第15話 〜依頼〜
俺は宿でぐっすりと寝てから冒険者ギルドへと向かった。
咲と堀井も居るが、受ける依頼は違う。
昨日打ち合わせした通りだ。
堀井は人見知りなので、出来るだけ人と関わらないやつがいいと言っていたが全ての依頼で一度は依頼主と会わないといけないので、今から緊張していた。
もしかしたら、初めて依頼を受ける事への緊張の方が大きかったかもしれないが……。
結局、堀井は必要最低限しか会話をする事がない、配達のクエストを受けた。
ここには車や自転車なんていう、便利な道具はないので、町中を走り回らないと終わらないので、所要時間の目安は14時間らしい。
依頼は1日1個が限界かな……?
咲は情報収集も含めて酒屋の手伝いの依頼を受けた。
どうやら、店員がいきなり病気にかかり人手が足りないらしい。
これは12時間働けば終わりという決まった制限時間がある。
だから、早く終わらせて次の依頼というのは絶対に無理そうだ。
そして、俺は家の解体の依頼を受ける事になった。
俺たちが受けたの全てEランクの依頼だ。
俺たちはFランクだが、Eランクの依頼を受けて成功すると、FランクからEランクに上がりやすくなるらしい。
失敗すれば、詫び金を払わないといけないし、連続で失敗すると、1つ上のランクの依頼は受けられないようになるみたいだが。
それでも俺たちはEランクの依頼を受けた。
理由は……早くランクを上げたいからだ!
そして、ギルドに発注して、すぐに俺たちは個々の依頼へと別れた。
俺は郊外にある一家建に向かった。
♦︎♢♦︎♢
そこには身長が195センチ程あり、腕周りが丸太のように太い男が3人立っていた。
「あの……スコットさんでしょうか?」
俺は紙に書かれた場所と依頼人を確認しながら1人の大男に尋ねる。
「そうだ、俺がこの街で1番の建築士アルミン・スコットだ」
俺は失敗したかも知れない……。
ここまで面倒くさそうな依頼主だったとは……。
「よろしくお願いします……。それで、この建物を解体すれば良いのですか?」
「ああ、お前が解体したらそこに俺が素晴らしい家を建てる。お前はそんな現場に貢献できるのだ。誇らしく思え!」
「はぁ……」
正直どう対応すれば良いのかわからない。
横の男は「また始まったか……」と言うような顔をして立っている。
多分、毎回こうなんだろう。
「それでは始めます」
こうゆう時にどうやって解体するのが正解なのかは分からないが、どんな手段でも安全に解体できたらいいらしいので魔法を使う事にした。
使う魔法は風魔法だ。
俺は家にある柱を全て風魔法で折っていく。
何故、魔法を使うのかと言うと、ハンマーを使って中から1つずつ折っていくのもいいのだが、それをすると俺が家に押しつぶされる可能性がある。
それなら、1番安全な外から作業して方がいいと思うのは当たり前だろう。
俺は風魔法を使おうとした瞬間ある事に気がついた。
「どこに柱があるか分からないじゃないか……」
俺はスコットさんに確認を取って家の中を見てまわる。
俺は暗記力には自信がある。
一度家の中を見ただけで、構造を完全に覚えることが出来る。
ひと通り、中を見終わった後、解体作業再開だ。
柱のある場所全てに鎌鼬を作る。
鎌鼬は空気を一瞬消して、真空状態にする事によって作る事が出来るのだ。
鎌鼬によって柱が切れるかは微妙だったが、どうやら成功らしい。
家は音を立てて、ペシャンコになった。
「これで依頼は完了で良いですか?」
スコットさんたちは面を食らっている。
「……ああ、それにしても今どうやったんだ?」
スコットさんは俺の手を握って熱心に聞いてくる。
それほど珍しい事をやったのかな……?
「鎌鼬を作くって柱を全部折ったんです」
「カマイタチ……?」
どうやらスコットさんは鎌鼬を知らないようだ。
「えっと……」
俺は鎌鼬についてスコットさん達に説明する。
スコットさんを含めて、3人は熱心に俺の話を聞いていた。
「へぇ……、風魔法ってそんな事が出来るんだな。言っちゃ悪いが風魔法って使い道の無い魔法だと思っていたよ。所詮、風魔法だしよ」
たしかに俺も日本に居た時の記憶が無かったらこんなことを思いつかなかっただろう。
鎌鼬を、発見した人は偉大だ……。
「ありがとよ!じゃあ、依頼達成の印をつけるから紙を出してくれ」
紙?
そんな物どこにやったかな……。
ああ、そうだ。
ギルドの職員から渡されて捨てそうになった紙だ。
あの時は慌てた形相で止められたな……。
確かあれは……。
あった。
ポケットの奥にしまい込んでいた。
紙は相当シワクチャだが、大丈夫だろう。
「これだよな?」
「おう、それだ、それ。えっと……」
スコットさんは汚い文字でサインしてくれた。
「よし!これで大丈夫だ。今日はありがとな」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
それだけ言って俺はギルドへと戻った。
♢♦︎♢♦︎
ギルド職員は驚いていた。
「もう、終わったのですか?」
たしか、依頼内容の紙には所要時間が15時間と書いてあった。
だが、俺が家の解体に使った時間は10秒もない。
柱の位置を確認する為に使った時間を考えると30分ぐらい掛かったが、移動距離が一番無駄な時間だっただろう。
俺は職員に依頼達成の印をもらった紙を見せる。
「はい、確認しました。報酬を用意しますのでしばらくお待ちください」
1分ぐらいすると職員が戻ってきた。
「これが今回の報酬になります」
そう言って、大銅貨を2枚置いた。
たしか、大銅貨1枚の依頼だった気がするが……。
「大銅貨1枚は依頼者からのチップだそうです。仕事が早くて大変助かったと喜んでおられました」
そうか、これはスコットさんからだったか……。
この大銅貨は大切に使わせてもらおう。
でも、どうやって連絡をとったんだろ……。
この世界に電話なんてないよな?
そう言えば紙にサイン以外も書いていたような……。
まぁ、なんでもいいや!
♢♦︎♢♦︎
俺はもう一つ依頼を受けてから咲と堀井と合流した。
「お前たちは大丈夫だったか?」
「うん!完璧だったよ!りゅーちゃん!宿に戻ったら詳しく話すね!」
「うん、よろしく」
どうやら、咲はしっかり、情報収集をしてくれたようだ。
情報収集の事なんて忘れて、ただの今日の出来事の話かも知れないが。
「俺も、何とか出来た。ここの町の人はいい人ばかりだな」
「堀井が初対面の人と話したのか?」
「おう!楽勝だったぜ」
堀井は笑いながらそう言っている。
日本に居た時の堀井からは考えられないことだ。
本当になんで、あんなにコミュ力低いのにモテていたのだろう?
やっぱり顔かな……。
「お前なに考えてるんだ?」
堀井が不思議そうな顔で俺を見てくる。
よし、早く帰ろう!
「よし!宿に帰るか」
「うん!」
「そうだな」
♢♦︎♢♦︎
宿に帰ると俺たちは咲の話を聞くことになった。
「それで、どんな情報を集めれたんだ?」
「えっと、まずは詳しいこの世界の地理についておしえてもらったよ」
「詳しく教えてください」
「うん!えっと、この世界はーーー」
咲が聞いた話によるとこの世界には3つの大陸が存在するらしい。
俺たちが居るのは3つの大陸で最も大きい人族とエルフ族が住む大陸だ。そして、ずっと東に行き、海を渡れば獣人族、小人族、魔族が住む大陸が見えてくる。
その中でも魔族の住む地域は一番東にある。
ここから西に向かって行けば魔族の住む地域まで行けるはずなのだが、大陸を渡るには海を通らなければならない。
しかし、海上で一部のマナの量が異常に多いせいで海が荒れて近づく事が出来ないみたいだ。
だから、俺たちは東回りで遠回りして魔族の所まで行かないと行けないのだ。
そして、ここかずっと北に行けば海があり、その先に天空族が住む大陸がある。
そこの大陸は崖が多く俺らでは、1つの村に訪れるのも一苦労のようだ。
まぁ、行くことは無いだろう。
「ーーーだって。それで、世間一般からの魔族への印象だけど、誰も直にあったって言う人は居なかった。でも、昔から「魔族は敵だ」って教え込まれているみたい」
「ありがとう咲。これで次の行き先を決めれるな。まずはここで、ランクをE以上にしよう。俺たちだったら狩をする方があっている」
堀井が「うんうん」と頷いているが、咲は「そうかな?」って言う表情をしている。
昨日の依頼が楽しかったのだろうか。
そういえば、咲の話に小人族と天空族って出てきたけど、王様が言っていた種族って人族、エルフ族、獣人族、魔族の4つだったよな?
何か、俺たちに言わない理由があったのだろうか……。
やはり王族には裏がありそうだ。
しかし、この町では結構慕われているんだよな。
ここで、王族に対する悪口なんて言ったら牢屋にポイだろう。
不敬罪で。
よし、Eランクに上がるまで地道に頑張るか。
PVが1000を超えました!
ありがとうございます。
次回から龍二たちの冒険が始まります。
どうか、次回もみてください!




