頭部が縦半分に割れた。
「!?」
「お?あちゃあ、ボクを殺そうとしたのかぁ⋯⋯。ゴメンね、自動反撃しちゃうんだよねぇ⋯⋯。可哀想だけど、死者蘇生はボクでも難しいんだよね⋯⋯」
天野の死体に向かって残念そうな顔を向けたアルスは、どこからか取り出した布を天野の死体に被せる。
「⋯⋯なんで、そんな悲しい顔をするの⋯⋯」
「そりゃあ悲しいよ。みんな、ボクの大事な子供たちだよ?」
「⋯⋯じゃあなんで、そんな私たちを殺し合わせるような事をしたの?」
私の問に、アルスは心底分からないといった顔をした。
「え、だってキミ達⋯⋯ダンジョンが出来る前からどデカい戦争で沢山殺し合ったでしょ?もう、いつキミ達同士の争いで全人類滅んでもおかしくない。そんな状況だよ?今さらこんな事で怒ってるの?」
「それとこれとは関係無いでしょ!あなたが地球の神様で、私たちを子供と思うなら、なんでそんなあなた自身が私たちを争わせるのか聞いてるの!」
私は声を荒らげる。しかし、アルスは気に咎める様子はひとつも無い。
「えっ⋯⋯とー⋯⋯。それは、面白いからだよ?キミ達に闘争心があって、競争心があって、お互いに欲望をぶつけて命を奪い合う。元からキミ達をそういう面白いモノとして、ボクは生み出してるんだ。だから、より面白くするために色々頑張ってるんだけど⋯⋯」
何かおかしいこと言ってる?と、アルスは首を傾げる。
私は瞬時に理解した。目の前に居るのは、私たちを守る神様なんかじゃない。ただ面白いという理由で人が争うように創り、さらに楽しく争わせるために世界のルールをねじ曲げる。そんなイカれた存在であるということを。




