8.初めての実戦
俺は、街人たちをかき分けて進むと、その前に躍り出た。
シャービルが目の前で、涎を垂らしている。歯がぎらぎらと光り、ふしゅう、という魔物の息遣いが聞こえた。
もう逃げられない。
これは夢とは違う。やられたら、本当に大怪我を負うってことだ。
悪くすれば、死んでしまうかもしれない。
「へ、足が震えてら……」
恐怖を吹き飛ばそうと、軽い口調で言ったつもりだった。しかしその声はか細く震えていた。
このままだと、足がすくんで動けなくなる。
動くしかない。そう思った。
だから俺は走った。
魔物の横をすり抜け、全力で駆けた。
とにかく、追いつかれないように走る。そしてヤツをどこか遠くへ連れて行くのだ。逃げ帰ってくればいい。戦う必要はない。街から遠ざければ、それでいい。そう思ったのだが――
シャービルは俺よりも、断然足が早かった。何メートルも行かないうちに、回り込まれてしまった。
「くそっ」
ヤツは歯を打ち鳴らせて、飛びかかってきた。
体勢を崩し、俺は倒れる。
あっという間に、馬乗りになられた。涎だらけの歯が、俺の頭上に迫る。俺は思った。またあの嫌な、がち・がち音だ。あーあ、最後に聞くのがこの音なのか……。
「セイヤ、あぶない!」
体が勝手に動いた。
気がつくと俺は「ひかり」を発動し、シャービルめがけて放っていた。一撃ではなく、何撃も、連続で。
それは、ポーティと何度も何度も特訓した成果だった。一撃目を外しても、あせらず、とにかく攻撃し続け、仕留めるのだ。そう教わっていた。
だが今回、それは一撃で決まっていた。初めに放った攻撃が、シャービルの面を斜めにパックリと切り裂いた。二撃目三撃目で、それは*の形に割れた。
どう、とシャービルが横ざまに倒れる。
俺は起き上がると、シャービルの残骸を見下ろした。
足はまだ震えている。アドレナリンが体中を駆けめぐるのを感じる。俺が、俺が、倒したのか?
村人の歓声が、どこか遠くから聞こえるような気がした。
「やったわね」
ポーティが言う。
俺は、こうして初めての実戦に勝利したのだった。