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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第三章

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3-6.雇用

「おや。奴隷くんと可憐なお嬢さん」


 仁と玲奈がミルの食いっぷりを眺めていると、後ろから声が聞こえた。振り向くと、仁と同い年くらいの青年が槍を片手に、笑顔で佇んでいた。


「冒険者になったんだね。そのギルド証だと、僕と同じC級かな?」


 青年は爽やかに口角を持ち上げた。口元から覗いた白い歯が、キラリと光った気がした。仁は玲奈の前に立ち、青年と相対した。


「どちら様でしょう。どこかでお会いしましたか?」

「ははは。いやだなぁ。数日前に門のところで会ったじゃないか。君たちがメルニールに着いた日のことだよ」


 仁が記憶を辿っていると、玲奈が仁の背から顔だけを出した。


「ねえねえ、仁くん。この人、門番さんじゃない?」

「あ、ああ。そう言われてみればそんな気が」


 仁の頭に、追いすがる帝国騎士を止めてくれた門番の姿が過り、目の前の人物と一致した。


「おお。思い出してくれましたか。まさしく僕がその門番ですよ」

「その門番さんが、こんなところで何をされてるんですか? 今日は非番なんですか?」


 仁の疑問が可笑しかったのか、門番の青年は小さく含み笑いを漏らした。


「そうか。君たちはまだメルニールのことをよく知らないんだね。では、先輩たる僕が教えてあげよう」


 玲奈が仁の隣に並んだ。ミルは口をもぐもぐさせながら仁と玲奈の間から様子を窺っていた。


「メルニールに領主はいないから、守備隊もいない。だから、他の街にいるような門番も存在しない。でも、さすがにそれだと困るからね。冒険者ギルドからの依頼という形で冒険者が門番や警備の仕事をしているんだよ」


 メルニールの街ができたのが今から約80年前。当時ダンジョンを発見した冒険者が中心となって街を作り上げてギルドを発足させ、魔石の安定供給を盾に、ダンジョンの管理にまで手が回らない帝国から自治権を得たそうだ。仁には帝国が全方位と戦争状態であることで成り立つ危ういバランスに感じられた。現在ではメルニールは冒険者ギルド、探索者ギルド、商人ギルドの代表者と何人かの街の有力者が中心となって自治を行っているらしい。ただし、彼らは支配者としての権限を有しているわけではなく、あくまで住民たちで協力して街を運営していくスタンスだそうだ。


「というわけでね、そんなに割のいい仕事ではないんだけど、誰かがやらないといけない仕事だからね。僕は定期的に依頼を受けることにしているんだよ。ここだけの話、冒険者ギルドへの貢献度は高く設定されているみたいだしね」


 青年は、だからこそ若くしてC級になれたのだとにこやかに話した。


「それで、君たちはミルを雇うつもりかい?」

「あ。ミルちゃんとお知り合いなんですか?」


 ミルは慌てて立ち上がって青年に対してお辞儀をした。


「僕は門番の仕事をしていないときはダンジョンに潜ることが多いんだけど、そのときに成人前の若い子たちを何人かサポーターとして雇うことにしていてね。ミルとも何度か一緒に潜ったことがあるんだよ」


 青年の澄んだ瞳がミルを捉えて優しく細められた。


「最近門番の仕事が多くてなかなか来られず心配していたんだけど。うん。君たちにならミルを安心して任せられそうだ」


 そう青年が笑みを深めたとき、遠くから青年を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ヴィクターさーん!」


 それは小学校高学年くらいの年齢に見える少女たちの声だった。


「おっと。いけない。ついつい長話をしてしまったね」


 ヴィクターと呼ばれた青年は振り返って少女たちに手を振ると、仁たちに向き直った。


「僕もこれからダンジョンに潜る予定でね。また会ったときはよろしく頼むよ。ミルも頑張ってね。では失礼」


 爽やかな笑顔を浮かべて立ち去るヴィクターの後ろ姿を3人揃って見送った。ヴィクターの周りに何人もの少女たちが駆け寄り、手を引いてダンジョンの入口の方へ歩いて行った。子供たちではなく、少女たち、だった。仁はヴィクターの言った若い子たちという中に少年は含まれないのか少しだけ疑問に思ったが、深く考えてはいけないような気がした。


「それじゃあ、俺たちも行こうか。はい。これ、契約料ね」


 仁が銀貨2枚を渡そうとすると、ミルがぶんぶんと首を左右に振った。


「食べ物もらったから、そんなにもらえない……」

「さっきも言ったけど、焼き鳥は余ってたものなんだよ。だから気にしないで受け取って欲しいな。これは今日これからサポーターとして働くミルちゃんの正当な賃金なんだから」


 ミルは悩むそぶりを見せながら、おずおずと受け取った。


「俺たちC級冒険者パーティ”戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)”が今日一日ミルちゃんをサポーターとして雇います。改めてよろしく!」

「ミル、がんばる」


 ミルが真剣な表情で大きく頷いた。


「あ。うちのリーダーは玲奈ちゃんだから、ミルちゃんの雇い主は玲奈ちゃんね」

「名ばかりのリーダーだけど、ミルちゃん、よろしくね!」


 玲奈が差し出した手をミルが握った。仁は握手会のときの玲奈の手の柔らかさを思い出し、ミルを羨ましく思った。


「ジンさんはレナさんの奴隷なの……なんですか?」


 ミルがジンの隷属の首輪を不思議そうに見上げていた。リリーにも言われたが、きっと一般的な奴隷と主人には見えないのだろうと仁は推察した。


「うん。そうだよ。だから、そんなに畏まらなくていいよ。もっと気軽に接してくれた方が嬉しいな」


 仁の言葉を受けて、ミルが仁を眺めて何度か瞬きを繰り返した。


「ジンお兄ちゃん……?」

「うん。それでいいよ」


 仁が笑顔を見せると、ミルが少しだけ顔を綻ばせた。


「あの、ミルも、ミルって呼んでほしい……」

「うん。ミル」


 仁が呼び捨てにすると、ミルは恥ずかしそうに顔を俯かせた。


「仁くん、ずるい! 奴隷じゃなくても気軽にしてほしいよ!」


 玲奈が頬を膨らませて可愛く憤慨していた。


「レナお姉ちゃん……?」


 玲奈が顔に花を咲かせた。


「ミルちゃん、可愛い!」


 玲奈がミルに抱き着く。玲奈の両腕の中にすっぽりと埋まったミルは、僅かに苦しそうに顔をしかめたが、仁の目には満更でもないように映った。ミルの尻尾が左右に揺れていた。


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