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出島から豚を買い入れて養豚を始めてみるか

 さて、遊女や猿樂師などが中心の勧進興行は成功し、俺は運上金や災害復興の寄進の金銭や米などを幕府に納めて、これに関してはやり終えた。


「まあ、これで俺たちの心象も良くなっただろう」


 歌劇芝居の興行で大名旗本がそれを娯楽として楽しむことを、町人も見ることで、芸事に対しての認識も、一方的に救済を頼む乞食の一種というものから変わったと思う。


「さて、そろそろ食材に本格的に豚を使いたいとこだな」


 弾左衛門が持っていた権限のうち”斃れた牛馬、害獣退治で殺された鹿や猪、鷹狩りなどの獲物の肉や骨”は俺が得て、万国食堂や三河屋などの遊郭の座敷で出すことが改めて許可されている。


 野犬や野良猫を斬り殺して食べるという行為は相変わらず禁じられたままだが、これは伝染病の蔓延を防ぐためにも必要なことだ。


 無論、野犬や野良猫の死骸も皮は三味線などに用いられるが、その肉や骨はこちらには回さないようにして燃やしてもらっている。


「となるとやっぱ養豚はしたいな」


 日本では食べるためだけに飼われる家畜というのは長い間おらず、牛馬は農耕や運搬、鶏は鳴き声の利用や鶏卵の薬用、犬は番犬、猫はネズミ退治などに用いられるもので食べるためでなかった。


 新石器時代から縄文時代には、冬の食料として鹿や猪は大事な食料源で弥生時代や古墳時代には豚も大陸から持ち込まれて食べられていた。


 日本書紀や古事記・万葉集にも猪飼、猪甘、猪養などという言葉があり、当時は日本でも豚の飼育が行われていたが、675年に最初の肉食禁止令が出され、天武天皇5年4月1日から9月30日までの間、稚魚の保護と五畜(ウシ、ウマ、ニホンザル、ニワトリ、イヌ)の肉を食べてはいけないとされ、肉食は汚れという仏教の教えの浸透によって、上流階級が肉を食べなくなると、養豚も衰退して見られなくなった。


 日本の場合は平地が少なく、そこは優先して農地にされるので、単純に牧畜が発達しなかったというのもあるだろうし、日本は海に周りを囲まれていて川も多いので、魚や鴨などの渡り鳥の狩猟でも十分タンパク質は補えたというのもあるだろうか。


 信濃とか甲斐のような内陸部であれば、もっと畜産が普及しても良さそうな気もするが、豚は食べ物を探すために土をひっくり返すから、ヤギ以上に山が荒れて禿山になる可能性があり、そうなるくらいならば猪や鹿を狩ったほうがいいというのと、獣を解体するという役目を負う人間が日本ではかなり限定されてるというのもあるのだろう。


 また豚は足が遅く遊牧民には飼育されなかったのだが、武士はいざというときには馬をさばいて食べることもあったというのも原因かもしれない。


「まあそろそろそういった意識を替えていってもいいだろう」


 しかし戦国時代には、食肉文化は九州で復活し、江戸時代にも中国人によって、長崎に豚が輸入されたりしている。


 琉球と縁が深い、薩摩でも豚が飼育されていたようだ。


 そして大島に住むオランダ人は、肉や野菜、果実など日本では手に入りにくい食材で、日本でも飼育や栽培できるものは、自給自足していて、ヨーロッパからインドを経由してバタビアに運んでそこからさらに日本へ運んできた牛や豚・羊などを島で飼育しており、牛飼人の小屋など、動物の世話をする専用の人間もいる。


 大型ガレオン船の中にも、飼育室があるくらいだしな。


 ちなみに長崎で一番食べられていたのは牛らしく出土するもので一番多いのは牛の骨らしい。


 出島で牛は牛小屋で飼育され、毎年6,7月頃に入港するオランダ船が持ってきた食料を優先して食べ晩秋から初冬頃には飼育している家畜を解体して調理し食べられたようだ。


 出島で出土する牛の産地はインドのセブ牛や欧州の牛が多い。


「あれ、これって天然痘対策できるんじゃね?」


 また、水牛も運ばれて食べられていたし、牛乳からはバターやチーズも作られていた。


 豚や鶏、家鴨の肉の他に西洋人参やレタス、キャベツ、セロリなどの野菜も栽培されていてそれらはシチューやサラダにされていたのだ。


「それにとんかつも水戸の若様に食わせたいしな」


 珍しいものが好きな若様はとんかつを食べたらきっと気にいるだろう。


 俺は親分に頼んで、浅草のハズレで人が少ない場所に豚小屋を作ってもらったあとで、出島に豚を買いに行くことにした。


「ちょっと出島まで行ってくるぜ」


 俺はそう言って妙と清花に見送られる。


「はい、行ってらっしゃいな、貴方様」


「いってらっしゃー」


 船で出島に到着したらさっそく豚を売ってくれるように頼む。


「ああ、養豚用の豚がほしいんだが番で売ってくれるか?」


「ああ、構わないが日本人にしちゃ珍しいな」


「まあ、そうかもな。

 でも豚は食料として有益な家畜だと思うぜ」


「わかった、何匹くらい売ればいい?」


「オスメス合わせて20頭ほしいな」


「わかった。

 じゃあ、ちょっとまってな」


 というわけで無事豚は入手できて、豚小屋で飼育中。


「食べるのは少し増えてからか、当分豚肉は特別料理だな」


 20頭を食べるためにとどんどん解体してしまったらすぐにいなくなっちまうからな。

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