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そろそろ養生院での労咳(結核)対策にも乗り出さないとだめかね

 さて、寒くなるとどうしても体温が下がりやすくなり、それにより免疫も落ちて更に空気が乾燥することで、風邪などが多くなる。


 そんな中で俺は養生院に来て話をしている。


「最近はどうだい?」


「やはり熱や咳などでやってくる者が増えてますな」


「寒くなってしかも乾燥もしてきたからな」


「そうですな、最近は特に埃もひどいもんです」


「患者の中には労咳のやつもいそうか?」


「ええ、そうですね」


 この時代はただの風邪でも場合によっては気管支炎から肺炎になって命にかかわることもあるから馬鹿にできない。


 そして梅毒や脚気と同じくらい恐れられていたのは労咳(ろうがい)、すなわち結核だ。


 結核菌は1882年にロベルト・コッホによって発見されたが、それでもその危険性が低下したのは抗生物質が比較的入手が容易になった戦後で、日本では明治初期まで労咳と呼ばれていた。


 現在でも世界全体で見れば死亡者の多い病気で、日本などの先進国でも罹患そのものは珍しくないし昭和25年(1950年)まで日本では死因第一位を独占し続けた恐ろしい病気なのだ。


 21世紀でも結核に羅患する人数は世界全体では年900万人ほどで、死亡する人数は年間150万人ほどいる、マラリア患者は2億1200万人ほどだが、死亡者は43万人程なので、結核による死者というのはかなり多い。


 日本は結核の多さでは世界的にみると比較的多く年間約23,000人ほど、もっとも死者は多くないが。


 結核は結核菌の感染によって起こるが、咳やくしゃみなどをすると、つばと共に撒き散らされ、それは暫く空気中に漂っているので特に室内にこもりがちな寒い季節で換気の悪い狭い場所は、結核菌を含む飛沫の吸入による空気感染をしやすい。


 しかも、21世紀では「超多剤耐性結核菌」も出現して世界の罹患者は年間44万人、そのうち死者は15万人ほど出ているから抗生物質を乱用しすぎるのも危険だ。


 結核菌の感染者の大半は症状を発症する場合は少なく、感染しても症状は出ないことが多いが、約10分の1が最終的に症状を発症し、そこから治療を行わない場合、発病者の約半分が死亡するから案外怖いのだ。


 結核菌が感染力のかなり高い細菌の一つである原因は、空気感染で広まるからでアメリカやオーストラリアなどでは結核はあまり流行しない。


 そして結核菌は、細菌を殺す人間の主要な免疫細胞であるマクロファージの中で繁殖できるという、極めて特殊な能力を持っていることもある。


 もっともこれはT細胞の助けを借りてマクロファージごと結核菌細菌を殺してしまうので大抵は無症状か軽い症状で済むのだが。


 T細胞はがん細胞などを攻撃する免疫の主力部隊で結核菌に侵食されたマクロファージを異物とみなして攻撃するわけだ。


 そういうわけで結核菌を宿主細胞ごと排除しようとするため、主に肺組織が大きく破壊され、激しい肺出血とそれによる喀血、またそれによって起こる窒息死が起きる。


 これは新選組の沖田総司などが有名だな。


 以前に徳川紀州藩の徳川頼宣とその子である徳川光貞が三河屋に来た時俺は労咳ではないかと一応対策した献立を出したが、献立の内容そのものよりも”これで治る”という思い込みのほうが勝ったのとそこまで病状が深刻でなかったからの可能性も高い。


 結核やペストに効果がある抗生物質はストレプトマイシンなどだがこれは土壌中の放線菌から抗生物質として発見されているので顕微鏡もない状態では見つけることは不可能。


 明治から昭和30年頃まで、結核は日本中の結核療養所(サナトリウム)の大気安静療法がほぼ唯一の療法で要するに患者を隔離してストレスの少ない環境で安静にし栄養も十分にするというものだったが、冬でも新鮮な外気を入れるため、窓は開けっぱなしで、それが原因でかえって症状が悪化することもあった。


「まあ、結核患者には口あて布をつけさせて咳やくしゃみでうつるのを防がせるのが一番かな」


「なるほどそういうものですか」


 まあゴム紐のマスクはまだ作れないので四角い布を2つに折り曲げての匂いよけと同じようなことを可能な限りやってもらうしか無いが。


 可能な限り個室に患者を入れさせて、マスクというか口あて布は患者だけでなく、診察をする医者もさせておいたほうがいいだろう。


「一日使った口あて布は沸騰させたお湯に十分つけて消毒するようにしてくれな」


「わかりました」


 そして結核菌の消毒にはアルコールも有効なので適度な間隔でのアルコール消毒を行うほうがいいだろうな。


「後は、たまに壁なんかを蒸留酒を浸した布で拭いたり、なるべく部屋の換気を十分にしつつ、部屋が寒くならないようにもして、食事時は納豆やうなぎ・にんにくなんかの蒸し焼きや雑穀入りの卵雑炊などを食わせ、ヨモギやオオバコ・クマザサの煎じたものを飲ませ、熱が高いときはミミズの干したのを煎じて飲ませて熱を下げるほうがいいと思うぜ」


「ではなるべくそうしましょう」


 まあ、まずは結構重い結核患者を隔離してそこからの感染を広めないほうが重要なんだよな。


 後は可能な限り免疫を高められそうな食事をさせて、水分と睡眠を十分取らせるくらいしか出来ないのが現状だが、早期の感染患者ならこれでもなんとかなるんじゃないかな。


 まあそれ以上のことは現状では出来ないというのが現実なんだが。

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