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22/23

21話

※がっつり百合要素あります。苦手な人は読み飛ばしてください。飛ばしてもストーリー的には影響ありません。

 ダンジョンからの帰還後。私たちは一度、ダンジョン併設の休憩室を借りて落ち着くことになった。野次馬も多いし、誘導が完了して安全に出られるまでは待機せざるを得ない。

 ⋯⋯と言っても、落ち着いているのは表面だけで。


「リンネ」


 隣から、低く名前を呼ばれる。


「はい?」

「ちょっと、来なさい」


 にこり、と微笑んでいるのに、なぜか逆らえない圧がある。私は素直に頷いて、アリサの後をついていく。


 案内されたのは、人気の無い廊下の端。自動販売機の横だった。

 振り返ったアリサが、じっとこちらを見る。


「⋯⋯今日、随分楽しそうだったわね」

「え?そ、そうかな?」

「そうよ」


 即答だった。

 いや、そんなにだったかな⋯⋯?確かに配信は盛り上がったし、ワルキューレの人たちも良い人だったし——


「特に、レイナ」

「えっ」


 名前が出た瞬間、少しだけ空気が変わった。

 アリサは腕を組んで、わずかに目を細める。


「やたら距離近かったじゃない」

「そ、そうでしたっけ⋯⋯?」

「手、振り回してたわよね?」

「うっ⋯⋯」


 言われて思い出す。確かに、レイナさんの手を両手で握ってぶんぶん振っていた。ただあれは、テンションが上がっていたというか、つい勢いで、というか——


「⋯⋯別に、いいのよ?」


 私の思考を遮るように、アリサが一歩距離を詰める。


「リンネが誰と仲良くしようと、自由だもの」

「え、ええ⋯⋯?」

「ただ——」


 そこで言葉が止まった。ほんの一瞬だけ、視線が揺れる。


「⋯⋯あまり、私たち以外の他の女にベタベタされるのは、気に入らないだけ」

「⋯⋯⋯⋯え?」


 思わず、間の抜けた声が出た。アリサは、少しだけ顔を逸らす。


「⋯⋯何よ、その顔」

「いや、その⋯⋯」


 理解が追いつかない。いや、理解はしているけど、追いつかないというか。


 え、つまりこれって——


「⋯⋯嫉妬、してるの?」

「っ⋯⋯!」


 ピクリ、と肩が揺れた。真っ赤な髪に隠れて分かりづらいが、耳まで赤い。⋯⋯なるほど。

 アリサは、分かりやすく顔を赤くしながら否定してくる。


「違うわ」

「今、明らかに動揺してましたよね?」

「してない」

「してましたよね?」

「してないって言ってるでしょう!」


 珍しく、少しだけ強い声だった。


 私は、思わず小さく笑ってしまう。


「⋯⋯ふふ」

「何よ」

「いや、なんか嬉しくて」

「は?」


 アリサが怪訝そうな顔をする。


「だって、アリサがそんな風に思ってくれてるって、知らなかったので」

「⋯⋯別に」


 実際、異世界では私たち四人は対等な間柄で、誰かと誰かが何をしていても、嫉妬するといったことはほぼ無かった。⋯⋯はず。なんか、三人で交代交代、毎晩のように私の体を貸しあっていたような気もするけど。多分その筈だ。

 でもそっか、アリサも独占欲あるんだ。サーシャとセリナは認めても、他の女は認められない、と。可愛い。


 だから私は、もう少しだけ意地悪することにする。


「でも、私だって同じだよ?」

「⋯⋯え?」


 今度は、アリサの方が固まった。

 私は一歩近づいて、彼女の手をそっと取る。


「アリサが他の人に褒められてると、ちょっとモヤっとする」

「⋯⋯は?」

「さっきも、コメントで“結婚したい”っていっぱい言われてたよね?」

「それは⋯⋯配信だから⋯⋯」

「分かってるよ。私も言われるし。でも、ちょっと嫌」


 正直な気持ちを、そのまま口にする。アリサの目が、わずかに見開かれた。


「⋯⋯リンネが?」

「うん」

「⋯⋯私に?」

「そうだよ。私のアリサだもん」


 しばらくの沈黙。——やがて、アリサはふっと息を吐いた。


「⋯⋯はぁ」

「?」

「本当に、あなたって⋯⋯」


 呆れたように言いながら、その手が、私の手を握り返す。


「無自覚で人を振り回すの、やめなさい」

「えぇ〜?何のこと〜?」

「この女たらし。浮気性。三股。クズ」

「酷すぎない!?」


 思わずツッコミを入れると、アリサが小さく笑った。

 さっきまでの空気が、ふっと緩んだ。


「⋯⋯まぁいいわ」


 そのまま、ぐいっと引き寄せられる。距離が、一気に近くなる。自然と、アリサの唇と私の唇が重なった。


「⋯⋯リンネ」

「⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」

「あなたはっ⋯⋯私のものよ⋯⋯!」

「はぁ、はぁ⋯⋯うんっ⋯⋯」


 唇と唇が重なり、やがて舌と舌が絡まる。情熱的なアリサのキスで、私の意識がボーッと遠のく。おかしい⋯⋯珍しく隙を見せたアリサに、普段の仕返しでちょっと振り回してやろうと思っていたのに⋯⋯。

 何も考えられなくなってきて、私はひたすら、アリサの舌に負けじと舌を絡める。


「⋯⋯ぷはっ⋯⋯。簡単に、他の女に取られるつもりは無いわ」


 真っ直ぐな視線。アリサの口から伸びる唾液の糸は、だらしなく少し出っぱなしの私の舌に伸びている。


「⋯⋯はい」


 私は自然と、頷いていた。クラクラしてきたので、私はそのまま、アリサの肩に頭を預ける。


「⋯⋯私も、アリサのこと、誰にも渡すつもり、ないから」

「⋯⋯ふふ」


 小さく笑って、アリサが私の頭を撫でる。


「言うようになったじゃない」

「誰かさんのせいだよ」

「そう」


 少しだけ、満足そうな声だった。

 そのまま、数秒。何も言わずに、ただ寄り添う。ダンジョンの緊張も、配信の騒がしさも、全部どこかへ消えていく。

 ⋯⋯よし。今日はアリサと外泊しよう。もう絶対そうする。


 ピンク色の脳内でそんな事を考えている私に、アリサが優しく声をかけてくる。


「⋯⋯そろそろ戻るわよ」

「⋯⋯そうだね」


 名残惜しさを感じながらも、体を離す。けれど、手はそのままだった。


「⋯⋯手は、繋いだままでいい?」

「好きにしなさい」

「じゃあ、このままで」


 アリサは何も言わなかったけど、ほんの少しだけ、握る力が強くなった気がした。

コラボ編(勝手に呼称)は終了です。

次回からは新しい章が始まります。


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