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第9話 絶望のレンド村

 

「おい! 朝飯はまだかウスノロども!」


 ドガアッ!


 レンド村に滞在している冒険者パーティの一人である戦士デガが、道端に積まれた木箱を乱暴に蹴り飛ばす。


 ベキッ!

 バラバラバラ……


「ひいっ!? お許しをっ」


 粉々になって吹き飛ぶ木箱。

 世話役の村人は恐れおののき、地面に這いつくばって土下座する。

 Bランクの冒険者とはいえ、ただの村人とは隔絶した戦闘力を持っているのだ。


「おいおい、あまり無茶するなよデガ。 怖がってんだろ?

 だがまぁ、最近メシがしょぼくなってきてるよな?

 オレたちとしては別にこの村がどうなってもいいんだけどなぁ?」


 彼らが宿舎代わりに接収した村一番の大きさを持つ家。

 その窓から歪んだ笑顔をのぞかせたのはパーティリーダーのゲウスだ。

 頭は少々薄くなっているが、全身はしなやかな筋肉で覆われており、筋肉ダルマのデガより身長が低いにもかかわらず、異様な迫力をにじませている。

 ゲウスに逆らった村の男達は皆再起不能の半殺しにされてしまった。


「そ、そんな!? 今ゲウス様たちに出て行かれては、レンド村は……!」


「ふん……そういえばゲウス、隣村でも用心棒を募集しているらしいぞ?

 ……破格の報酬で」


 面白くなさそうな口調で、村にとって死刑宣告に等しい提案をするのは眼鏡をかけた神経質そうな魔法使い。

 Aランクに近い実力を持つ凄腕の魔法使いで、モンスターの群れに襲われた村が持ちこたえたのは彼の魔法によるところが大きい。


「ほう、悪くない提案だキーツ。

 そうだな、特別に1000万センドの報酬はまけてやるよ。

 村の有り金全部と若い女数人でいいからすぐに引き渡しな」


「そ、そんなっ!

 いくら何でもそこまでは! お、お許しください!」


 冒険者たちはレンド村を見捨てようとしている。

 彼らが本気であることを悟った村人は血相を変えてゲウスに縋りつく。


「……なら、さっさと飯と女を持ってこい!」


 バキッ!


「がはっ!?」


 鼻水を垂らして懇願する村人を殴りつけるゲウス。


「とはいえ、若い女はたいてい食っちまったしな……あの小汚い獣人族のガキでもいいか。

 おい、ちゃんと綺麗に洗って来いよ?」


「ふん、確か身寄りがないと言ってたな……調教して奴隷として売り飛ばすのもいいんじゃないか?」


「ワシには村長ノーラを連れてこい!

 あの豊満な未亡人……何度味わってもいいぜ」


「ひ、ひいいっ……ただいまっ!」


 これ以上殴られてはたまらないと退散する世話役の村人。

 その様子を冷たい目で見ていたキーツがぼそりと吐き捨てる。


「で、どうするんだ? 西の街道沿いに大規模な(ネスト)が出現したらしいぞ?」

「巣の退治などやってられん……そろそろ本当に潮時ではないか?」


「へっ、Aランク連中は王都の守備に駆り出されているからな……ギリギリまで搾り取らせてもらう」

「次の村に行くのはその後だ」


「ふん、強欲な事だ」


 興味なさそうに鼻を鳴らし、村人から巻き上げた金品の勘定を続けるキーツなのだった。



 ***  ***


「んん? 何だって? 良く聞こえなかったぞ。

 気のせいか、オレの耳には『飯も女も出せない』と聞こえたが」


「聞こえなかったのですか? これ以上貴方たちに差し上げる物は無いと言ったのです」


 10分後、ゲウス一行は屋敷の居間で村長であるノーラと対峙していた。


「なるほどなるほど」


 芝居がかった仕草で足を組みかえるゲウス。

 余裕を持った態度に見えるが、その禿げあがった額には青筋が浮かんでいる。


 ドンッ!


「村長様は、村がモンスターに滅ぼされても良いっておっしゃるんだなぁ!?」


 ベキッ!!


 力任せに振り下ろした拳がテーブルを粉砕するが、ノーラは眉一つ動かさない。


「このまま貴方たちに食べ物を渡していては、村人は皆餓死します。

 それなら同じこと……それに」

「冒険者ギルドが組織した救援隊が明日には到着すると連絡が」


「なに……!」


「こちらも十分な報酬を用意できなかったとはいえ、緊急時には民間人を最優先するのがギルドの規定のはず……。

 今までは生き延びるため、貴方たちの暴虐に耐えていましたが」


 キッ


 強い意志を感じさせる双眸がゲウスを睨みつける。


「村人への暴行に、不当な”現物要求”……救援隊の皆様に告発させていただきます」


(ちっ、このアマ……!)


 余裕のある表情を作りつつも、内心歯がみをするゲウス。

 お飾りの冒険者ギルドのくせに、いつの間に救援隊を組織したのだ。


 コイツを口封じのために殺して逃げるのは簡単だが、他の村人から情報が洩れるだろう。

 村人全員を始末し、証拠を隠滅するには時間がなさすぎる。


 この女もソイツを計算して強気に出て来たんだろうが……切れるゲウス様には奥の手がある。


「ふっ……」


 ぱちん!


 ザザッ


 ゲウスが指を鳴らすと、10人ほどの男達が今の中に入ってくる。

 みな粗末な服を着ている村人たちだ。


「!? あなたは副村長……それに?」


 困惑した声を上げるノーラ。

 彼らは副村長をはじめ、村の中心的役割を担ってきた青年団の男達だ。


「…………」


 副村長が無言で一枚の書状をノーラに眼前の突きつける。

 その内容を、いやらしい声で読み上げるゲウス。


「村長ノーラ殿……貴殿を横領など7件の罪で告訴し、村長職を解任するぅ♪」


「なっ!?」


 ガタン!


 思いもよらぬ裏切りに、思わずソファーから立ち上がるノーラ。

 最近副村長たちが夜中に会合を開いているのは聞いていたが、こんな裏切りなんて……!


「し、仕方なかったんだ!

 うちの子に腹いっぱい飯を食わせてやりたかった……そ、それに」


「あなたたち、まさか!?」


 ノーラの詰問に、目を逸らす男達。


「そうそう、優しいオレサマは優秀な協力者に”分け前”を与えてたんだよ~ぉん、生真面目な村長さん」


「な、なんてこと……!」


 村と家族を守るため、ゲウス達の機嫌を取るために身体を差し出した女性は多い。

 ノーラもデガに抱かれたことがある。


 それを、分け前だなんて……!


「さぁて、解任された”元”村長さんを処罰しますかねぇ~♪」


 ぐいっ!


 絶望感で目の前が真っ暗になったノーラは、なすすべもなく村の広場に引き摺られていった。


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