表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星間覇道  ――没落貴族と女海賊、銀河帝位争乱――   作者: 黒鯛の刺身♪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/63

第五十七話……最終防衛線

 聖帝国暦六四五年四月下旬――。

 帝国総軍司令部。


 その中枢に位置する作戦会議室にて、クライツ上級元帥は幕僚たちを招集し、戦局を左右する協議を開始した。


 議長席には宰相ローゼンタールが着座し、文武の頂点として場を制している。

 だが実質的に議事を主導するのは、作戦部長たるクライツであった。


「反乱軍の戦線は、既に過度に伸長している」


 低く、しかし明確な声が室内に響く。


「――今こそ、反撃の時である」


「「おおッ!!」」


 どよめきとともに、幕僚たちの士気が一気に昂る。

 だがクライツは、その熱気を手で制した。


「……しかし、だ」


 空気が一転して引き締まる。


「勢いに乗る反乱軍を、正面から受け止める部隊が必要だ。――志願する者は、挙手せよ」


「…………」


 沈黙。

 当然であった。


 反乱軍は戦闘艦艇だけでも三千隻以上。補助艦艇や徴用船舶を含めれば、総数二万隻を超える膨大な軍勢である。

 これを正面から受ける任は、事実上の“死地”に等しい。


「……まあ、出るまいな」


 クライツは淡々と結論づけた。


「正面部隊はこちらで手配する。諸君は反乱軍の後背を遮断し、側面より圧迫せよ」


「「はっ」」


 命令は即座に受理される。

 既に方針は固まっていたのだ。


「――では、宰相閣下。私はこれにて」


「うむ。あとは任せよ」


 短い応答を交わし、クライツは席を立った。

 向かった先は、司令部深部に設けられた超光速通信室。


 帝国の命運に関わる連絡は、ここから発せられる。

 やがて、暗転していたモニターに像が結ばれる。



「――ご機嫌いかがですかな、ご老公」


「……ほう。軍人の仮面を被った政治家殿ではないか」


 映し出されたのは、痩躯の老人。

 年齢は優に百を越えていようが、その眼光には未だ衰えがなかった。


 キスリング上級大将。

 皇帝直轄の近衛艦隊および近衛地上軍を統括する、帝国随一の武門の長である。


「ご用件は何かな、作戦部長殿」


「単刀直入に申し上げる。反乱軍との戦いに、ご助力願いたい」


「これは異なことを」


 老人は鼻で笑った。


「我が近衛は、先代皇帝陛下より皇室墓所の守護を命じられておる。軽々しく持ち場を離れるわけには参らぬ」


 嘲るような笑みが、画面越しに浮かぶ。

 しかしクライツは、わずかに肩をすくめただけだった。


「――こちらに、現皇帝陛下の勅命がございます」


 提示された文書に、老人の視線が鋭く走る。


「……ふん。偽皇帝の命など、誰が従うものか」


 即答であった。

 だがクライツは一歩も引かない。


「――反乱軍は既に第一総管区に迫っております」


 声色は静かだが、言葉は鋭い。


「この状況においてなお動かぬ武人が、いかなる評価を受けるか――ご理解いただけるかと」


「……くっ、小癪な」


 老人は歯噛みした。

 それが正論であることを、理解していたからだ。


 やがて、長い沈黙の後。


「……よかろう」


 吐き捨てるように言った。


「ただし、これは帝国のためだ。貴様のためではない」


「承知しております」


 クライツはわずかに頭を下げた。

 通信が切断される。


 その直後――。


 近衛艦隊。戦闘艦艇千隻以上。

 帝国最精鋭の軍勢が、次々とワープ航法に入り、前線宙域へと転移を開始したのであった。




◇◇◇◇◇


 アーヴィング大公国軍の先鋒は、ついに皇帝直轄領――第一総管区へと到達した。


 長年、この宙域に敵影など現れることはなかった。

 ゆえに最終防衛線として彼らの前に現れたのは――たった一つ。


 小型の武装準惑星、ウイスパー。

 だがこの宙域は、単純な戦場ではない。


 周囲には激しい宇宙嵐が断続的に発生し、航行可能な空間は細く歪んだ回廊のように限定されている。

 さらにその外縁には、重力と放射を撒き散らす恒星ナイトメアが横たわり、進路の自由を一層奪っていた。


――逃げ場はない。すなわち、突進するしかない。


「……なんだ、これが最終防衛線か?」


 嘲る声が艦橋に響く。


「武装準惑星と聞いていたが……旧式の金属塊ではないか。


 ――一気に踏み潰せ!」


「了解!」


 先鋒を務めるのは、若き地方貴族の子息たち。

 功名心に燃え、「皇帝直轄領一番乗り」を競う血気盛んな連中である。


 彼らは私兵の小艦艇を率い、隊形も半ば無視して突進を開始した。

 その背後には、海賊、傭兵崩れ、流れ者の武装船団が雪崩のように続く。


 統制なき大軍。

 だが――勢いだけは本物だった。


 迎撃に出た準惑星側の警備艦艇は、わずか四十隻。

 数に圧倒され、散開しつつ準惑星内部へと後退する。


「ははっ、逃げたぞ!」


 歓声が上がる。


 先鋒艦隊の中心に位置するのは、ネルリンガー伯爵。

 名目上の大将格ではあるが、この軍に統一された指揮系統など存在しない。

 それでも、今この瞬間においては――その混沌こそが推進力であった。


「揚陸を開始せよ! 一番乗りは我らが貰う!」


 命令と同時に、前衛艦艇から次々と揚陸舟艇が射出される。

 無数の小艇が、獲物に群がる虫のように準惑星へと殺到した。


 ――その時。

 準惑星ウイスパーの表層が、各所でゆっくりと開いた。

 装甲板が滑るように展開し、その内側から――

 対艦ビーム砲台、百門以上。


「――撃て」


 閃光。

 次の瞬間、宙域は白熱した光に埋め尽くされた。


 直撃を受けた揚陸舟艇は、一瞬で蒸発し、あるいは炎の塊と化して四散する。

 隊列は崩れ、爆発の連鎖が広がった。


「怯むな! 援護射撃を加えよ!」


 ネルリンガー伯爵の怒号が飛ぶ。

 即座に応じて、千隻を超える艦艇群が一斉に火力を解き放った。

 ビーム、実体弾、ミサイル――あらゆる攻撃が、準惑星へと降り注ぐ。


 装甲惑星ウイスパーのニッケル合金の装甲が剥がれ、砲台が次々と沈黙する。

 外殻は裂け、内部構造が露出していく。


「押し切れるぞ!」


 誰かが叫んだ。

 それは錯覚ではなかった。


 防衛火力は確実に減衰している。

 そして再び、揚陸舟艇が突撃を再開する。


 炎と残骸の間隙を縫い、準惑星へと取りつこうとした――その瞬間。


「……っ!?」


 ネルリンガー伯爵の旗艦「トランプ」。

 その艦橋の視界が、突如として“白”に塗り潰された。


 光ではない。

 ――爆炎。


 それも、常識外れの規模の。

 次の瞬間、全センサーが悲鳴を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
油断大敵( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ