21話
※がっつり百合要素あります。苦手な人は読み飛ばしてください。飛ばしてもストーリー的には影響ありません。
ダンジョンからの帰還後。私たちは一度、ダンジョン併設の休憩室を借りて落ち着くことになった。野次馬も多いし、誘導が完了して安全に出られるまでは待機せざるを得ない。
⋯⋯と言っても、落ち着いているのは表面だけで。
「リンネ」
隣から、低く名前を呼ばれる。
「はい?」
「ちょっと、来なさい」
にこり、と微笑んでいるのに、なぜか逆らえない圧がある。私は素直に頷いて、アリサの後をついていく。
案内されたのは、人気の無い廊下の端。自動販売機の横だった。
振り返ったアリサが、じっとこちらを見る。
「⋯⋯今日、随分楽しそうだったわね」
「え?そ、そうかな?」
「そうよ」
即答だった。
いや、そんなにだったかな⋯⋯?確かに配信は盛り上がったし、ワルキューレの人たちも良い人だったし——
「特に、レイナ」
「えっ」
名前が出た瞬間、少しだけ空気が変わった。
アリサは腕を組んで、わずかに目を細める。
「やたら距離近かったじゃない」
「そ、そうでしたっけ⋯⋯?」
「手、振り回してたわよね?」
「うっ⋯⋯」
言われて思い出す。確かに、レイナさんの手を両手で握ってぶんぶん振っていた。ただあれは、テンションが上がっていたというか、つい勢いで、というか——
「⋯⋯別に、いいのよ?」
私の思考を遮るように、アリサが一歩距離を詰める。
「リンネが誰と仲良くしようと、自由だもの」
「え、ええ⋯⋯?」
「ただ——」
そこで言葉が止まった。ほんの一瞬だけ、視線が揺れる。
「⋯⋯あまり、私たち以外の他の女にベタベタされるのは、気に入らないだけ」
「⋯⋯⋯⋯え?」
思わず、間の抜けた声が出た。アリサは、少しだけ顔を逸らす。
「⋯⋯何よ、その顔」
「いや、その⋯⋯」
理解が追いつかない。いや、理解はしているけど、追いつかないというか。
え、つまりこれって——
「⋯⋯嫉妬、してるの?」
「っ⋯⋯!」
ピクリ、と肩が揺れた。真っ赤な髪に隠れて分かりづらいが、耳まで赤い。⋯⋯なるほど。
アリサは、分かりやすく顔を赤くしながら否定してくる。
「違うわ」
「今、明らかに動揺してましたよね?」
「してない」
「してましたよね?」
「してないって言ってるでしょう!」
珍しく、少しだけ強い声だった。
私は、思わず小さく笑ってしまう。
「⋯⋯ふふ」
「何よ」
「いや、なんか嬉しくて」
「は?」
アリサが怪訝そうな顔をする。
「だって、アリサがそんな風に思ってくれてるって、知らなかったので」
「⋯⋯別に」
実際、異世界では私たち四人は対等な間柄で、誰かと誰かが何をしていても、嫉妬するといったことはほぼ無かった。⋯⋯はず。なんか、三人で交代交代、毎晩のように私の体を貸しあっていたような気もするけど。多分その筈だ。
でもそっか、アリサも独占欲あるんだ。サーシャとセリナは認めても、他の女は認められない、と。可愛い。
だから私は、もう少しだけ意地悪することにする。
「でも、私だって同じだよ?」
「⋯⋯え?」
今度は、アリサの方が固まった。
私は一歩近づいて、彼女の手をそっと取る。
「アリサが他の人に褒められてると、ちょっとモヤっとする」
「⋯⋯は?」
「さっきも、コメントで“結婚したい”っていっぱい言われてたよね?」
「それは⋯⋯配信だから⋯⋯」
「分かってるよ。私も言われるし。でも、ちょっと嫌」
正直な気持ちを、そのまま口にする。アリサの目が、わずかに見開かれた。
「⋯⋯リンネが?」
「うん」
「⋯⋯私に?」
「そうだよ。私のアリサだもん」
しばらくの沈黙。——やがて、アリサはふっと息を吐いた。
「⋯⋯はぁ」
「?」
「本当に、あなたって⋯⋯」
呆れたように言いながら、その手が、私の手を握り返す。
「無自覚で人を振り回すの、やめなさい」
「えぇ〜?何のこと〜?」
「この女たらし。浮気性。三股。クズ」
「酷すぎない!?」
思わずツッコミを入れると、アリサが小さく笑った。
さっきまでの空気が、ふっと緩んだ。
「⋯⋯まぁいいわ」
そのまま、ぐいっと引き寄せられる。距離が、一気に近くなる。自然と、アリサの唇と私の唇が重なった。
「⋯⋯リンネ」
「⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」
「あなたはっ⋯⋯私のものよ⋯⋯!」
「はぁ、はぁ⋯⋯うんっ⋯⋯」
唇と唇が重なり、やがて舌と舌が絡まる。情熱的なアリサのキスで、私の意識がボーッと遠のく。おかしい⋯⋯珍しく隙を見せたアリサに、普段の仕返しでちょっと振り回してやろうと思っていたのに⋯⋯。
何も考えられなくなってきて、私はひたすら、アリサの舌に負けじと舌を絡める。
「⋯⋯ぷはっ⋯⋯。簡単に、他の女に取られるつもりは無いわ」
真っ直ぐな視線。アリサの口から伸びる唾液の糸は、だらしなく少し出っぱなしの私の舌に伸びている。
「⋯⋯はい」
私は自然と、頷いていた。クラクラしてきたので、私はそのまま、アリサの肩に頭を預ける。
「⋯⋯私も、アリサのこと、誰にも渡すつもり、ないから」
「⋯⋯ふふ」
小さく笑って、アリサが私の頭を撫でる。
「言うようになったじゃない」
「誰かさんのせいだよ」
「そう」
少しだけ、満足そうな声だった。
そのまま、数秒。何も言わずに、ただ寄り添う。ダンジョンの緊張も、配信の騒がしさも、全部どこかへ消えていく。
⋯⋯よし。今日はアリサと外泊しよう。もう絶対そうする。
ピンク色の脳内でそんな事を考えている私に、アリサが優しく声をかけてくる。
「⋯⋯そろそろ戻るわよ」
「⋯⋯そうだね」
名残惜しさを感じながらも、体を離す。けれど、手はそのままだった。
「⋯⋯手は、繋いだままでいい?」
「好きにしなさい」
「じゃあ、このままで」
アリサは何も言わなかったけど、ほんの少しだけ、握る力が強くなった気がした。
コラボ編(勝手に呼称)は終了です。
次回からは新しい章が始まります。
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