悪霊
次の日、結月はいつものように翔の後を追っていた。
しかし、結月は先日のショックから、まだ完全に立ち直れてはいなかった。
だから、翔の変化にすぐには気づけなかった。
翔の部活動が終わり、結月は帰る翔の後を追った。
しかし――
「あれ……? 今日は一人……」
いつもなら友達と帰る翔が、今日は友達に「先に帰る」と言って、一人で体育館を出て行ったのだ。
不思議に思った結月は、いつもより翔の近くに行って追った。
翔は昇降口を出ると、真っ直ぐに一人の女子生徒のもとへ行った。
「紗由里」
紗由里と呼ばれた女子生徒は、ゆっくりと振り向き、翔の姿を確認してふわりと笑みを浮かべた。
「翔くん」
結月は、その女子生徒の事をよく知っていた。
地毛で腰までのふわふわな茶髪。
琴長紗由里。学年一の美人と呼ばれてる女だ。
告白はたくさんされてるが、その全てを断っている、という噂がある。
その美人と翔が仲良さげに話している。
「……?」
結月の頭には、疑問符ばかりが浮かんでいた。
今まで、翔と紗由里の間に大した接点は無かったのだ。
「なんで……」
やがて二人は、並んで歩き始めた。
校門から出て少し歩くと、二人は手を繋ぎ始めた。
「……っ!!」
結月は後を追うのも忘れ、その場に立ち尽くした。
二人の頬が赤く染まっている。
紗由里が翔に話しかけている。
「翔くん、今度の日曜日、空いてるかな?」
「ああ。空いてるよ」
翔の返答に、紗由里は嬉しそうに笑うと
「よかった。じゃあ、お出かけしようよ」
と言った。
「……ああ。いいよ」
と翔が笑った。
明らかに、恋人同士の言動だった。
「ま……まっ……」
結月は二人のもとへ走った。
しかし、結月は何を言うことも出来なかった。
別に結月と翔はつき合ってる訳ではない。
だから翔が誰とつき合おうと、結月に口を挟む権利はないのだ。
やがて二人の歩みが止まった。
こっから先は、紗由里と翔の帰り道が違うのだ。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ。じゃあな」
そう言って二人は、周りに人がいないのを確認し、抱き合った。
「っ!!」
結月を胸が締め付けられる感覚が襲った。
やがて二人は離れ、今度こそ別れた。
二人は三秒程しか抱き合ってなかったが、結月には何時間にも感じられた。
結月に黒い感情が込み上げていた。
「いや……やだ! 翔! 私以外とつき合わないでよ!」
勝手な言い分だと分かってはいたが、結月は感情を抑えられなかった。
それも無理はない。
何故なら、告白寸前で、想いが届く寸前で死んでしまった挙げ句、成仏出来ずに孤独な日々を送りながらも、ずっと翔を見守ってきた結果がこれなのだから。
「あ……ああ……」
結月の身体を、どす黒い煙のような感情が飲み込んでいく。
やがて、右手が細く、痩せてしわだらけの手に変形していく。感情は手だけではなく、足をも変形させていく。
「う……ああ……いや……いや……」
やがて身体の半分以上を飲み込み、顔までも蝕んでいく。
―このまま、悪霊になってしまうのか。
悪霊となって、悪事しかする事の出来ない身体になってしまうのか。
嫌だ。嫌だ――。
「うっ……や……!」
「ユヅ?」
結月が悲鳴をあげようとしたとき、誰かの声が結月の名を呼んだ。
「ユヅ! 大丈夫か!?」
心配そうな顔で結月の名を呼んだのは――
「あ……か、翔……」
結月は翔に右手を伸ばした。
その手を翔がとることは無かったが、かわりに言葉を発した。
「ユヅ……お帰り」




