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タジン鍋を作って万国食堂でタジン料理を出してみよう

 さて、爪切り等のハンドケアで美人楼のテコ入れをしたし、今度は万国食堂もテコ入れしようかと思う。


「今度は何を作るかな……」


 そういえば21世紀では、一時タジン鍋が流行っていたっけ。


 タジンは北アフリカ地域の鍋料理で、タジン鍋はその料理の際に使われる陶製の独特な形状をした蓋を持つ土鍋のこと。


 背の高い三角コーンのような形の蓋が特徴の独特な鍋を使い、羊肉か鶏肉と、香辛料をかけた野菜を煮込んだシチューのようなもので、モロッコやアルジェリアなどで食される。


 このタジン鍋の優れた所は料理の際に水がいらない所で、鍋の蓋の上は細く、底の部分は太くなっていて、円錐形の蓋の上部の狭い空間は対流が起こりにくく、温度が低いため食材に含まれる水分が加熱され水蒸気となっても、冷たい蓋の上部で冷やされて結露し、水滴となって下へ戻るようになっているのだがこれは蒸留器と同じような原理だ。


 これによって蓋と鍋の隙間に常に水が存在するウォーターシールが形成されて、鍋と蓋は密閉状態となり、料理の香りが飛ぶのを防いで風味と水分を逃さない、蒸し焼きに最適の条件が得られるのだな。


 ただ単に蒸し焼きと言うだけならダッチオーブンでもいいのだが、ダッチオーブンは室内で使いやすい訳ではなく、作るための材料もこの江戸時代ではタジンより手に入りにくいしな。


 なんせこの時代鉄の鍋や薬缶に穴が開いても、修理して使うのが当たり前なんだから。


 アフリカ北部のモロッコやアルジェリアでは、飲料水や油は非常に貴重だったため、食材の水分だけで調理できるタジンは作られたらしい。


 更に高さのあるフタは、下の鍋が浅くても、野菜を盛り上げて収めることができ、その野菜を蒸すことで野菜のかさがかなり減るので、特に葉野菜は多く食べられるようになる。


 また加熱時に使用する水分が少ないため、水溶性のビタミンやミネラルが煮出されての損失が少なく、熱の通りが良いので油の使用も控えられる。


 そのような理由で一時期タジン鍋ブームが起こっていた、もっともあっという間にブームは終わったけど。


 ただしタジン鍋は基本的には素焼きの土鍋なので、直火で調理していると割れることもある。


 たとえば土鍋で米をたくときなども注意しないといけないのだが、土鍋は強く加熱すると簡単に割れてしまうから注意が必要なのである。


 割れないようにするには、土鍋の底に水気がないことを確認してから使うこと、熱い土鍋を急に冷たい所に置いたり、水に浸けたりしないこと、最初に使うときに粥や雑炊を作ることで、米のデンプンで糊の膜を作ってひび割れを防いだり入った罅を埋めさせたりすることはできるのだが、毎回の使用前に30分ほど水に浸して水分を吸収させてから弱火で使うようにしたりすることも大事。


 鉄器などの金属製であれば、取り扱いに気を使う必要はないのだけどな。


 電子レンジ用にシリコン製のものも作られたが、もちろん江戸時代に電子レンジでの加熱を前提としたシリコン製のタジン鍋を作っても意味はない。


 どちらにしろタジン鍋では弱火でじっくり調理するのが基本で、火が強すぎると吹きこぼれたり、蒸気の圧力で蓋が外れたりもしかねないし、食材の水分だけで調理できると言っても実際は水分の加減がかなり重要で、少量の水を足したほうが良いことも多い。


 蓋の部分の結露の状態を直接目で見て火加減や水の量が調節できるように、蓋が耐熱ガラス製のものもあるんだが、それもこの時代に作るのはやはり難しいんだよな。


「さてまずは親方にまた紹介をたのむか」


 俺はタジン鍋の形を絵に書いて、権兵衛親方にそれを作れる職人を紹介してもらうように親方を呼んだ。


「今度は変な形の土鍋ですか?」


「ああ、こういうのを作れそうな職人を紹介してほしいんだ」


「いいですぜ、ちょっくら腕利きのやつに話をしてきます」


 権兵衛親分はそう言って出ていった、鈴蘭を身請けして少し落ち着いたのかな?


 そしてしばらくして職人を連れて帰ってきた。


「こいつなら間違いないと思うぜ」


「なるほど、こういう形の土鍋を作って欲しいんだができるかな?」


 陶器職人はうなずいた。


「へえ、やってみましょう」


 陶器職人にタジン鍋の図面を渡して暫く待ったら出来上がったものを持ってきてくれた。


「つくってみましたが、こんなもんでどうでしょう?」


「ふむふむ、とりあえず一回試しに料理してみるぜ」


「ええ、どうぞ」


 タジン鍋に玉ねぎとじゃがいもとトマトに空芯菜、それに白身魚の切り身を入れて、みじん切りにしたにんにくとすりおろした生姜汁を加えて、それを適度にふりかけて弱火でじっくり加熱してみた。


 15分ぐらい加熱して蓋を取れば十分加熱されてるっぽい。


「よし食べてみるか」


 じゃがいもはうまく芯まで火が通ってホクホクだし玉ねぎも甘い。


 熱を加えたトマトも甘くてうまいし、空芯菜は結構シャキシャキしてる。


 そして白身魚の切り身もうまく火が通ってる。


「よしこれをまずは10個買うとする。

 こいつはいくらぐらいだ」


「そうですなぁ、400文(およそ1万円)ってとこでしょうか」


「うーむ、まあそんなところか。

 10個なら一両でいいな」


「ええ、それで構いやせん」


 その後万国食堂でタジン鍋を使った、タジンを出してみたが結構評判は良かった。


 具材は魚でなくても猪や鹿、うずらの肉や貝類も使えるし、野菜の代わりに豆やキノコなんかを入れてもうまい。


 そして客の中から、


「あの鍋を売って欲しい」


 という声も出てきたのでちょこっとずつ注文を受けてタジン鍋も売るようにしたのさ。


 なんだかんだ江戸の町は上水道が整備されているから、飲料水に困ることはあんまりないとはいえ、井戸で柄杓を使って桶に水を汲んで、それを台所まで運ぶのは大変だからな。


 蛇口をひねれば飲んだり料理に使ったり、風呂水に使っても問題ない水やお湯がすぐにでるってのはありがたいことなんだとつくづく思うぜ。

この話を現代風に置き換えたような話になる予定の”派遣社員の人生やり直しで大倭おおやまとの破滅的未来は変えられるか?”も宜しければ読んでみてくださいね。

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