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第26話 少女たちのバースデー(中編)

 

「ふう~っ、ふう~っ」


 実家の権力をフルに使い、即日の監査申請を通した後、屋敷の私室に戻ったミルラはクロークの中で荒い呼吸を繰り返していた。


 氷のように青い双眸は血走り、周囲のものすべてを凍らせようとする。

 侍女たちもミルラの迫力に全員逃げ出してしまった。


「な、なにを着ていけばいいんだっ!?」


 服に埋もれながら頭を抱える。

 広いクロークを埋め尽くしているのは、服装に無頓着なミルラを心配し、両親やじいやが買い与えてくれたドレスの数々。


 部屋を圧迫するので正直邪魔だと思っていたが、彼女は始めてそのことに感謝していた。


「ガイがっ……私をっ……生誕の祝宴に誘ってくれただとっ!」


 バキンッ!


 興奮のあまり踏みしめた右足が黒曜石の床を踏み抜いてしまった。


「……」


 修復魔術でいそいそと床を直しつつ、湯だった頭を高速回転させる。


(自身の城を構えた後、女性を生誕の祝宴に招くことは……その女性と生涯を添い遂げたいと言う魔族伝統の儀式っ!!)

(いや待てミルラよ、あの年中虐待のことしか考えていない朴念仁がそんな伝統を知っているのか!?)

(いつものようにからかわれているだけではないのか?)

(いやしかしっ! 「綺麗な格好をしてこい」と言われた……)


 そういえば、彼の下僕であるレナ、ノナはとてもかわいい衣装を嬉しそうに着ていた。

 ならば……。


 ブワワン


 床の一点に、精緻な魔法陣が出現する。


 ミルラは震える手で床下収納の封印を解いていく。

 重大なトラウマとなっている、ガイから贈られたふりっふりな衣装。


 ごくっ!


 意を決して禁断の衣装に袖を通していく。


「よしっ、ガイ……今行くぞ!!」


 ピンクのレースとフリルで飾り付けられた極限ふりふり衣装を身に付け、鬼の形相で部屋を出てきたミルラを目撃した侍女は後にこう語ったと言う。


 世界が終わったと思った、と。



 ***  ***


「ガイ殿、祝宴の準備が整いました」


 もうすぐ正午。


 祝福虐待の準備は滞りなく進んでいるようだ。

 パーティ担当のノーラが作業の完了を報告してくる。


 中庭に設けられたオープンテラスには、うずたかく積まれた料理が見える。

 パンに魚料理、肉料理やスイーツ。

 もちろん酒も抜かりなく、ビールやワインは樽単位で準備した。

 これらは俺様の練成魔術や農場で採れた作物を使い、数日前から準備したものだ。


 くくく、村人どもにはこれをすべて平らげてもらうぜ。


 お残しはこのガイ様が許さねぇ!

 残り物には保存魔術をかけ、強制的に持ち帰らせてやるぜぇ!!

 村の人口から計算すれば、数日は冷や飯食らいだ!


 まさに非道!!


 俺は料理のできばえに満足すると、ノーラに返事をする。

 おっと、低昇給虐待も忘れないぜ。


「おう、村長さんか!

 手早い仕事に免じて給金を上げてやるがわずか4割だ!!」


「ふふっ、ありがたい申し出ですが辞退させていただきます。

 ガイ殿からはもう十分施しをいただいてますので」


 ほう!

 ……流石は村長の責にある人物だ。


 これほどの働きをしたのに少ししか給金を上げない俺に対し、ゼロで良いと来た!

 それに、あの余裕のある笑みは強がりなんかじゃねぇ。


 理論ばっかりで頭でっかちな学院の連中に見せてやりたいぜ!


「そうかそうか、それならレナノナのお小遣いに回しておいてやる。

 くくっ、あいつら思わぬ臨時収入に混乱するに違いない。

 いい気味だぜ」


「ふふふふっ」


 何が面白いのか、楽しそうに笑うノーラ。


「それよりガイ殿、そろそろ正午になります。

 宴を始めていいのでは?」


 そうだった!

 恐怖の大魔王は時間厳守。

 これも親父の教えだぜ!

(ミルラのやつは少し遅れるらしい。まったく、魔族としての自覚が足りないな!)


「さあ、もの共!!

 恐怖の宴の始まりだぜ!!」


「「うおおおおおおおっ!!」」


 村人たちの掛け声が鳴り響く。

 レナとノナ、ついでにミルラの誕生日パーティの幕がこうして上がったのだった。


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