第六話
俺の家は、小屋のようなものだ。初めての家造りだったが、なかなかのできだと思っている。一人暮らしをするぐらいならば、これぐらいで十分だろう。
魔界や人間界にある城に居た頃は、もっと広いところに住んでいたが、こういう風情があり、自然に囲まれ、狭い室内というのもいい。窓からは青い海が見え、玄関から外に出れば太陽が俺を出迎えてくれる。
障害物が少ないことから、風が心地よい。だが、海が近いということもあって、潮風がモロに来る。どうやら、潮風の影響で建造物の外壁などが急激に劣化するらしい。そのため、魔法による障壁を張っている家もあり、それがない家は付着した塩を落とすのが大変だと教えてもらった。
だとするなら、俺もそれなりの対策を練らなければならないということで、俺も魔法による障壁を家の壁に張ってある。これで、潮風の影響はないだろう。ついでに、障壁がない家にも俺が障壁を張っている。世話になるところだ。それぐらいは、やらなければな。
「さて、今日は休みだが……どうするか」
いつも通り、転移魔法で行った事のないところへと行くか。それとも、他のことをするか。家でゆっくりするというのもいいだろうが、体がうずうずしてそれは無理そうだな。
「先生!!」
どうしようかと考えていると、レイラが駆け寄ってくる。
「どうしたんだ? こんな朝早く」
「あ、あの」
両手を合わせ、恥ずかしそうに視線を下に落としている。そこで、俺はなるほどと頷く。
「今日も、お暇があれば」
「ああ、大丈夫だ。そんなに緊張するな。いつものだろ?」
「はい。やっぱり先生と一緒にやってから、先生とじゃないとだめになってしまって」
そういうことなら、断る理由はないな。やる気に満ちた生徒の願いを聞いてやるのは、教師としての役目だ。
「丁度、何をしようかと考えていたんだ。俺は、いつでもやれるが。レイラは?」
「は、はい。いつでもやれます!」
「よし。じゃあ、家に入ってくれ」
「お、お邪魔します」
まだ緊張気味のレイラを、俺は自宅へと入れる。内装は、ベッドに机、テーブルに椅子が数個。必要最低限のものが揃っている。
ドアを閉めて、レイラと向き合う。
「さあ、始めるぞ」
「はい」
午前はレイラの相手で潰れそうだな。
★
「ふう、いい汗を掻いたな」
「はい。私も、満足です。スッキリした気分です。また、相手をよろしくお願いします」
「ああ。また今度な」
レイラも満足してくれた。だが、彼女はやはり龍人というだけあって、かなり激しかった。普通の人間だったら、簡単に壊れていただろうな。
彼女が帰ったところで、昼食を食べるか。今日は、王都にでも行ってみるかな。王都は、都ということで高いイメージがあるが、探せば安いところもあるんだ。
「先生ー!!」
「アイナか」
転移魔法を発動しようとした瞬間だった。レイラの次にアイナが俺の家に近づいてきた。なにやら、大荷物を抱えて。
「おはようございますっす!!」
「今は昼だ。また徹夜か?」
「はい!! また徹夜っす!! いやぁ、魔法薬の実験に熱が入り過ぎてしまって!! ようやく一段落して眠って起きたら」
昼になっていたと。寝起きだというのが、わかるほど寝癖がひどい。俺は一度家に入り、櫛を取り出した。
「動くなよ」
「え? あ、はいです」
さすがに、これは女の子としてどうなんだと思った俺は櫛で寝癖を直していく。
「うーむ。やっぱり、一度濡らしたほうがいいか?」
直るところもあるが、直らない頑固な寝癖もある。
「そういうことなら、これの出番です!!」
取り出したのは、液体が入った瓶。アイナのことだから、魔法薬なんだろうが……話の流れから察するに寝癖を直すためのものなんだろう。
若干青みがある澄んだ液体。
……大丈夫なんだろうか、これ。
「いつも寝癖で大変な人達に必須!! 名づけて『寝癖直すぜ薬』!! これがあれば、一発で寝癖が直りまくりです!!」
「危ないものは入ってないだろうな?」
「もちのろんです!! ささ! これに櫛を浸してください」
言われるがままに、俺は櫛を薬品に浸す。アイナは、魔法薬開発をしているので有名だ。失敗もあるが、成功のほうが多い。
売れば有名になり、資金も稼げるのだろうが、アイナはまだまだ売るレベルじゃない! と実験を続けている。俺は、十分だと思っているのだが。
「すごいな。軽く撫でただけなのに、すっと寝癖が直った」
「私も寝癖がよくできますからねぇ。いちいちシャワーを浴びるのもめんどくさいですし。水で直そうとしても、簡単に直らない時もありますから。こういうのがあれば便利だなぁっと」
「授業もそれぐらい真面目にやってくれ」
「ぜ、善処します」
「よし、これで直った」
「では、直ったところで本題に入ります!!」
そういえば、俺に何か用事があって来たんだったな。なんとなく、アイナの荷物で察しはついているんだがな。
背負っていたリュックを地面に置き、その中から色んな液体が入っている瓶を取り出していく。
「色々とできたので、先生で実験、あいや! 見てもらおうと!」
「今実験って言ったよな?」
「……言いませんですよ?」
白々しい。俺は、ため息を漏らしながら近くにあった赤い液体が入っている瓶を手に取る。
「これは?」
「飲むだけで体がホット! 寒い日に必須の一品!! 『体が熱いぜ薬』!! ちなみに、あまり飲みすぎると体が燃えます」
「何を入れたんだ……」
魔界には、己の体に火を灯す奴が居たが、本来ならば火達磨で焼け死んでしまうだろう。俺は、体が熱いぜ薬を置いて、その隣にある緑の液体が入った瓶を手に取る。
「これは?」
「さっきの体が熱いぜ薬の逆で暑い日に必須の一品! 『体が冷たいぜ薬』!! ちなみに、飲み過ぎると体が凍ります」
「凍るのか?」
「おそらく」
本当に何を入れたんだ。魔法薬だから、なんでもありなんだろうが……。
「もっと、安全なものはないのか?」
「そうですねぇ、じゃあこの『やる気が上がるぜ薬』なんか」
その後も何度かアイナの開発した魔法薬の説明を受け続け、気づけば昼が過ぎていた。
★
「今日は、もう喫茶ブルーでいいか」
レイラに付き合っていたら、こんな時間に……。今頃は、俺が行こうとしていた店は満員だろうな。というわけで、イートン村にある喫茶店で食べることにした。
ちなみに、これから行く喫茶ブルーは。
「いらっしゃい……あっ」
「今日も手伝いか。偉いな、カトレア」
喫茶店に入ると、俺を出迎えてくれたのはエプロン姿のカトレアだった。さすがにフードは被っおらず、魔剣は背中に背負っている。
ここは、カトレアの親が経営している店だ。カトレアの親は、吸血鬼と人間。人間である父親が、この店を経営しているんだ。
「アレン先生。いらっしゃい」
「ああ、今日はここで昼を食べることにした。いつものを頼む、店主」
「わかりました。カトレア。先生に、お水を」
「……うん」
窓際の席に座り、俺は料理が来るのを待つことに。すぐに来たのは、水だ。当然持ってきたのはカトレア。接客にしては、無愛想な表情でテーブルに水が入ったコップを置いた。
「どうぞ」
「相変わらず、無愛想だな」
「愛想よくなんて、私には無理」
そうか? と首を傾げつつ水を一口。
「シルヴィと戯れている時は、いい笑顔を作っていたはずだが?」
「あれは、あの天使に付き合ってやっているだけ。それに、接客よりも遊んでいるほうが楽しいに決まってるから」
それは確かに、そうだな。接客をされる側からしたら、店員の笑顔は嬉しいものだ。粗末にされるよりだったら、笑顔で丁寧に接客をされたほうがいいだろう。
と、カトレアに教えたが、いまだに効果はないようだ。容姿は、完璧なんだが……。
「それに、こういう接客を喜んでくれる人もいるので」
「変わった思考の客もいるみたいだな」
「私、元々接客なんてやりたくないって思ってるし。お小遣いが欲しいから、仕方なくやってるだけだから」
「だとしても、手伝いをするのは偉いと思うぞ」
「……あっそ。それじゃ、私仕事があるから」
褒めたつもりだったが、子供に言うような感じだと思われたか? 褒めるのって……難しいな。




