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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第三章

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3-7.二人組

「おいおい。ヴィクターの奴もそうだが、いつからダンジョンはガキの遊び場になったんだ?」


 仁と玲奈がミルを連れてダンジョンの入口前に並ぶと、すぐ前に並んでいた二人組の男の一人が、無精ひげの目立つ顔を不機嫌そうに歪めた。仁が玲奈とミルを背後に庇った。


「乳臭いガキが奴隷のガキとサポーターのガキを連れて、おままごとでもしに行くつもりか?」


 舌打ちをしながら無精ひげの大柄な男が仁たちを無遠慮に見下ろした。仁は男の物言いに腹を立てながらも、問題を起こすつもりはなく成り行きに任せた。


「いやいや、兄貴。ちょっと待ってくださいよ。サポーターの犬娘いぬっこはともかく、この若さでダンジョンに挑めて、さらに奴隷持ちなんて、将来有望なルーキーじゃないですか」


 横の細身の男が仁たちに向けて両腕を広げて、無精ひげの男に訴えかけた。大げさなジェスチャーが芝居がかって見えた。男たちの首から、冒険者ギルド証とは異なる楕円形の金属板が提げられている。金属板の色は銀色だった。


「ふん。どうせどっかの金持ちの娘のお遊びだろう。冒険者ギルドのランクも金で買ったんじゃねぇのか。そんなクソの役にも立たなそうなガキを雇ってる時点で、ちっとも真剣みが感じられねえ」


 無精ひげの男の言葉に細身の男は肩を竦め、仁たちに向き直った。ミルが仁の背後で唇を噛んだ。玲奈がミルの肩に手を置き、仁は僅かに目を細めた。


「すまないね。兄貴は口は悪いが、こう見えて、あんたらのことを心配してるんだぜ。あんたら、見ない顔だし、新人だろう?」


 仁が曖昧に頷く。


「どうだい。俺らと一緒に潜らないかい? ダンジョンの専門家である探索者の俺と兄貴が、いろいろとレクチャーしてやるぜ」

「おい。何勝手なこと言ってやがる」


 細身の男が、まあまあと無精ひげの男を宥めた。


「それで、どうだい?」

「せっかくですが、遠慮させていただきます。こちらにも予定がありますので」


 玲奈と相談するまでもなく、仁の答えは決まっていた。


「ああ、ああ、そうだろうね。急に言われても、困るよな。うん。じゃあその気になったらいつでも声をかけてくれよ。俺はザムザ。兄貴はゲラム。だいたいいつもこのくらいの時間にいるからさ」


 細身の男はひらひらと手を振ると、ダンジョンの入場受付を済ませて、無精ひげの男とダンジョン内へ消えて行った。続いて仁たちの順番となり、仁と玲奈が冒険者ギルド証を提示する。ミルが受付の係員からサポーターを示す腕章を受け取り、麻の貫頭衣の肩口に巻き付けた。


「じゃあ行こうか」


 仁がそう言って歩き出そうとすると、顔を地面に向けているミルの姿が目に入った。仁がミルの背中を軽く叩いた。


「ミル。できることをすればいいから。頑張ろう」


 ミルが顔を上げて、仁を見上げた。真剣な表情で小さく頷くミルを、玲奈が微笑を湛えて見守っていた。




「それにしても、さっきの失礼な人たちは何だったのかな」


 ぼんやりとした明かりの中、ダンジョンの一階層をゆっくりと進んでいた。仁と玲奈が横に並び、少し遅れてミルが続く。ミルには背後の警戒をお願いしていた。


「どうだろうね。大柄の男が悪態をついて俺たちに悪感情を抱かせて、細身の男がそれを庇うことで、相対的にいい人アピールしているように感じなくはなかったけど」

「私としては最初のマイナスが大きすぎて、プラスどころか、ゼロにも戻ってないけどね」


 玲奈は口を僅かに尖らせる。


「私だって、最近は大人っぽくなってきたねって言われるようになってきたんだから」


 元の世界ではともかく、化粧をしていない今の玲奈はむしろ幼く見えるのだが、それを口にするほど仁は空気の読めない男ではなかった。


「とにかく、下手に絡まれて目立ちたくはないし、警戒だけはしておこう」


 玲奈が頷くのと同時に、ミルの小麦色の耳がピクッと動いた。


「玲奈ちゃん。来るよ」

「うん。任せて」


 玲奈が足を止め、右手のミスリルソードの剣先を前方に向けた。仁はミルを促して数歩後ろへ下がる。洞窟のような形状のダンジョンの通路の先から、ここ数日でお馴染みとなった人狩猟犬キラーハウンドが3匹姿を見せた。


 3匹は正面から並んでゆっくり近づくと、左右の2匹が急に全力で壁際を走り出した。2匹は玲奈を挟むように両側から口を大きく開けて跳びかかった。玲奈は壁を蹴って勢いを増した人狩猟犬キラーハウンドの1匹を、腰を落とした横薙ぎの一閃で切り裂くと、そのままの勢いで体を回転させ、逆側から迫るもう1匹も切り裂いた。それは以前、殺人狼キラーウルフ相手に仁が見せた動きに酷似したものだった。


雷撃ライトニング!」


 残りの1匹が、2匹を仕留めた直後の玲奈の一瞬の硬直を見逃さずに迫っていた。玲奈の足元から首筋に噛みつこうとしていた最後の1匹を、仁の左手から放たれた一筋の黄色い雷光が貫いた。


「仁くん。ありがとう。1匹倒せなかったよ……」

「いや。確かに玲奈ちゃん中心に戦ってもらおうとはしたけど、何も一人で全部やる必要はないからね。パーティなんだから、協力して倒せればいいよ。誰も傷つかないのが一番だからね」


 肩を落とす玲奈に声をかけていると、ミルが目を丸くしているのが見えた。


「ミル、どうかした?」

「レナお姉ちゃんもジンお兄ちゃんも、とっても強いの」

「そうかな。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、まだ一階層だし、こんなもんじゃないかな」


 ミルが小さく首を左右に振った


「ミル、何度か来たことあるけど、みんな、一人で複数の魔物を同時に相手にしないように動いてた。だけど、レナお姉ちゃんは2匹同時に相手して、あっという間に倒しちゃったの」


 ミルに褒められて喜んでいた玲奈の肩が、再びがっくりと下ろされた。


「それって、むしろ私の動きがダメなだけなんじゃ……」


 玲奈の呟きに、仁は苦笑いを浮かべた。


「ミルはよく見てるね。でも、確かに玲奈ちゃんは力はあるけど、まだ経験が不足してるからね。複数同時に相手取れる力も必要だけど、安全を第一に考えて一対多を避ける立ち回りも重要だと思うよ。玲奈ちゃん、今後の課題だね。もちろん、さっきも言ったけど、すべて一人で対処する必要はないけどね」

「うん」


 実際に1匹を取り逃した玲奈は緊張の面持ちで頷いた。


「じゃあミル。俺は周囲の警戒をするから、魔物の解体をお願いできるかな? 確保するのは魔石だけでいいよ」


 ミルは小さく頷くと背負ったボロボロの麻袋を下ろし、小さなナイフを取り出した。


「玲奈ちゃんはミルがやってるのを見て覚えてね」

「うん。わかった」


 ミルは解体の順序を頭の中で反芻するかのように人狩猟犬キラーハウンドの死骸を見つめてから、刃こぼれの目立つナイフを刺し入れた。力のなさとナイフの切れ味のなさから解体速度は遅々としたものだったが、とても丁寧な仕事だった。


 仁は辺りに注意を向けながら、ミルの仕事ぶりに感嘆の声を零した。玲奈の手本に最適だと感じた。仁はまた一つ、ミルを雇ってよかったと思えることを発見し、心を弾ませた。


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