表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

夏のような冬と秋のような春

 (あたた)かい冬至(とうじ)を終え、大みそかになっても、トワは目覚めなかった。

 例年どおりでは、あるのだが……。


 どうやら「今年度の冬至の前に起きる可能性もゼロではない」というアルミラの言葉は(はず)れたようだ。が、彼女の別の予想のほうは的中(てきちゅう)した。


 冬に海開(うみびら)きが始まったのだ。

 まるで北半球と南半球が入れ替わったかのような状況である。反対に、南半球に位置する国々は……現在、寒い季節を()ごしているらしい。


 おまけに一月(いちがつ)に入り、台風がいくつか発生し、日本にも上陸した。

 セミが鳴きだし、()()()い、(あせ)が流れ、もう完全に七月の空気である。




 ……と思っていたら、すぐに二月。より暑くなり、台風も増えた。


玉山(たまやま)せんぱい、ちょっと面白(おもしろ)いものを見に()きませんかっ」


「今さら『ちょっと』や『そっと』のことでは(おどろ)いたりしねーけど」


「目的地はお楽しみです。わたしについてきてください!」


 篝屋(かがりや)にさそわれるまま、俺は自転車で少し遠出(とおで)した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。前方を走る篝屋の自転車もそうだが、ペダルをこぐたびに車輪内部の放射状のスポークが回転し、光の模様をくるくると変化(へんか)させる。

 道のところどころに設置された屋根の(した)を通り抜けていく。おかげで、()暗闇(くらやみ)に飲まれることはない。


 また、自転車には新型(しんがた)のライトが付いている。

 従来(じゅうらい)のライトをそのまま使っても闇を飛ばすことしかできない。

 対して最近外国で開発された、凹面鏡(おうめんきょう)集光(しゅうこう)を利用したライトであれば、横に光を(はな)てる。これを取り付けることが、夜間(やかん)もとい昼間(ちゅうかん)走行(そうこう)における努力義務となっている。


(今年に入って、政府が未成年者(とう)に無償配布した)


「着きました、せんぱい。ヒマワリ(ばたけ)です」


 近くの駐輪場(ちゅうりんじょう)に自転車をとめる。カゴにヘルメットを()れ、俺は、そのヒマワリ畑の広がる、くぼ地の近くに歩いていった。

 広さは、(いち)ヘクタールほど。見渡すと、黄色いヒマワリが大量に()いていた。


 果たして俺は驚いてしまった……。

 もちろん、ヒマワリが満開なことには「まあ四季が入れ替わったんだから、こうなるわ」としか思わない。


 驚いたのは、花の向きだ。


「全部……真上(まうえ)を向いている……!」


 どのヒマワリの大輪(たいりん)(くき)に対してほぼ直角に(まじ)わっている。それぞれの花が、真下(ました)に光を発生させる。より背の低いひまわりは、より背の高いヒマワリのほうに、少しかたむく……。


「……太陽が(しず)んだあとは周囲のすべてが明るくなるから、光の空間の多い真上に花を向けているってわけか。なんか大きいタンポポにも()えるな」


「面白がっていただけましたか」


 背後から、セーラー服の……()()()()()()()()が伸びてくる……。

 篝屋(かがりや)の光と重なって少し輪郭(りんかく)を失った、()()()()を目に入れて俺は答える。


「確かに、ちょっと心臓(しんぞう)が、はねた。……ホラーだぜ」




 三月からは、秋の季候。

 当然、桜は咲かない。花粉症も、はやっていない。




 四月から、だんだん(すず)しくなってくる。


(アルミラが世界の明暗を入れ替えてから、一年が経過したのか)


 エイプリルフールの前半では……「きょうも世界は戻りません」というフレーズがネットにおいて広がった。

 午前零時(れいじ)以降は、「今の状況は全部ウソだったんじゃないか」と書き込む人が相次(あいつ)いだ。


 途中、「一日も早く世界が戻ってほしい」という主張と「世界はこのままのほうがいい」という主張とがぶつかり、さまざまな分野の有名人を巻き込んだ一大論争に発展した。

 議論は平行線に終わった。

 どちらが(ただ)しいか……そんな答えは得られなかった。




 五月も、やはり例年の十一月としか思えない気温。

 去年の秋にとれなかった野菜や果物、農作物は、この「春」に無事、収穫と相成(あいな)った。


 季節が六か月ずれただけ。みんなは今の生活に適応してきた……。

 いっそのこと、カレンダーを半年(はんとし)くり()げてはどうかという案も出てきた。

 が、現状、その案に関しては反対意見のほうが多い。


「今の世界に順応(じゅんのう)しすぎてしまったら、もう戻れなくなるかもしれません。また……みんな、『ひょっとしたら、あしたにでもすべてが(もと)どおりになるんじゃないか』と期待しています。こよみの調整をおこなわないのは、人類にできる、世界に対する最後の抵抗(ていこう)だと思います」


 篝屋(かがりや)テルハは、そう分析(ぶんせき)した。


昼夜(ちゅうや)呼称(こしょう)を入れ替えるという案が立ち()えになったのも、同じ理由ではないかと」


 そういえば、去年の八月あたりに、そんな話もあったか……。

 まだみんなは、秋の季候であるにもかかわらず三月から五月を春と呼ぶ。暗い昼と明るい夜に、あまんじている。


 ただし、明るい夜を夜と呼び続けるのは、いまだに星が夜空にひっかかっているからだと思う。


 光が闇に変わっても、黒が透明に(うば)われても……。

 ずっと星空がきれいであり続けたため、(たい)する(ひとみ)(まど)ってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ