↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
133/133

第133話 橘尚哉は向き合っている。

 夕日はまだ沈まない。


 静かな教室で二人きり。


 机の上には未来日記。


 開かれたページには、誰にも届かなかった言葉たち。


 六花はそれを見つめていた。


 尚哉もまた、黙ってそのページを見ている。


 しばらくの沈黙。


 不思議と気まずくはなかった。


 さっきまでなら苦しかったはずなのに。


 今は違う。


 誰かがいる。


 それだけで全然違った。


     ◇


「なあ」


 尚哉が口を開く。


 六花は顔を上げた。


「うん」


 尚哉は少しだけ考える。


 言うべきか迷っているようだった。


 そして。


「俺ってさ」


 静かに言った。


「どうやって死ぬんだ」


 六花の身体が固まった。


 いつか聞かれると思っていた。


 でも。


 聞いてほしくなかった。


 思い出したくなかった。


     ◇


「……色々」


 六花は小さく答える。


「色々?」


「毎回違うから」


 尚哉が眉をひそめた。


「毎回違うのか」


「うん」


 六花は頷く。


「同じじゃない」


 火事。


 事故。


 転落。


 病気。


 他にもたくさんあった。


 思い出したくないくらい。


「文化祭の火事もあった」


 六花は静かに言う。


「歩道橋の事故も」


 尚哉は黙って聞いていた。


「駅のホームで死んだこともある」


 六花の指先が少し震える。


 最初のループ。


 目の前で消えた背中。


 今でも鮮明だった。


     ◇


「何か共通点は?」


 尚哉が聞く。


 六花は答えられなかった。


「分からない」


「分からない?」


「探したことはある」


 何度も。


 何十回も。


 何百回も。


「でも見つからなかった」


 事故の種類は違う。


 場所も違う。


 時期も違う。


 だから。


 結局分からなかった。


「そうか」


 尚哉は未来日記へ視線を落とす。


 何かを考えている。


     ◇


「じゃあさ」


 尚哉が言う。


「俺、自分から危ないことしてる事が多いのか」


 六花は言葉を失った。


 その質問は想定していなかった。


 でも。


 考えてみれば。


 文化祭の火事。


 歩道橋。


 駅のホーム。


 どれも。


 尚哉は誰かを助けようとしていた。


「……多いかも」


 小さく答える。


「かも?」


「分からない」


 六花は首を振る。


「でも」


 言葉が続かない。


「でも?」


「橘くんは」


 六花は俯いた。


「困ってる人を見ると放っておけないから」


 尚哉は苦笑した。


「否定できないけど、死ぬほどって事か」


     ◇


 少しだけ空気が緩む。


 けれど。


 六花は笑えなかった。


 放っておけない。


 その優しさを知っている。


 だからこそ。


 何度も失った。


「白鷺」


 尚哉が呼ぶ。


「うん」


「もう少し話聞かせてくれ」


 六花は顔を上げる。


 尚哉の表情は真剣だった。


「俺のこと」


「……」


「ちゃんと知りたい」


 未来日記のことも。


 ループのことも。


 死のことも。


 全部。


 怖くないわけじゃない。


 でも。


 目を逸らしたくなかった。


     ◇


 六花はしばらく黙っていた。


 そして。


 小さく頷く。


「……うん」


 今までは一人だった。


 全部一人で考えていた。


 全部一人で背負っていた。


 でも今は違う。


 隣にいる。


 話を聞いてくれる人がいる。


 それだけで。


 少しだけ前を向ける気がした。


 橘尚哉は向き合っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。