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水戸の若様にも穢多や非人に対する差別解消を手伝ってもらえそうだ

 さて、菱川師宣に頼んだ本ができあがってきた。


「おお、相変わらずわかりやすくていいな」


「そうするのが俺たちの仕事だからな」


 これで穢多や非人の穢れは近づいたり、触れれば伝染するという類のものではないことはおそらく読んだ者には伝わるだろう。


「後は水戸の若様にも協力してもらうか」


 俺が個人的にやっても効果はあまり期待できないが水戸の若様などがやれば話はまた別だ。


 水戸の若様は、史実において生類憐れみの令が発布され基本的に肉食が忌避された後も、牛肉、豚肉、羊肉などを普通に食べていたくらいだし、肉や革製品を作る穢多が差別されるのもあんまり良くは思ってないんじゃないかな。


 実際に武士・町民・坊主神官・穢多非人と江戸において住まわせる場所を分けたのは幕府ではあるが、穢多非人の差別を助長したのは、生臭坊主や神官達だったりするしな。


 戦国時代までは色々な副業で金を儲けていた寺社だが、結局はそれを嫌った武家によって副業の権利を奪われ今では祭りや葬儀以外は出来ないから、以前は寺社が持っていた権利を引き継いだ穢多非人を憎んでいるのかもしれない。


 そもそもちょっと前まで武士は戦場で命の奪い合いをしていたし、今でも厳しい門限や移動制限があるように、すぐさま合戦に対応できるようにしているのだからな。


 そして、猪や鹿などの害獣や水鳥、はては虫すらも殺してはいけないなどという風に駄目な方向にエスカレートしていった生類憐れみの令も今のところはそういった事は起きていない。


 野良犬や猫を斬り殺して食うのが良くないのは、野良犬は大便なども食うし、猫はネズミを食うということでの衛生的な問題のほうが大きい。


 というわけで俺は水戸の若様が来た時に本の話をすることにした。


「ふむ、穢多非人を差別する原因の”穢れ”はそう簡単には移らぬと申すか」


「はい、そもそもそうであれば穢多や非人はどんどん斃れて減っていくことでしょう。

 しかし実際は増えているのが実状でございます。

 ですので此の本を幕府を通して無料で配布していただきたいのでございます」


「そういわれればたしかにのう。

 穢多の数が大きく減っているとはきかぬな」


「肉を食べれば穢れることで死ぬと言うのであれば、俺とかはとっくに死んでいますよ」


「うむ、楼主の言うとおりで私もそうであるな。

 そしてそなたの言うことももっともであるゆえ、上様などに予め話しておくことにしようぞ」


「ありがとうございます。

 田畑の農作物を荒らす鹿や猪を狩ったのであればむしろその肉は積極的に食べたほうが良いのです。


「ふむ、それで良いのではないか。

 坊主などは騒ぐかもしれぬがな」


「そもそも彼等は酒を禁じられ女犯も禁じられているのに、そうしたところで仏罰がくだったりはしないではありませんか」


「たしかにそうであるな」


 というわけで”穢れ”に関しての認識を改められるかどうかはまだわからんが、こうすることに多少は意味はあるとも思うんだ。


 そもそもちょっと前までは普通に犬や猫を斬り殺して鍋にして食っていたのに、穢多だけは穢れがどうこう言っているのも、おかしな話だよな。

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