22.悲鳴
悲鳴が聞こえたのは、あっちだ。俺はできうる限りの速さで走った。確信はないが、シャービルの可能性は高い。だとすると、急がなければ誰かが犠牲になる。何とかしなければ。
暗い道を走っていくと、また悲鳴が聞こえた。
俺は力を振り絞って速度を上げた。あの角の向こうだ。
角を曲がると、そこには二人の人影があった。この二人は人間だ。そして、少し離れて、異形の化け物。やはり、シャービルだった。
シャービルは、今にも二人に襲いかかろうとしている。
俺は、二人の元へ駆けつけ、言った。
「逃げてください」
「でも……」
二人のうち一人は、女の子のようだ。震えた声を出している。
もう一人は地面に倒れている。大人の男性だが、ピクリとも動かない。瞼の間から白目が覗いて、口の端に泡がついている。気を失っているらしい。まったく、こういうとき男の方が情けないものなのか?
「きゃあ!」
女の子が叫ぶ。視線を振ると、襲い来るシャービルの姿が目に入る。
考えている暇もなく、俺は「ひかり」を発動させた。
一発目は外した。だが、二撃、三撃目を命中させた。
あの耳障りな鳴き声とともにシャービルが倒れる。俺は、近寄って、確かに死んでいることを確認した。
こいつらは絶命すると、そのうち勝手に消滅してしまう。この世界の生き物ではないからだろうか。
「よし」
そうつぶやいて、振り返る。
「あ」
そのときようやく気づいた。少女は明月ほたるだった。あの、歌手の明月ほたる。大きな瞳、セミロングの金髪、間違いない。
そう言えば、この辺でPV撮影やってるって、言ってたっけ……。俺は八神一の言葉を思い出した。
明月ほたるは震えながらも、心配そうに、倒れている男の顔をのぞき込んでいる。
「マネージャーさん、大丈夫?」
「うーん……」
マネージャーと呼ばれた男はうめき声とともに身じろぎした。どうやら大丈夫そうだ。怪我もしていないようだし……。
そのとき、近くでパトカーのサイレンが響いた。こちらの方向へ向かっている気がした。もしかして、このマネージャーが、倒れる前に警察に連絡したのか?。
警察? 俺は考えた。警察に何て説明したらいい? 異世界のこと、敵の存在、この力のこと…………。
やはりパトカーはこちらへ向かっている。間違いない。
俺にこの力があることがばれたらどうなる? 今まで通り放っておいてくれるだろうか。俺は普通に生活できるのか? それとも、危険とみなされて監禁される? あるいは実験台にされる?
くそ。まずい。何とかしないと。でもどうしたらいい?
「あ、あの」
俺は、隣で震えている明月ほたるに言った。
「俺のこと、警察には内緒にしといてくれないかな」
「…………?」
「お願い! じゃないとまずいことになるかもしれないんだ」
パトカーのサイレンが、すぐ近くで止んだ。俺はちらちらと曲がり角へ目をやった。今にも警察がやってくるかもしれない。はやく逃げないと。
「もう行くよ。ごめん!」
それだけ言って、俺は走り出した。
背後から送られる、明月ほたるの視線を痛いほど感じながら。




