第12話 見えない目的
アドルフの案内で、アクアノートを見て回っているルーカス達。連れて行かれるのは全て南側だ。
北側の研究には一切触れず、広大な敷地を移動している。だが流石に違和感を覚えたルーカス。
関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアが、毎回同じ方角にあるのだ。疑問に思うのも当然だろう。
「なあ、あっちは何があるんだ?」
ルーカスが厳重にロックされているドアを指差す。アドルフは笑顔のまま、無難な回答を返す。
「そちらでは特別な研究をしておりまして。後ほど改めて、所長から説明させて頂きます」
相当広い範囲を使って、何の研究をしているのだろうか。ルーカスはどうにも胡散臭さを感じている。
学者じゃない人間まで呼び寄せて、何をさせるつもりなのか。アドルフに尋ねても、後で説明するの一点張りだ。
確かに見せて貰っている研究は、どれも自然の為になるだろう。海洋生物だけでなく、人間にも影響する内容もある。
それらは全部素晴らしい事だろうと彼も思った。しかしじゃあ、自分を連れて来た理由は何か。
彰人のような学者達なら、まだ招待する意味も理解出来る。だがルーカスはライフセーバーで、元軍人なのだ。
こんな場所に呼ばれる必要性が、現状まるで感じられない。ドローン兵器の知識が、今見ている内容と何の関係があるのか。
招待を受けた当初は、前金の額に思わず乗ってしまった。だが案内をされる内に、どうも違和感だけが増していく。
海上に出て、ドローンで調査や観察をする素振りすら見せない。彰人達は感心しているが、ルーカスだけは違う。
彼だけは他のメンバーと、明らかに連れて来られた理由が違う。こうなって来ると、アドルフの笑顔が胡散臭く見える。
致命的な何かを、意図的に隠されているように思える。まだ見せられない何かが、この施設にあるのではないか。
「さあ皆さん、次へ行きましょう」
アドルフは相変わらず微笑みながら、招待客を案内している。各研究について、分かり易く説明もしている。
そこだけを見れば、何もおかしくはない。案内役として、真っ当な仕事をしていると言っても良い。
だが拭えない違和感。まるで見えて来ない目的。そう言えば所長とやらは誰か、ルーカスは知らない。
アドルフからは隠れて、スマートフォンで公式ホームページを確認する。そこで知った驚きの事実。
ルーカスが良く知っているその顔と、表示されている名前。彼の中で、違和感が更に増して行く。
(バート少佐だと? 何故彼が、こんな施設で?)
アクアノートの所長は、海軍時代にルーカスの上官だった男性だ。同じ空母で勤務していた、良く知る人物。
バート・ギブソン元少佐。軍事力の強化に賛成していた人物で、昔から原子力潜水艦の増産を訴えていた。
こんな施設で所長をやるような人物とは、ルーカスにはとても思えない。平和とは力で勝ち取るものだと、常日頃から言っていた。
海洋生物の研究をして、社会貢献をしようなんて考えない筈。あまりにも施設と思想が、乖離してしまっている。
ここで密かに新型の潜水艦でも作っていると言われた方が、まだルーカスも納得が行く人物だ。
ドローン兵器に詳しいからと、呼ばれた理由だけは良く分かった。当然だろう、トップが元上官なのだから。
いよいよ怪しくなって来た雲行きと、案内を続けるアドルフ。彼の笑顔の裏に、何が隠れているのか。
スマートフォンに表示された所長としての挨拶分が、あまりにも胡散臭過ぎて苦笑すら出て来ない。
より良い大平洋の為だとか、自然を守っていかなければならないだとか。どれもバートには似合わない言葉だ。
より多くの敵艦を沈めろだとか、麻薬密売組織の密輸船を叩き潰せとか。そんなセリフの方が似合っている。
「そろそろ良い時間ですね。ディナーの用意をしております。着いて来て下さい」
時刻は夕日が水平線へと向かう頃。もうすぐ世界は夜の闇に包まれる。この先どうなるのか、ルーカスは怪しんでいる。
アドルフが言うには、明日の朝に所長がやって来るという。今日はアクアノートの施設内で、ゆっくり過ごして欲しいとの事。
少しずつ生まれ始めた、ルーカスの嫌な予感。ここで帰った方がいいのではないか。何か厄介な事に、巻き込まれるのではないか。
そう思う反面、バートが何をしているのか気になっている。あれだけ熱心に軍備増強を訴えていた上官の現在。
何を思ってアクアノートに居るのか。この施設内で何をやっているのか。知らずに帰る方が、余計気になるかもしれない。
「ブラウンさん? どうしました?」
「あ、ああ。いや、何でもない」
硬い表情をしているルーカスを見て、彰人が声を掛けた。そんな深刻そうな表情をするほど、体調でも悪いのかと思って。
思わず考え込んでしまっていたルーカスは、ディナーへ向かうアドルフ達を追いかける。まだ誰かに、この話をする気にはなれない。
少なくとも強めの酒でも飲みながらでないと、口にする気にはなれない。彰人達は、アクアノートの研究に感動している。
余計な水を差す気にはなれず、気づいた事実を黙っておく。今夜は眠れるだろうかと、不安を感じながらルーカスは彰人と共に通路を歩いた。




