第50話 最後の戦い
本日の更新5話目です。
アクアノートの1階、地上部分。北側にて、最後の作戦が始まろうとしていた。
武装した中型の戦闘ヘリが2機、ヘリポートに並んでいる。全長は約15メートルほど。
20メートルのアルファと戦うには、やや心許ない大きさだ。向こうの方が5メートルほど大きい。
しかし1機ではないし、武装もしている。乗り込む保安部の隊員達も、本部から持って来た銃器を装備している。
「これより、反逆者の粛清を行う。奴はあまりに殺し過ぎた。このまま黙って見ているわけにはいかん!」
出陣前の演説を、バートが行っている。ルーカスと彰人を含めても、10人しか居ない。
バートを含めて4人ずつが、ヘリに乗り込んで攻撃する。ルーカスと彰人は、地上で待機だ。
もっともルーカスは、機雷を遠隔で起爆する事も出来る。ただの待機とは、少し違う。
彰人は戦闘経験がないので、言葉通りの待機だ。一応サブマシンガンを持たされたが、撃った経験はない。
「では出撃だ!」
「はっ!」
バートと隊員達が、ヘリに乗り込んで行く。スライドドアが全開の後部には、投下する機雷が乗っている。
空中から投げ込む予定だ。2機がローター音を響かせながら、少しずつ上昇していく。
ちょうどそのタイミングで、アクアノートが大きく揺れた。恐らくは、アルファの体当たりだろう。
しかし以前よりも、揺れ方が激しい。まるでアクアノートが、崩壊するのではないかと思う程に。
「何だこの揺れ!? 今度は何をしやがった!?」
「……まさか、45階では? どうにかして内部に入って、施設内で暴れている!?」
北側の45階には、アルファでも入れるプールがある。ゲートを破壊して、内部へ侵入したのだろう。
水圧に晒される外側と比べて、内側は強度が低い。重要な支柱を、直接攻撃されるのは不味い。
「ハッ! こりゃ俺達の命どころか、足場まで分からなくなったな。有難い話だよ。身が入るね」
「なんて利口さだ。生物兵器としては、あまりに優秀過ぎる」
アルファであれば船舶だけでなく、海上基地すら攻撃出来るだろう。それだけの知性を見せている。
早く倒さないと、全員が危ない。ルーカスと彰人は、急いでくれと願うしかない。
飛び上がった2機のヘリから、お手製の機雷がバラ撒かれて行く。着水の衝撃で、機雷が起動する。
起爆装置のランプが、一斉に発光する。緑色の光が、波間からチラリと見えていた。
機雷の散布が終わるなり、バートは窓から手を出す。指先が少し、ナイフで切られている。
「さあ、俺はここに居るぞ!」
グッと指先を絞ると、バートの血が海面へと向かう。研究の過程で、アルファはバートの血を知っている。
まだ幼い頃に、どれぐらい嗅覚が優秀か試したからだ。最も憎んでいる相手の匂いが、海中に垂らされた。
数秒もすると、アルファの攻撃が止まった。彼女を煽るように、バートは低空飛行をしている。
暫くすると、巨大な影が見え始める。アルファを確認した隊員が、バートに大声で伝える。
操縦桿を握るバートは、上昇しつつ回避行動を取る。その直後、ヘリが居た位置からアルファが海上に跳び出す。
「上官に逆らうという事が、どういう事か教えてやる!」
空中でバートとアルファが、視線を交わす。お互いに、強い殺意を込めて睨んでいる。
旋回しながら射線を確保したバートが、引き金を引く。機体の下部に設置された、ガトリング砲が火を噴く。
もう1機も近くを飛び回りながら、集中砲火を浴びせる。金属の弾丸が、アルファに向けて殺到する。
自由落下するアルファは、悠々と着水し泳ぎ始める。一部の機雷に体が触れて、爆発が起こる。
「よしっ!」
ルーカスがガッツポーズを取る。赤いしぶきが上がった。明らかにダメージは与えられただろう。
2個3個と、次々と爆発が起きていく。ルーカスは喜んでいるが、彰人は何かを考えている。
「……少し、変じゃないかな?」
「え? 変って、何がだ?」
「僕には、機雷がどういうものか、調べているみたいに見えるんだ……」
そんな馬鹿なと、ルーカスはアルファを見る。よく見てみると、全てが爆発してはいない。
まるで爆発しない接触の仕方を、調べているみたいに。しかし2機のヘリは、気がついていない。
アルファは反撃できずに、攻めあぐねていると思っている。遠距離からの攻撃手段を持たないと。
ルーカスと彰人は、嫌な予感を覚えている。もしもアルファが、反撃の方法を考えているとすれば。
「不味い少佐! 距離を取るんだ!」
『なんだルーカス? よく聞こえないぞ!』
ガトリングとヘリのローター音で、操縦席に置いた無線が聞こえていない。地上とは、通信手段がこれだけだ。
保安部の標準装備である、カーキ色の小型無線機から、ルーカスと彰人の声がしている。
だがその警告は、ヘリに乗っていた者達には届かない。次の瞬間、事態は激変する。
バートのヘリに向けて、アルファが尾で機雷を弾いた。偶然回避したバートだが、すぐ後ろを通過した、2機目の横腹に直撃した。
機雷が爆発し、ヘリの後部が爆炎で吹き飛ぶ。爆発に巻き込まれた隊員達の肉片が、海へと落ちて行く。
「ああ……なんて事だ……」
「下がるんだ少佐! 狙われているぞ!」
炎に包まれている半壊したヘリが、フラフラと飛行している。アクアノートに向かって、落下していく。
南側へ墜落し、爆発炎上した。まだ撃っていなかった、ミサイルランチャーの弾も誘爆したのだろう。
アルファはお構いなしに、残っている機雷を何度も弾き飛ばす。バートは回避しているが、かなりギリギリだ。
その恵まれた筋力で放たれる打球は、プロ野球選手を遥かに上回る速度だ。もはや高射砲と化している。
あちこちに機雷が落下し、爆発が起こっている。まるで爆撃を受けているかのようだ。
「やばいこっちに飛んで来る!」
「うわああああ!?」
ルーカスと彰人が、慌てて地面へダイブする。飛来した機雷が、2人の近くへ落下する。
必死で頭を防御する2人だったが、機雷は爆発しなかった。どうやら尾の衝撃で、どこか壊れたのだろう。
お手製であったのが、幸いしたと思われる。2人して爆死する事態は避けられた。だが戦闘は、まだ続いている。
バートのヘリが、ギリギリで機雷を回避した。その直後――すぐ近くにあった、給餌用のクレーンの先端に直撃。
間近で爆発が起こり、バートのヘリがふらつく。機体へのダメージも受けて、上手く制御出来ていない。
「おのれっ! 魚の分際でぇ!」
バートは毒づいているが、機体の制御は取り戻せていない。最後の機雷だったので、もう飛んで来る事はない。
だが、アルファにとって、最大のチャンスである事に違いはない。大きな影が、ヘリの正面から向かって来る。
「……クソったれが」
バートが呟き、隊員達は悲鳴を上げる。正面から飛び上がって来た、アルファの大きな顎が向かって来る。
真っ向から衝突し、ヘリは巨大な化け物に破壊された。バラバラになった破片が、海上に落ちて行く。
「少佐……」
ルーカスの虚しい呟きが、巨体の着水音にかき消された。もう攻撃する手段は、まともに残っていない。
次が最終話です。




